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“普通の日本人”のあいまいな不安 第2回 東西格差のもと、極右政党が躍進するドイツの「自国ファースト」

東京大学教授・板橋拓己さんに聞く

雨宮処凛(作家、活動家)

 よって現実的に「仕事をとられる」状況にはないという。では、住宅問題とか? オランダでは、公営住宅の入居が数年待ちの一方で、身寄りのない難民はすぐ入れることなどから反感が高まっていると聞くが。
「オランダやデンマークほどかはわかりませんが、ドイツでも住宅問題は深刻です。特に大都市では家賃高騰や住宅不足が大問題となっています。その一方で難民は公的な施設に入れたりするので、『なんで自分たちの税金であいつらの住宅を用意しなきゃいけないんだ』みたいな言説はあります」

雨宮処凛氏

ドイツの選挙でも起きていた争点のハック

 そのような不満を受け皿に一気に支持を拡大した「ドイツのための選択肢」(AfD)だが、25年2月の選挙での躍進について、板橋さんは「メディアで争点が外国人問題にハックされた(乗っ取られた)」ことが、参政党が躍進した参院選とよく似ていると指摘する。
「ドイツの25年の選挙の当初の争点は、間違いなく停滞が続く経済でした。それが最後の2カ月で、あっという間に移民・難民問題に乗っ取られたんです」
 昨年7月、日本の参院選で起きたことと同じだ。昨年6月頃まで、この国には、国政選挙であらゆる問題を差し置いてまで争点になるような“外国人問題”なんて、影も形もなかったのである。6月頃まで参院選の争点は「政治とカネ」であり「給付か減税か」であり、物価高騰だった。また、石破総理(当時)は25年に入ってからロスジェネ対策に本腰を入れる姿勢を見せ、関係閣僚会議では本格的な議論が進んでいた。このことから、私も多くのメディアに「参院選の争点としてのロスジェネ問題」に関して取材を受けていた。
 が、選挙が始まった途端、すべてが「日本人ファースト」に塗り潰された。自民党は突然「違法外国人ゼロ」を掲げ、国民民主党は「外国人に対する過度な優遇を見直す」とぶち上げた。そうして突然、本当に何かのタガが外れるように、人々のあらゆる不満が外国人に向けられた。
「最近、外国人がのさばってデカい顔してるんで」
 参院選直後、テレビの街頭インタビューで若者がそう口にするのを見て絶句した。そんな言葉、1年前どころか1カ月前にも聞いたことがなかったからだ。というか、思っていたとしてもそれは公には「言ってはいけない」ものだった。しかし、排外的な言説へのハードルは、参院選を通して恐ろしいほどに、下がった。
 このように、日本の場合は「日本人ファースト」という言葉がパンドラの箱を開けたわけだが、ドイツでは「争点がハックされる」にあたり、何があったのか。
「いくつか事件がありました。まず24年12月20日、クリスマスマーケットに車が突っ込む事件があり、25年1月22日、アシャッフェンブルクで幼児らが殺傷される事件が起き、同年2月13日、ミュンヘンで労働組合のデモに車が突っ込む事件が起きました。これらの事件の犯人の背景はさまざまですが、“移民・難民の犯罪”と一括りにされ、メディアで大きく報道されました」
 当然、極右勢力もこれを煽る。
 そんな中、世論調査に現れる数字も変わっていく。25年1月の第1週、「最も重要な政治課題」として「移民・難民」を挙げた人は前月から14ポイントも増えて37%に。「経済」を超えて首位となったのだ。
 このことは、あれほど「外国人問題」が煽られたにもかかわらず、「外国人に関する政策」を投票でもっとも重視したと答えたのはわずか7%、という日本とは対照的だ。ちなみにこれは読売新聞の出口調査(読売新聞オンライン、2025年7月21日)。これによると、有権者が投票でもっとも重視した政策は「物価高対策・経済政策」で46%だった。

 さて、このような経緯でAfDは躍進したわけだが、参院選での参政党の躍進を目にして、板橋さんは「イシューオーナーシップ」という言葉が浮かんだという。
「政治学の言葉ですが、ある政党が自他ともに得意と認めるイシュー(争点)を獲得している状態を指します。この争点に関してはこの政党だっていうイメージってとても大切で、例えば『手取り』と言えば?」
 国民民主党。
「『移民』と言えば?」
 参政党。
「こういうイメージって重要で、移民・難民が話題になればなるほど、その看板政党が得をする。政治学で最近よく言われている話なんです」
 確かにそれは、すごくある。高市早苗総理は就任以降、外国人政策に幾度も言及し、25年11月以降、外国人政策に関する関係閣僚会議を開催。そのようなことが報じられるたびに、参政党の株が上がっていくような感覚がある。
 ドイツの話に戻ろう。躍進の背景にあったのはそれだけではない。移民・難民問題がクローズアップされる中、当時野党だったメルツ現首相の「キリスト教民主同盟・社会同盟」が、移民受け入れを厳格化する動議と法案を提出。これにAfDが賛成し、共闘する形となったのだ。
 まさかの極右と「協力」するという「手段を選ばない」メルツの策動には多くの批判の声が上がり、2月、ドイツ各都市で大規模な「右傾化反対デモ」が起きる。参加者は、ベルリンだけで実に16万人。極右台頭の陰で、このような動きがあることには勇気づけられるではないか。

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。作家、活動家。反貧困ネットワーク世話人。バンギャル、右翼活動家を経て、2000年に自伝的エッセー『生き地獄天国』でデビュー。自身の経験から、若者の生きづらさについて著作を発表する傍ら、イラクや北朝鮮へ渡航を重ねる。その後、格差や貧困問題について取材、執筆、運動を続ける。『生きさせろ! 難民化する若者たち』でJCJ賞受賞。著書に『一億総貧困時代』『「女子」という呪い』など多数。

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