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一語千金

ヘリコプターマネー

[helicopter money]
究極のデフレ対策

玉手義朗(エコノミスト)

 クリスマスイブを翌日に控えた2003年12月23日、名古屋市内のテレビ塔から、1ドル紙幣など9000枚以上のお札がばらまかれた。「犯人」は株式投資で大もうけした男性で、「社会に利益還元しようとした」と、その理由を語ったが、もしそうなら慈善団体などへ寄付するのが普通のやり方だろう。常人の理解を超えたお札のばらまき…といいたいところだが、金融政策では真面目に議論が交わされている方法なのだ。
「ヘリコプターマネー」とは、中央銀行が大量の貨幣(マネー)を、まるでヘリコプターからばらまくように人々に直接供給するというもの。ノーベル経済学賞受賞者であるミルトン・フリードマンが「中央銀行が無制限に人々に貨幣を配ったらどうなるのか?」という“思考実験”の中で持ち出した。
 ヘリコプターマネーは、「究極のデフレ対策」とされている。貨幣価値が下落するインフレとは反対に、デフレは貨幣価値が過剰に上昇することでお金がため込まれ、消費や投資に回されなくなって不況を招いてしまう。そこで中央銀行はマネーサプライ(貨幣供給量)を増やして貨幣の価値を下げる金融緩和を進めることになる。しかし、貨幣の乱発防止と金融秩序維持の観点から、中央銀行は市場に出回る国債などを購入するかたちで売却元の民間銀行に資金を供給、そこから経済活動に使ってもらうという間接的な方法を取っている。この場合、増やした貨幣が民間銀行に滞留したままとなり、消費や投資に結びつかずに思うような効果が得られないことが少なくない。
 これに対してヘリコプターマネーは、より直接的な方法を取る。国債を購入するといったことは行わず無尽蔵に貨幣増発を続けると同時に、民間銀行に仲介させるのではなく、たとえば個人の預金口座に「1家族当たり20万円」など一定額を振り込んだり、金券や商品券を配ったりするなどの形で、人々の懐に直接お金をねじ込むのだ。また、受け取ったお金を人々がため込まないように、「6カ月以内に使わないと無効」といった使用期限などを付けて、強引にお金を使わせようとする場合もある。こうした方法なら、消費の拡大は確実になり、デフレ脱却も可能になるはず。社会に利益還元するなら、慈善団体に仲介してもらうよりも、お札を人々の頭上にばらまく方が効果的というわけだ。
 究極のデフレ対策とされるヘリコプターマネーだが、多くの危険性をはらんでいる。ヘリコプターからお札がばらまかれたら、人々は我先にと拾い集めるだろうが、これが恒常的に行われるようになれば、お札はその価値を失い、やがてハイパーインフレーションに陥る。「お札で鼻をかんだ」という第一次世界大戦後のドイツで起きたハイパーインフレーションのように、ヘリコプターからまかれたお札に、「ごみをまくな!」と、人々が文句を付ける状態になり、貨幣経済が崩壊する恐れがあるのだ。
 大きな危険性をはらむヘリコプターマネーだが、前FRB(連邦準備制度理事会)議長で優れた経済学者でもあるベン・バーナンキなど、これを支持する専門家も少なくなく、その是非を巡る論争が続いている。
 バーナンキがヘリコプターマネーの実践を勧めたのが、デフレに苦しむ日本だった。日銀総裁がスカイツリーに登り、1万円札をばらまけば、デフレから脱却できるのか? 「異次元の量的緩和」が手詰まりとなる中、次に来るのはお札をばらまくヘリコプターなのかもしれない。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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