imidas - 情報・知識&オピニオン

連載

第1回 小説家はみんなウソをついている(ゲスト/高瀬隼子)

鴻池留衣(小説家)

高瀬隼子(小説家)

 純文学って何だよ? なんでそんなに難しそうで偉そうなの? 年に2回の芥川賞はあるけど、それ以外で話題になってる? などなど曖昧模糊としたジャンルでナゾが多い。 
 そこで、現役の作家・鴻池留衣が、最前線で活躍する新鋭たちにぶっちゃけ純文学をどう定義しているのか、酒場に呼び出して聞いちゃえという連載。スタイルも考えも違う彼らは何を話すのか? はたして議論を重ねた先に純文学をめぐる数々のナゾは解かれるのか?
 第1回目のゲストは、『おいしいごはんが食べられますように』で、第167回芥川賞を受賞した高瀬隼子さん。職場での人間関係を多面的に描いた受賞作は、大きな話題を呼んでいる。
 そんな、いま最も注目される新鋭は、「純文学」をどう定義しているのか? 酒のペースが上がるにつれて、他では聞けない本音トークが展開される!

【本連載は加筆、修正の上、『純文学って何だよ』(集英社クリエイティブ)として2026年6月26日に刊行予定です。】

著者インタビューは全部ウソ?

高瀬 今日、鴻池さんとお話しするということで、鴻池さんが前に書かれたイミダスの記事「純文学って何だよ」を拝読して、私も自分なりに純文学の定義を考えたんですけど、あまりうまく言えないんですよね。今回、芥川賞をいただいて芥川賞は純文学の賞だから、受賞作の『おいしいごはんが食べられますように』は純文学作品と捉えられることになったわけです。それで、読者のみなさんの反応をSNSで見ると、「純文学なのに読みやすい」っていうのが出てきて、なるほどと。「純文学って難しくて読めないと思ったけど、これは読めた」とか。読者のみなさんは「純文学」の定義というか、あるイメージを持っているんですよね。

鴻池 そうなんですよね。

高瀬 それで感想を他にも見ていくと、「主人公の気持ちがわかる純文学を初めて読んだ」と言われていて、わかってほしくて書いてないんだよなとか。でもわからないと言われてもちょっと嫌だし、結局どっちも求めてないんだけどなとか思ってしまって……。あとは、「ラストがモヤモヤしてすっきりしない」という感想が多くありましたね。別にすっきりする話を書こうと思ってないから、それでいいんだけどとか考えてたら、私、作者のくせに読者に求めてばっかりじゃないかと(笑)。別に高瀬隼子という作者のことを気にしなくても、作品として楽しんでもらって色んな感想を持って好き勝手言ってもらうのは当然なのに、作者として読者に感想を期待している自分に気づいたんですよ。だから、「純文学って何だ?」って考える前に自分のことが気持ち悪くなってしまった(笑)。

鴻池 気持ち悪いってどういう感覚なんですか?

高瀬 なんか偉そうというか……。

鴻池 芥川賞の受賞者インタビュー(『文藝春秋』2022年9月号)でも自分が気持ち悪くなると言ってますね。

高瀬 言った気がするなぁ(笑)。確かに自分が気持ち悪くなるという感情は本当にあります。
 ただ、いまデビューして丸3年で、何回かインタビュー、取材を受ける機会があったんですけど、全部いつもウソつかないようにしようって思いながら引き受けてます。でも、いつも帰りの電車で「ウソついたな」って反省しちゃう(笑)。

鴻池 ウソつかないようにしようというのは、なぜですか?

高瀬 私は、そう思ってないと本当にウソばっかり言っちゃうんです。職場とかで、めっちゃしょうもないウソをすぐ言います。たとえば昨日地震があったとするじゃないですか。そしたら、「昨日、地震で目覚めたよね」って同僚に話しかけられて、実際はぐっすり寝てて地震に気づいてなくても、「めっちゃ目が覚めちゃって、そのあと寝れなかったです!」とか、「めっちゃメダカの水槽揺れたんですよ!」とか、適当なこと言っちゃうんですよ(笑)。ほんと無駄なウソ。意味ないし、誰も真偽のほどはわかんないし。

鴻池 そういう儀礼的なあいさつみたいな他人との会話ってどうでもいいですもんね。

高瀬 うん。だって、みんな忘れてるし。ただ私は本当に息をするようにウソをついちゃう(笑)。でも、取材だと文字になってあとで残るから、あんまりしょうもないウソつくのやめようと思ってるんですよ。

鴻池 あと自分に不利益になるウソはつきたくないですよね。

高瀬 そうですね。

鴻池 僕も芥川賞にノミネートされたときに取材を受けて、賞には落選したけどその取材記事がネットで配信されたんです。それを見て「うわっ、こんなこと言ってない! これは捏造記事だ」と思ったんですけど、自分が事実を捏造してたことを忘れてた(笑)。

高瀬 ねぇ、ウソついちゃいますよね。

鴻池 本当のことを言うのとウソを言うの、どっちが楽ですか。

高瀬 ウソのほうが断然楽です(笑)。

鴻池 やっぱりな。僕は高瀬さんが話すことは信用できないと思ってるんです。今日は、信用できないからこっちから攻撃しかけて本音を引き出すしかない。

高瀬 今日はウソつかないですよ。

鴻池 それが信用できない。僕は高瀬さんと何度か会ってお話ししてるけど、高瀬さんのその喋り方とかしぐさって、ショップ店員みたいですよね。

高瀬 うん? なんかいきなり攻撃された(笑)。

鴻池 ショップ店員の人も物を売るために「いいですね~ お似合いですね~」みたいなこと言うけど本音がわからない。それに似てるよ。すいません、これはただの悪口でした。

高瀬 はい、わかってます(笑)。

著者情報

小説家

鴻池留衣

こうのいけるい

1987年埼玉県川口市生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科中退。2016年「二人組み」で新潮新人賞を受賞してデビュー。著作に『ナイス☆エイジ』(新潮社 2018年)、『ジャップ・ン・ロール・ヒーロー』(新潮社 2019年)がある。

小説家

高瀬隼子

たかせ じゅんこ

1988年愛媛県生まれ。2019年『犬のかたちをしているもの』で第43回すばる文学賞を受賞してデビュー。2021年「水たまりで息をする」で第165回芥川賞候補。2022年「おいしいごはんが食べられますように」で第167回芥川賞を受賞。著書に『犬のかたちをしているもの』(集英社文庫)、『水たまりで息をする』(集英社)、『おいしいごはんが食べられますように』(講談社)がある。

関連記事

新着記事

imidasの更新情報をお届けします。