「日本人ファースト」以降のこの国で起きていることと、世界各国の「移民排斥」「自国第一」の動き
雨宮処凛(作家、活動家)
難民申請中の強制送還はしないのが国際的なルールである上、送還された子どもたちは日本生まれ、もしくは幼少期に来日し日本育ちで母語は日本語。突然「送還」されても「母国」には行ったこともなく、言葉もルールもわからない。そんな場所に送還されるのは酷すぎるという理由だ。
「不法滞在者」と言われる中にはこのような子どもが含まれているわけだが、排外的な世論をバックにつけた出入国在留管理庁(入管庁)は、これからも強制送還を強行することが予想される。
そうして10月12日、北海道札幌市で移民政策反対デモ(鈴木直道知事リコール、反メガソーラー、中国に土地を売るな、水資源、土地を取り戻せなど論点はたくさんあったようだ)が開催され、26日には東京、大阪、福岡、愛知、山形、愛媛、茨城、栃木、埼玉、千葉などで全国一斉の移民反対デモが行われたというのがこの4カ月をざっと振り返っての流れである。
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さて、では世界はどうなのかといえば、残念ながらあらゆる国で排外主義が台頭している。
ドイツでは今年2月、連邦議会選挙で移民排斥を訴える極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が第二党に躍進。
イギリスでは移民に厳しい姿勢を見せる「イギリス改革党」が支持率30%とトップに。
フランスでも極右政党「国民連合」が存在感を示し、イタリアではジョルジャ・メローニ政権が移民規制を進めている。
ちなみに「日本人ファースト」という言葉は「差別だ」「問題にする方が差別だ」と平行線が続いているが、世界を見渡せば、同様の主張をしている政党、政治家は少なくない。
トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」をはじめ、イギリスにはそのまんま「ブリテン・ファースト」という名の極右政党がある上、デンマーク国民党が掲げるのは「デンマーク人第一」。ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は「自国第一主義」を掲げ、移民排斥やLGBTQの権利を制限するような政策を打ち出している。また、反外国人や反ユダヤ主義を掲げる複数の極右集団を起源とするスウェーデン民主党も「スウェーデン人のための福祉国家の再建」を訴えて支持を伸ばしている。
一方、世界でも移民反対デモは開催されている。
8月31日にはオーストラリア各地で大規模な反移民デモが開催。極右集団が先住民の聖地を襲撃。
9月13日にはイギリス・ロンドンで反移民デモが開催。15万人が参加したと報じられる。そんなイギリスでは24年、殺人事件の犯人がイスラム系移民という誤情報が広まった果てに、難民申請者が宿泊するホテルが襲撃されるなど各地で暴動が発生、一連の事件での逮捕者数は1000人以上に及んだ。
そうして10月には、チェコでポピュリスト政党が第一党になったことが報じられた。アンドレイ・バビシュ党首は「チェコのトランプ」と呼ばれる人物だ。
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さて、トランプ氏が大統領に就任してから10カ月のアメリカも凄まじい。
長い時間をかけて人々が積み上げてきた民主主義や人権といったものをブルドーザーで引き潰していくようなことが次々と起きている。反DEIや移民排斥、LGBTQの否定や気候変動完全スルーと、一気に時代が逆戻りしているような様相だ。
具体的にはハーバード大学への助成金の停止や留学生の入国制限。またUSAID(アメリカ国際開発局)への予算・人員削減は、イラクなどで人道支援活動をする私の知人にも大きな衝撃を与えた。さまざまなNGOの支援がストップし、これまでの取り組みが泡と消えるような状況だという。
そんなアメリカでは、「不法移民」摘発に1日3000人というノルマが課せられていると報じられている。
9月4日、その網に日本人もひっかかるということが起きた。アメリカの韓国企業の工場で、不法就労の疑いで475人が拘束されたのだ。多くが韓国人だったが、日本人も3人含まれていた(ビザを持っていたにも関わらず)。拘束は1週間にわたり、9月12日、330人が無事帰国したものの、アメリカに住む外国人の緊張は高まっている。
9月10日、保守活動家のチャーリー・カーク氏が殺害される事件があってからは、トランプ大統領はさらに暴走。
ABCテレビで司会者ジミー・キンメル氏が「MAGA派(トランプ支持者)は容疑者を自分たちの仲間ではないことにしようと必死で事件から政治的利益を受けようとしている」と発言すれば、番組は無期限休止に(多くの抗議の声が上がったことにより6日後、再開)。また自らに否定的な報道をする放送局の放送免許取り消しを示唆し、反ファシズム運動「アンティファ」を国内テロ組織に指定。捜査や解体を進めるよう関係機関に命じる大統領令を発出。また、SNSで生前の氏の言動に否定的に触れた教員などに怒涛のキャンセルが相次いでもいる。
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ざっと日本と世界で起きていることを振り返ったわけだが、ここまで見てきてわかるように、「移民排斥」的な動きは現在、世界のあちこちで起きていることでもある。
日本がヨーロッパと違うのは、外国人の数がわずか3%であるということ。圧倒的に少数だから、この国では一気に移民排斥など進まないだろうと私はどこかで楽観していた。
しかし、空気なんてたった一言である日突然、変わるのだ。
「外国人問題」などなかった頃のこの国を思うと、戦争ってこんなふうに始まるんだな――としみじみ思う。もちろん、今年の5月以前にも在特会デモやクルド人ヘイトなどがあったわけだが、これほど広範囲の人々に、これほどの憎悪――グラデーションの濃淡はあれど――が広がるとは思っていなかった。
そんなことをどこかで予想していたからだろう。私は昨年、自著『難民・移民のわたしたち これからの「共生」ガイド』(河出書房新社、2024年)いう本でこの国で暮らす外国人や支援者、移民の専門家などに取材している。
そこで知ったのは、世界中で移民問題は起きているものの、「この国はこういう形で解決した」というモデルはまだひとつもないということ。私たちは、世界で誰も解き方を知らない方程式を前にトライアンドエラーを繰り返している真っ最中なのだ。
ただ、ここまでの国々で共通するのは、移民排斥の主張が、その国で暮らす人々の不満の受け皿になっているということだろう。
もうひとつ、政治家にとっては、大事なことから目を逸らさせ、手っ取り早く支持率を上げる「金の鉱脈」でもあるということだ。
もちろん、投機など規制が必要なところはすべきである。また、他の国々と違ってこの国は「移民政策はとらない」という政府の建前のもと、外国人を入れつつも言語習得やルール周知などの社会統合策を放棄してきたという問題も見直しが必要だ。
そうした基礎を固めながら、この国がどんなビジョンを掲げるのか。そんなスタートラインから始めるしかないのだろう。
以上、「日本人ファースト」からたった数カ月で、ここまで変わった記録である。
半年後、1年後はいったいどうなっているのだろう? 想像もつかない。