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連載

変革への闘い

「キューバに生きる」1 変わるキューバ、変わらないキューバ

工藤律子(ジャーナリスト)

 家庭でのパソコン利用も普及してきた現在、娯楽のかたちも変わった。90年代は、国営放送チャンネルでテレビドラマをみるのが家族で過ごす夜のひとときの楽しみだったが、今やパソコンで海外のドラマや映画、ゲームを楽しむ人が増えている。かつて流行った海賊版DVDは、徐々にUSBメモリやハードディスクに置き換えられている。若者たちは最新の海外映画やドラマ、ゲーム、コミックなど、様々なデータが入った「パケーテ(バッケージ)」を販売する自営店に、自分のハードディスクやUSBメモリを持っていき、データ量によって料金が異なるパッケージを購入、ダウンロードしてもらう。それを何人かでシェアするのが、今どきの娯楽の手段だ。
 ネットを使った対戦ゲームに興じる若者も多い。ただし、対戦相手は、地域でアンテナを立て、無線アクセスポイントを設置したり、ケーブルを張り巡らせたりして繋がったローカルなネットワークの仲間同士だ。世界中と繋がっているわけではない。インターネットは1時間約108円と、キューバ人には高いからだ。最新のゲームをしたり、仲間と情報のやりとりをしたいと考えた若者たちが、維持費を出し合い、手に入る機器と技術を駆使して、ローカルなネットワークをつくっている。ハバナにある最大のネットワークには、約3万人が参加しているという。(ただし、7月末に出た新たな通信法により、そのネットワークは、政府の管理下に置かれようとしている。)
 ネットワークや「パケーテ」の中には、「ネットショップ」のようなものもある。といっても、カード決済で商品を購入するわけではなく、会員が売りたいものをアップし、買いたい人が直接、その人に連絡をとって受け渡しをするフリーマーケットのようなものだ。「携帯やPCの周辺機器なども、店より安く手に入る」と、利用者には好評を得ている。
 若者だけでない。ディアス・カネル大統領も、インターネットを駆使している。@DiazCanelBというツイッターアカウント名で、毎日2〜3回はツイートする。フォロワーは20万1000人と、6672万9000人のトランプ大統領には到底敵わないが、社会主義諸国の国家元首の中ではほぼ唯一のツイッター活用者だ。

パソコンを駆使して、写真の加工やグラフィックデザインをする仕事も。(ハバナ市内)撮影:篠田有史

新しい経済の模索

 ネットの普及により、個人が得られる情報に幅ができた。それによって、経済に関する知識や関心も変化してきている。例えば、ビットコインにハマっている者もいるという。
「知り合いの中には、ビットコインの情報集めに夢中になりすぎて、いつも眠たそうな顔をしている人もいる」
 そう苦笑するのは、先述の大学生ユーヒだ。キューバでは、仮想通貨を購入し、それでネットショッピングをしたり、資産を増やそうと試みたりする人も登場している。仮想通貨は、国家や世界の金融機関による規制や枠を超えて経済活動を行うことを可能にする。これまでとは全く異なる経済世界だ。キューバ政府自体が、そのメリットを研究しているとも聞く。
 しかし、そもそも仮想通貨の利用は、これまでのところ投機的な性格が強く、社会主義の理想からは遠くかけ離れている。国家による管理が強い経済体制下に暮らすキューバ人の間で、自由な投資や利潤追求ばかりが広まることは、市場経済の導入が始まって以来、批判されてきた「貧富の差の拡大」に、拍車をかけることにもなりかねない。ネットでゲームを楽しむユーヒや、自営業でレストランを営むアリスティデスでさえ、一部の人間だけが金持ちになるのは良くないと考えている。資本主義経済の仕組みをただ取り込むことは、キューバにふさわしい経済再建の道とは言えないだろう。

 かといって、今のまま、自営業を少しずつ増やし、90年代から力を入れてきた観光業で外貨を稼ぐだけでは、それ以外の職を必要としている国民や低収入の国営部門の労働者にとって、厳しい生活の解決策にならない。だからこそ、国を離れ、米国や欧州などの「先進国」に働きに行こうとする人が後を絶たないわけだ。もっと別の方法で経済を活性化し、皆が豊かに暮らせる自由で平等な社会を築く方法はないものだろうか。

店で買えるモノの種類や量が少なく値段も高いなか、独自に手に入れたモノなどを道端で売る人たちもいる。(ハバナ市内)撮影:篠田有史

 その問いは、実は日本に暮らす私たち自身への問いでもある。無論、私たちの大半は、キューバ人のように様々な不足に苦しんでいるわけではない。だが、それでも国民の間で経済的格差が拡大し、貧困層が増えていることは、周知の事実だ。その現実を前に、私はここ7年ほど、協同組合やNGO、社会的企業などを中心に、持続可能で人間を軸に置いた「社会的連帯経済」という、もうひとつの経済をつくる試みを、スペインで取材し続けてきた。その取材中に、サラゴサ大学の経済学部教授から、ある興味深い話を聞いた。
「キューバでも、社会的連帯経済を推進しようという人たちがいる」
 格差を問題視し、資本主義国でじわじわ広がりつつある取り組みが、社会主義国キューバでも行われようとしているというのだ。私は、その現場を取材してみたいと思った。

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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