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なぜ野菜は変色するのか?

内田麻理香(サイエンスライター/サイエンスコミュニケーター)

 色とりどりの野菜や果物にとって、やっかいなのが「変色」です。下ごしらえのときに酢水につけたり、塩の入ったお湯でゆでたりと対策はさまざまですが、どの食材にどの方法を使えばいいのか、混乱してしまいますよね。そこで、今回は野菜や果物の「色止め」を科学してみましょう。

「ポリフェノール食品」であるゴボウやリンゴを切ったまま放置しておくと、茶色く変化してしまいますが、これを「褐変(かっぺん)」と呼びます。これらの野菜や果物の細胞内には「ポリフェノールオキシターゼ」という酵素が存在しており、空気に触れることで色素成分となるポリフェノールと反応してしまう現象です。先に挙げたゴボウやリンゴだけでなく、なす、ジャガイモ、サツマイモ、アボカド、桃などもすべてポリフェノールを含む食品であるため、空気に触れることで酵素と反応して褐変してしまいます。

 では、そもそも酵素とはなんでしょうか? 酵素は、人間をはじめ、動植物などの生体で起こる化学反応を活性化させる分子です。このように反応を活発にさせる分子を「触媒」と呼びますが、なかでも生体内で働く触媒は「酵素」と呼ばれています。酵素は、カルシウムやナトリウムなどのミネラルのまわりに、たんぱく質が巻き付いた状態になっており、中心になるミネラルの種類やたんぱく質の巻き付き方によって、約3000種類もあります。そして、一つの酵素は一つの仕事しかできないというのが特徴です。

 例えば、パパイヤ、納豆、マイタケなどに含まれているプロテアーゼという酵素がありますが、これはたんぱく質をアミノ酸に分解する酵素です。また、とうもろこしや落花生に含まれるリパーゼという酵素は、脂肪を脂肪酸に分解する働きを持っています。このように一つひとつの酵素が自分の担当した仕事だけを行う「専任制」になっています。

 さて、褐変の「色止め」の話に戻りましょう。褐変を防ぐには、酵素(ポリフェノールオキシターゼ)と反応させないことが鍵になります。そのために、大きく3の対処法があります。まず、ポリフェノールを水によくさらして洗い流すことで褐変を防ぐ方法が挙げられます。これは、水にさらしても組織が壊れにくいジャガイモやサツマイモなどに有効です。2つ目に、酢、レモンまたは酢水につけて食材を酸性にすることで酵素の働きを低下させるという方法があります。これは、ゴボウやレンコン、なす、アボカドなどに適した方法です。そして、食塩水につける方法があります。リンゴを食塩水に浸したことはありませんか? それがまさにこの方法で、桃にも応用できる色止めです。これらの3つの対処法はすべて酵素(ポリフェノールオキシターゼ)との反応を防ぐ点で共通しています。

 しかし、酵素とは関係のない褐変反応もあります。皆さんは青菜をゆでるとき、熱湯に塩を加えていることでしょう。青菜の中には緑色の色素成分、クロロフィルが入っており、長時間加熱するとクロロフィル分子内のマグネシウムがはずれて茶色く変色してしまいます。青菜を短時間でさっとゆで、加熱をすみやかに止めるために水にさらすことによって色止めすることができます。では、なぜ塩を加えるのかというと、秘密があります。塩は塩化ナトリウムですから、その中のナトリウムがクロロフィルのマグネシウムと一部置き換わることで、褐変反応を抑えることができるというわけです。

 色鮮やかな野菜や果物をより美しくしあげるための「色止め」の科学。褐変反応の理由がわかると、料理の下ごしらえの大変さが少し軽減されるように思えませんか?

著者情報

サイエンスライター/サイエンスコミュニケーター

内田麻理香

うちだ まりか

1974年千葉県生まれ。東京大学工学部、同大学院修士課程修了。科学の視点で生活を分析するサイト「カソウケン(家庭科学総合研究 所)」主宰。東京大学工学部広報室特任研究員を経て、現在、テレビ、ラジオ、新聞を通して「生活の中の科学」を分かりやすく紹介するサイエンスコミュニケーションにたずさわっている。主な著書に『科学との正しい付き合い方』(2010年、ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

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