「ラテンギャング・ストーリー」17 神に導かれた仲間
工藤律子(ジャーナリスト)
親が子どもの学ぶ権利を奪ったり、少年たちがマラスに勧誘されてドロップアウトしたりしないように、エリザベスの夫は、食事に来る子どもたち全員の学校を定期的に訪れ、就学状況を確認している。
話をしているところへ、ようやくアンジェロが現れた。この日、彼は妻(35)と元ギャングを含む教会信者の若者数人を連れて、別の車で後から来たのだ。私たちの顔を見るなり、妻を紹介してくれる。
「これが、シオマーラです」
手を差し伸べてきたのは、どこか貫禄のある意志が強そうな目をした女性だった。
「お二人のことは、アンジェロからよく聞いていました。お会いできて嬉しいです」
握手をした後、さらに抱擁を交わす。初対面とは思えない親しみを感じる。
アンジェロは、食堂のスタッフに挨拶をしてまわると、連れてきた若者や食事を終えた少年たち数人と、食堂のテーブルでドミノを始めた。テーブルの上に、0から6までの目を持つ二つの正方形がくっついた牌を、同じ目同士、組み合わせて出していくゲームだ。早く手持ち牌を出し切った人が勝つ。
パートナーでフォトジャーナリストの篠田は観客となって、彼らのプレイを見守っていた。その間、私はシオマーラにいくつか質問をしてみる。
「アンジェロの過去は、よく知っているんですか」
すると彼女は、「ええ。実は私、彼が刑務所に入る前からの知り合いなんです」と微笑み、目を見開いて、「彼はとんでもない悪党でしたよっ」と、呆れ顔をしてみせた。そして、こう言いそえる。
「だから私の両親は、結婚に絶対反対でした。でも私は、彼は本当に変わった、と思います」
と、そこへ篠田が、
「ねえ、アンジェロが凄いんだよ」
と、やや興奮気味に私の肩を叩いた。どうしたのかと思えば、
「3回連続で勝ってるんだ。神がかってる」
まさか、ただの偶然だろう。疑いの目を向ける私の方を見て、アンジェロがニヤリ。まだ勝てるぞ、という顔をする。他のプレイヤーたちも、目を丸くしている。気になった私は、シオマーラと一緒に観客の仲間入りをした。すでに次のゲームが進行中だ。すると、再びアンジェロの勝利。これまでの彼の人生を想うにつけ、その強運がただの偶然ではない気さえしてきた。
そこで篠田が、アンジェロの「神がかり具合」を確かめようと、自分もゲームに参加することに。そうすると、遂にアンジェロが勝利を逃した。彼もやはり「人」だったのだ。ホッとして表情を緩める仲間たちを見て、
「運は巡るものだよ」
と、アンジェロが笑う。その場の空気が和み、皆が再びプレイに集中し始める。次の回では私もプレイヤーに志願すると、アンジェロが「私に勝ちたいんだね」とウインクした。
何ゲームプレイしたか覚えていないほど、アンジェロとその仲間たちはこの日、ドミノにとことん熱中した。はしゃぐ先輩たちに戦略を教わる少年たちも、その様子を眺める人たちも楽しげで、微笑ましかった。マラスが支配するスラムとは思えない平和な時が、そこには流れていた。

子ども食堂のテーブルを使って、少年や若者たちとドミノに興じるアンジェロ(左端)と妻のシオマーラ(テーブルの右手奥)。
2020年5月現在、アンジェロたちが関わる5つの子ども食堂は、政府の新型コロナ危機への対策の一環で、一時休止を余儀なくされている。それでも彼らは、車やバイクを駆使して、貧困家庭に食料品を届けてまわる。支援対象は、ふだん子ども食堂を利用している子どもたちの家と、夫や父親が元ギャングで服役中の家庭だ。アンジェロは言う。
「私と妻は、バイクで一軒一軒まわっています。最初は、子ども食堂に物資を集めて取りに来てもらうことができたのですが、まもなくそれもできなくなったので。とにかく一番困っている人たちのために、できることをするまでです」
食堂訪問の際、エリザベスもこう話していた。
「瀕死の祖国の未来を救うためには、私たちが闘うしかないんです」
神に導かれた人々は、経歴や立場などの違いを超えて、この国の未来のために連帯し闘っている。アンジェロの周りには、その闘いを続ける使命を共有する仲間が集っている。ところが、そのなかにはマラスが幅を利かせる社会で、今なお人生に大きな困難を抱える者もいた。