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連載

第25回 鴻上尚史「日本を考える」

特攻兵に見る日本型ブラック組織

鴻上尚史(作家・演出家)

(構成・文/朴順梨)

 佐々木さんは、終戦後に農家を継ぎ、空に戻ることはなかった。「好き」を若くしてリタイアした人生だったが、上官への怨嗟(えんさ)を口にすることはなく、2016年2月に92歳で亡くなった。
「佐々木さんは元気な時は頑固な人だったと息子さんと娘さんは言っていたけれど、子どもには『お前たちはしたいことをすればいい』と、農家を継ぐことを強制しなかったそうです。俺にも『話すことはないから来ても無駄だよ』と最初は言っていたのに、結局はちゃんと話してくれた。特攻隊の思い出は『つらかった』の一言だけだったし、終戦後に近所の人に冷たくあしらわれたことへの、恨みつらみも語らなかった。そういう人だから大岡さんも直接会っていたら(大岡氏は佐々木さんと面識がないまま文章にしている)、描写は変わっていたんじゃないかな」

 どんな状況に置かれていたとしても自分の「好き」を裏切らなければ、希望を失わずにいられるのかもしれない。どんな生き方だったとしても、納得出来るのかもしれない。では一体、自分は何が好きなのだろう? 何を好きと言えるのだろう? それは決して「戦って死ぬこと」ではないはずだ。
 一人ひとりが「好き」を突き詰めていけば、きっと幸せな人は増える。ひいてはそれが、望まない死を回避する何よりの武器になるだろう。92歳まで生きた元軍神は、鴻上さんの文章を通してそのことを言い遺したかったのだ、きっと。

著者情報

作家・演出家

鴻上尚史

こうかみ しょうじ

1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学法学部卒業。在学中に劇団「第三舞台」を結成。「朝日のような夕日をつれて'87」(87年)で紀伊國屋演劇賞団体賞、「天使は瞳を閉じて」(92年)でゴールデンアロー賞、「スナフキンの手紙」(94年)で岸田國士戯曲賞、「グローブ・ジャングル」(2010年)で読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞する。『ジュリエットのいない夜』(集英社、17年)『青空に飛ぶ』『不死身の特攻兵 軍神はなぜ上官に反抗したか』(以上、講談社、17年)など著書多数。現在は「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を主宰し活動している。

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