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一語千金

初値(株式上場)

[initial share price]
「新人株式」のデビュー戦

玉手義朗(エコノミスト)

 2014年4月4日、田中将大投手が初めて大リーグのマウンドに立った。大リーグ史上5番目となる1億5500万ドルもの契約金を支払ったヤンキース関係者は、それに見合うだけの活躍を田中投手に期待して、その投球を見守った。結果は7回3失点8奪三振で見事に勝利、関係者はほっと胸をなでおろしたのだった。
 15年11月4日、日本政府も同じような思いを抱いたに違いない。日本郵政グループ3社が、東京株式市場で見事にデビュー戦を飾ったのだ。日本郵政グループ3社は、日本政府が育て上げた「大型新人」で、株式市場という「球場」に鳴り物入りで登場した。幾らの株価がつけられるのか? デビュー戦の結果である「初値」には多くの投資家の注目が集まった。
 初値とは、株式公開IPO ; Initial Public Offering)によって株式市場に上場された株式の最初の売買でついた株価のこと。売り出し価格である公開価格より高いか安いかで評価される。公開価格は「ブックビルディング方式」などによって算出された事前の評価で、プロ野球選手の契約金に相当する。しかし、真の価値は実際に試合をしてみないと分からない。株式市場の取引という試合で決められた初値が、契約金である公開価格を超えるかどうかがポイントとなるわけだ。
 3社の初値は日本郵政が1631円(公開価格1400円)、ゆうちょ銀行1680円(同1450円)、かんぽ生命2929円(同2200円)と、いずれも公開価格を大きく上回った。期待を超えるデビュー戦の好結果に、生みの親である日本政府も「郵政3社への国民の期待の表れで歓迎したい」(菅義偉官房長官)と、満足を表明した。
 日本の株式市場において最も注目された初値は、1987年上場のNTT株式だ。公開価格の119万7000円に対して初値は160万円、「大型新人」の誕生に株式市場は熱狂し、バブルを膨張させていった。
 最近では、株式市場の大リーグであるアメリカのニューヨーク株式市場で、「中国人選手」が驚きのデビューを果たした。中国の電子商取引最大手「アリババ集団」が14年9月19日にニューヨーク証券取引所に上場、68ドルだった公開価格に対して初値は92ドル70セントをつけた。初値から計算した企業価値である時価総額は2300億ドル(約25兆円、当時)で、トヨタ自動車(約22兆円、同)を上回るなど、新人選手がいきなり世界的なスター選手となったのだ。
 もちろん、すべての新人選手が順調なデビューを果たしているわけではない。1994年に上場されたJT(日本たばこ産業)の初値は、公開価格の143万円を下回る119万円。大きな期待を背負って登板したものの、相手打線に打ち込まれて負け投手になってしまった。
 しかし、初値はあくまでもデビュー戦の結果であり、上場された株式はその後も激しい戦いを続けていく。公開価格を大きく上回る初値をつけたものの、その後は株価が下落し、最終的には経営破たんという「引退」に追い込まれる企業も少なくない。
 デビュー戦で勝利を飾った田中投手も、その後はケガで長期にわたって戦線を離脱したことから、評価を落とすこととなった。公開価格を大きく上回る初値をつけて順調なスタートを切った日本郵政グループだが、本当の戦いはこれからなのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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