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一語千金

AIIB(アジアインフラ投資銀行)

[Asian Infrastructure Investment Bank]
新しいクラブが誕生する

玉手義朗(エコノミスト)

「新規会員募集中!」と書かれたテニスクラブのチラシが駅前で配られていた。付近には古い歴史を持つクラブがあるが、テニス人気復活で大混雑、コートが取りにくくなっている上に、「敷居が高い」などの問題点もあり、新しいクラブに期待を寄せる人も少なくない。しかし、新しいクラブには運営方針に不透明な点があり、加入をためらう人もいるという。
「AIIB」(アジアインフラ投資銀行)も、新規に開設されるテニスクラブのようなものだ。AIIBはアジア・太平洋地域のインフラ整備事業に融資する目的で新設される国際開発金融機関。アジアには、1966年に日本とアメリカが中心となって創設した「アジア開発銀行」(ADB)があるが、経済の急拡大に伴う旺盛な資金需要に追いついていないのが現状だ。そこでAIIBを設立して資金供給を増やし、アジアの経済成長を加速させようというのである。急増したテニス人口を収容するには既存のクラブだけでは不十分であるため、新しいクラブを作ろうというのがAIIBの目的だ。
 しかし、AIIBには不信感が付きまとっている。中国主導の組織であるためだ。中国が設立を提唱、自らが最大の出資国となり、本部は北京で初代総裁も中国人が就任する予定となっている。金融機関においては、融資案件を厳密に審査した上で、融資するか否かを決定することが重要だ。しかし、中国が主導権を握ると、中国企業が受注する案件を優先するなど、その思惑に左右されかねないという心配がある。融資審査の透明性が失われれば、不公平が生じる上に、焦げ付きが発生して資金の出資者に損失が及ぶ恐れもある。新しいクラブに入ったものの、一部のメンバーにコートを独占されているようなら、入る意味がないというわけ。
 中国はこうした見方を否定、AIIBは十分な透明性を確保していると主張。むしろ、日米主導で歴代の総裁はすべて日本人というアジア開発銀行の方が不透明ではないかと反論している。
 アメリカは中国がAIIBを政治的に利用して、アジアにおける支配力を高めようとしているとして、その動きに神経を尖らせている。日本も同様の懸念から参加を見合わせているが、当初の予想に反して、2015年3月末の申請締め切りまでに、イギリスやオーストラリア、韓国などが参加を表明。創設メンバーは57カ国となり、アジア開発銀行に引けを取らない大きな組織となりつつある。新設されるテニスクラブの人気は上々で、既存のクラブに匹敵する存在感を見せ始めているのだ。
 こうした状況に、日本もAIIBに加わるべきとの意見も強まっている。AIIBに参加していないと、インフラ事業の受注競争で日本企業が不利な立場に立たされたり、仲間はずれにされたりする可能性があるという。また、AIIBからの脱退は自由なので、まずは参加して、内部から中国をけん制するほうが望ましいという声もある。
 もし、日本がAIIBへの参加を決めると、アメリカとの関係が悪化するとの懸念もある。その一方で、参加を見送ることで「仲間はずれ」にされることも考えられる。「入るべきか、入らざるべきか……」。中国が配っているAIIBの勧誘チラシを見て悩んでいるのが日本の現状なのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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