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一語千金

株主損害賠償請求訴訟(証券訴訟)

[The damages suit by the shareholder / securities litigation]
損したカネを返せ!

玉手義朗(エコノミスト)

 筆者が高校生の時に、お気に入りのアイドルがいた。キュートな容姿と清純な雰囲気にひかれて写真集まで買ったが、その直後に未成年での喫煙と飲酒、さらには「不純異性交遊」まで発覚して芸能界追放となってしまった。裏切られた気分になって、写真集は捨ててしまったが、本当は「カネ返せ!」と言いたいところだった。
 アイドルにウソをつかれた場合は無理だが、株式取引においては「カネ返せ!」という要求が認められることがある。「株主損害賠償請求訴訟(証券訴訟)」を起こすのだ。この訴訟は、企業が粉飾決算などの違法行為を行った結果、株価が下落して株主が損失を被った場合に、損害賠償を求めるというもの。ウソをついて株式という「写真集」を買わせたのだから、返金して欲しいというわけだ。
 株主損害賠償請求訴訟の相手は企業本体の他に、企業の経営者(取締役)個人、粉飾決算の場合には不正を見破れなかった監査法人が対象になることもある。訴訟の根拠となるのは、金融商品取引法の「虚偽記載」や民法の「不法行為」などだ。
 株主損害賠償請求訴訟は、「株主代表訴訟」と混同されることが多い。企業の不正行為で生じた損害賠償を株主が求めるという点では同じだが、決定的に異なるのは賠償金の支払先だ。株主代表訴訟では、賠償金は訴えた株主ではなく、会社に支払われる。一方、株主損害賠償請求訴訟では、訴えを起こした株主に賠償金が直接支払われる。株主代表訴訟は、会社に損失を与えた経営者に賠償を求めるもので、株主個人の利益ではなく会社全体の利益を守るために一部の株主が代表して訴訟を起こすもの。これに対して株主損害賠償請求訴訟では、賠償金が支払われるのは訴えた人だけ。「カネ返せ!」と、文句をつけた人だけに返金されるのが、株主損害賠償請求訴訟なのである。
 株主損害賠償請求訴訟は、株価の下落に伴う損失額の算定や、不法行為の認定など、裁判を進める上でのハードルが高く、簡単に認められるものではない。決算で虚偽記載をしていた西武鉄道や粉飾決算をしていたライブドアでは賠償が認められたが、牛肉偽装事件に関連して雪印食品を訴えた株主は敗訴している。株主損害賠償請求訴訟の実例は少なく、なかなか広がらないのが実情なのだ。
 こうした中で、注目を集めているのが、不正会計問題を引き起こした東芝に対する株主損害賠償請求訴訟だ。問題発覚後に株価が急落し、大きな損害を被ったことから、一部の株主が訴訟の準備を進めている。株主が勝てば巨額の賠償金支払いが発生する可能性があるだけに、今後の展開が注目されている。
 ファンを欺いたら写真集の買い取りを迫られるとなれば、アイドルのウソも素行不良も減るに違いない。実際に賠償金が得られるかどうかにかかわらず、株主損害賠償請求訴訟の存在は企業の不正行為の抑止力になるのは間違いないだろう。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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