ラテンギャング・ストーリー18 マラスと生きる女性たち〜スカーレット
工藤律子(ジャーナリスト)
「ええ。私は、サウルと知り合ってまもなく、ダイヤー牧師のおかげで、心が落ち着きました。サウルも最初は『神を信じるのは、弱い人間だけだ』と言っていましたが、刑務所で教えを受けるようになってから、だんだん変わってきたんです。だから決心しました」
それでもサウルは、まだマラスから抜けてはいないという。「信仰心がまだ十分深くないから」と、スカーレットは言った。
「刑務所の中は、マラス一色。簡単じゃないんでしょう」
彼女自身、サウルと付き合い始めた頃は、刑務所に面会に行ってもギャング仲間ばかり紹介され、彼らが友人や恋人を使って麻薬や武器を持ち込むのを何度も見ていた。ただし、そうした「運び屋」の仕事は誰からも頼まれなかった。
「サウルが、『彼女は犯罪に巻き込むな』と命じていたからです。私を本気で守ろうとしてくれた。そういうところに深い愛を感じました」
幼い頃からギャングに囲まれて生きてきたスカーレットにとって、愛する者をギャングの仕事に巻き込まないという彼の姿勢は、真の愛情の証しだった。
その愛に応えるため、愛に飢えて育った少女は、妻として精一杯の努力を続ける。
「毎週末、パンとチーズにバター、肉料理とご飯、豆など、決められた食料を持って面会に行っています。ラ・トルバでは、1日2回しか食事が出ず、それも粗末なものです。服も、半年ごとに白いシャツ1枚、短パン1枚、パンツ3枚、靴下3足しか渡せません。家族が与えなければ、裸で過ごすことになる。この国では、囚人には人権がないんです。すべての権利が否定されている。ひどいものです」
夫が飢えずに暮らせるよう、彼女は毎日、市場で働いている。バッグや服、サングラスなどを個人商店に卸す仕事だ。1日の稼ぎはせいぜい100レンピーラ(約400円)。それで次男と自分の生活費と、夫への差し入れを用意する費用を賄う。
長男は一緒に暮らしていないのかと尋ねると、
「ギャングにならないよう、伯母と米国へ行かせました。サウルが説得したんです」
面会の際、地域のMS-13に入りたいと話す少年(当時17歳)に、サウルが涙を浮かべながらこう説いたという。
「俺はここに来たくて来たんじゃない。後悔しているんだ。お前には、そうなってほしくない」
その言葉に、少年も泣きながら従うと約束し、米国へと旅立った。
「この国では、政府も警察も誰もあてにならない。神しか頼れるものはありません。もしサウルと出会っていなければ、私も息子とともに米国へ移住していたでしょう」
スカーレットは、最後にそう言った。彼女を祖国ホンジュラスで生かしているのは、神の言葉とギャングの愛だった。

スカーレットの夫サウルが服役しているラ・トルバ刑務所の入口。撮影:篠田有史
このインタビューの数カ月後、サウルは本気で神の道を選んで塀の中の伝道師となり、MS-13と縁を切る決意をした。それからまもなく、彼らを新型コロナウイルスが襲う。都市封鎖でスカーレットは仕事ができなくなり、刑務所での面会も禁止された。ラ・トルバ内ではまだ感染者こそ出ていないが、差し入れがなくなった囚人は痩せ細っているという。
「スカーレットは今、苦しい思いをしている」
5月半ば、アンジェロがSNSでそう教えてくれた。