「日本人ファースト」以降のこの国で起きていることと、世界各国の「移民排斥」「自国第一」の動き
雨宮処凛(作家、活動家)
2025年の参議院議員通常選挙(参院選)が終わって、早や4カ月が経った。
私はこの4カ月を、「日本人ファーストという言葉をきっかけにしてパンドラの箱が開いた月日」だと思っている。
箱の中には何が入っていたのかといえば、剥き出しの排外主義だ。
それが「失われた30年」の中、鬱屈の中にいたこの国の人々の何かに着火した。そうしてこの4カ月、燎原の火のように差別とデマがあらゆる場所で咲き乱れ、全国各地で11年の「脱原発デモ」ほどの勢いと広がりで「移民政策反対デモ」が開催されている。
ここで今年5月のことを思い出してほしい。
5月に話題になったことと言えば、広末涼子氏が芸能活動を休止したことだったり、埼玉県八潮市の陥没道路から遺体が発見されたりといったことだった。テレビでは外国人観光客が日本旅行を楽しむ様子などが放送されていたものの、それに憎しみをぶつける人を見かけることはほぼなかった。
明らかに潮目が変わったと思ったのは6月はじめ、東京都板橋区のマンションのオーナーが中国系企業に替わり、それによって家賃が突然2.5倍になったとさかんに報じられたあたりではないか。エレベーターもストップし、すでに退去している住民もいるだけでなく無届け民泊として使用されているという報道が続いた頃。
今まで燻っていたものに急に火がついた気がした。以降、「外国人」に対するネガティブな投稿をSNSで見かける機会が急増した。
観光客のマナーをはじめとして、違法民泊やホテル代の高騰、外国人資本家による不動産投資などなど、様々な場所で突如として不満が噴出。声優の林原めぐみさんのブログ(外国人を外来種になぞらえた表現などが批判を浴びた)が炎上したのもこの頃だ。
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同時期、アメリカでは移民取り締まりに抗議するデモ隊を鎮圧するためドナルド・トランプ大統領が州兵を派遣。連日のように「暴徒化するデモ隊」や「燃やされる車」の映像が拡散された。
私はこの頃(厳密に言えば6月10日)、まったく政治に触れなかった複数の、それぞれに関係のないアカウントが突如として「日本が乗っ取られる」などと言い始め、参政党を推し始める、という光景を目にした。「何が起きている?」と戦慄したものの、その背景に、「失われた30年」で衰退し続けるこの国の先行き不透明さや、3年にわたる物価高騰で米すら手に入らない状況、そんな自分たちには決して手の出ないものを「安い」と消費していく外国人観光客へのモヤモヤが透けて見えた。「日本人ファースト」という言葉が、そんな人々の漠然とした不安にぴったりハマったようだった。
そうして6月15日、参政党が3つの市議会議員選挙でトップ当選。その翌週の東京都議会選挙では初めて3議席を獲得。4人立候補したうちの3人が当選という「快挙」だった。
さらに7月20日投開票の参院選にて14議席を獲得したという流れである。
この選挙では、他の政党も参政党に負けじとばかりに「違法外国人ゼロ」「過度な外国人優遇を見直す」などを掲げ、突如「外国人問題」がこの国の一丁目一番地の最優先課題であるかのような空気が作られた。
それだけではない。10月4日投開票の自由民主党総裁選では、総裁選前に茂木敏充氏が「違法外国人ゼロ」を掲げてクルド人が多く住む埼玉県川口市のコンビニなどを視察。また、所見発表演説では高市早苗氏が、外国人観光客が奈良の鹿を蹴り上げているなどの発言をした。総理大臣になるかもしれない人物が、何度も繰り返し全国放送される場で取り上げたことで、「外国人問題」は決定的に既成事実化してしまった。
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ちなみに読売新聞の参院選出口調査によると、有権者が投票でもっとも重視した政策は「物価対策・経済政策」で46%、「外国人に関する政策」はわずか7%。
しかし、「外国人問題」を煽る空気によって、この国ではこれまでにないことが次々と起こり始める。
6月末には博士課程の学生への生活支援に留学生も含まれることが問題視され、日本人限定となる。
8月末にはJICA(国際協力機構)の「アフリカ・ホームタウン」騒動が勃発。地域活性化や人材交流を目的に、愛媛県今治市がモザンビーク共和国、千葉県木更津市がナイジェリア連邦共和国、新潟県三条市がガーナ共和国、山形県長井市がタンザニア連合共和国のホームタウンに認定されたのだ。といっても、交流を深めるという程度のもの。
が、ナイジェリアなどが「日本が特別ビザを用意する」という誤った情報を発信したことにより「アフリカから移民が押し寄せる」「日本人女性がレイプされる」という声がSNSに溢れ、各自治体には数千件の抗議が届く結果に。JICA前では「移民反対」を掲げるデモが開催され、同時期、大阪でも移民政策反対デモが開催される。以降、移民政策反対を掲げたデモは全国各地に増殖。参加者も続々と増えていく。
そんなアフリカ・ホームタウン事業、9月25日には事業撤回と発表。
9月に入ると、大阪・関西万博で来日中に失踪したエチオピア人女性の難民申請が報じられ、「万博で来たのに日本に居座ろうとしている」「難民申請を悪用している」などと事実に基づかない形で取り上げられる。
これに対し、「NPO移住者と連帯するネットワーク」「外国人人権法連絡会」「全国難民弁護団連絡会議(JLNR)」が連名でテレビ朝日に申し入れ書を提出。女性は難民条約上の難民に該当する可能性は相当程度存在すること、番組が差別偏見を助長するものであることなどを指摘。申し入れ書で問題とされた動画や記事は現在削除されている(が、他媒体の報道は残っている)。
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そんな9月には4日頃からSNSで「東京都エジプト合意」が話題に。都がエジプトの経済団体と結んだ雇用に関する合意書をめぐり、「東京都は移民を受け入れるのか」と反対の声が上がった形だ。都には電話やメールの問い合わせが相次ぎ、12日以降、都庁前では「東京都エジプト合意撤回デモ」が開催されるように。
同時期、テレビでは「アニメ『SLAM DUNK』の聖地」に押し寄せる迷惑な外国人観光客、トランクを放置して帰国する困った外国人観光客といった話題が明らかに増えてくる。
9月18日、宮城県の村井嘉浩知事がイスラム圏の人々のための土葬墓地の整備を撤回。
その数日後にはSNSで「イスラム教徒に配慮した給食」が話題に。誤情報が拡散された結果、福岡県北九州市の教育委員会に「少数のムスリムのために対応をするのか」など1000件を超す抗議が殺到。市教委は会見を開き、「決定した事実はない」と説明。
9月22日頃には福岡県福岡市で「移民マンション」が建設されると話題に。こちらも誤情報だったが、「入居者の大半が中国や台湾で永住希望」などの情報が拡散され、県には約100件の苦情が寄せられた。
そうして9月22日に告示された自民党総裁選での「ヘイト合戦」のような様相は先に書いた通り。
9月27日には、北海道札幌市でインド系インターナショナルスクール建設についての住民説明会が反対の声で「大荒れ」となり、警察が出動する事態に。
そんな中、9月30日にはここまでの外国人排斥をいさめるような動きがある。韓国訪問中の石破茂総理が、ある人の墓参りをするのだ。その人は、イ・スヒョンさん。01年、JR新大久保駅(東京・新宿区)で線路に転落した日本人男性を助けようとして亡くなった人だ。イさんの墓前に献花した石破総理は、排外主義に抗う姿を見せたと話題になった。
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10月に入ると、秋葉原(東京・千代田区)にモスクができるとSNSで騒ぎになり、また10日には「不法滞在者ゼロプラン」に基づき強制送還された外国人が119人であることが発表される。
「ルールを守らない外国人に係る報道がなされるなど国民の間で不安が高まっている」として5月に打ち出されたこのプラン、一言でいえば「強制送還キャンペーン」だ。そんなゼロプランに基づいて今年6〜8月に送還されたのが119人。前年同期は58人なので倍以上。
もっとも多いのはトルコで34人(大半はクルド人と思われる)。ついでスリランカ、フィリピン、中国と続くのだが、送還されたうちの3割、36人が難民申請中であること、また、1〜8月に送還された中には18歳以下の子どもが7人含まれることが人道上、問題ではという声が上がった。