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民族紛争――何が悲劇を引き起こすのか

吉田徹(同志社大学教授)

 戦争に関するデータベースによると、20世紀後半における国家間紛争は35件、死者330万人だったのに対し、内戦は127件、死者1600万人と、後者の方が圧倒的に多いことがわかります。そして、内戦のうちの約7割が民族間の紛争でした。冷戦が終わってからも、旧ユーゴスラヴィア、チェチェン、スーダン、ミャンマー、イエメンなど、数多くの民族紛争が起きました。あるいは、北アイルランドやスペインのバスク地方、フランスのコルシカなど、先進国でも宗教などを理由とした民族紛争を経験してきたことも忘れてはなりません。国家と国家の戦争ではなく、民族紛争をはじめとする内戦こそが、歴史の駆動力だったとすら言えるでしょう。
 多民族社会ではない日本では特に、民族紛争は異なる民族や宗教に属するゆえに起こる争いだと思いがちかもしれません。ただし、実際の紛争はもっと複雑な要因から生じるものです。民族紛争研究では、異なる民族の居住地が混在していたり、民族によって配分される資源が異なっていたり、大きな経済的格差があるなどの十分条件に加え、民族集団のエリートが敵対的だったり、相手集団に対する恐怖心などの必要条件が加わることで、紛争は初めて起きることがわかっています。
 例えば、アフリカのトゥンブカ族とチェワ族は、マラウィとザンビアというふたつの国にそれぞれ住んでいますが、前者では対立関係にあるものの、後者では平和に共存しています。これは、マラウィではトゥンブカ族が多数派でチェワ族が少数派、ザンビアではともに少数派民族であるためだとされています。つまり、環境が異なれば、異なる民族は敵対的にも、友好的にも振る舞うのです。こうした事実からも、単に「民族が異なる」から対立するのではなく、実際には民族間の力関係や、過去の経緯などが民族紛争の背景に横たわっていることが理解できます。
 この他にも、特定の産業に依存するモノカルチャー経済ゆえに資源の争奪戦が起きやすかったり、法の支配や民主的制度の発展が不十分であったりすると民族紛争は起きやすくなるとされます。他方、貧困など社会経済の発展が不十分であることが紛争を引き起こすことも確かですが、貧困が民族紛争を引き起こすのか、民族紛争があるから貧困状態に留め置かれるのかという点については、確実なことが言えません。左様に、一言で「民族紛争」と言っても、その内実は多様なのです。
 そこで今回は、性格の異なる三つの民族紛争を、3本の映画を通じて確認することで、その特徴を見てみましょう。

今回紹介する3作のDVD。左から『アルジェの戦い』(キングレコード)、『ノー・マンズ・ランド』(アイ・ヴィーシー)、『ホテル・ルワンダ』(インターフィルム)

 

著者情報

同志社大学教授

吉田徹

よしだ とおる

1975年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門は比較政治学、ヨーロッパ政治。著書に『ミッテラン社会党の転換』(2008年、法政大学出版局)、『二大政党制批判論』(2009年、光文社新書)、『ポピュリズムを考える』(2011年、NHK出版)、『感情の政治学』(2014年、講談社)、『「野党」論』(2016年、ちくま新書)、『アフター・リベラル』(2020年、講談社現代新書)などがある。

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