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政治・経済

政治的決断の先送りで膨張した財政赤字

増税か公共サービス削減か

藤岡明房(立正大学経済学部教授)

 積み上がった公債残高800兆円超の大借金。歳出削減はもちろん増税も避けられないが、消費税の狙い撃ちは本質を無視している。

世界同時不況で拡大した財政赤字

 リーマン・ショックによる世界同時不況に対処するため、世界各国で財政政策と金融政策が実施された。財政政策の結果、主要国で財政収支の赤字が拡大している
 日本政府も、不況の連鎖を防ぐための国際協力として大規模な景気対策を実施せざるを得なかった。しかし、景気対策はとりあえずお金をばらまくことを優先する補正予算での対策にとどまり、当初予算による本格的な景気対策は見送られ、「バラマキ景気対策」との批判が出された。日本の財政赤字は、いよいよ根本的な対策が必要となった。
 日本は、1990年代の平成不況から財政赤字に悩まされてきた。税収等の落ち込みにもかかわらず歳出を抑制できず、財政収支の赤字が拡大した。2000年代に入って改善しつつあるが、歳出と税収の差は毎年度約30兆円と巨額の赤字である
 この財政赤字は、将来の世代の負担となる。すなわち、長期金利の上昇と利子支払いにともなう国債費の増額である。このような状況が生じたならば、財政の硬直化が進み、財源が不足することになる。したがって、早い時点で財政赤字を解消しておくことが望ましい。
 財政収支の改善策には、これまで政府が取り組んできた中期的な「プライマリー・バランスの達成」と、より根本的な「財政収支バランスの達成」とがある。プライマリー・バランスとは、国債費の支出を行わず、国債発行による収入を得ないという条件の下で、単年度の収支を均衡させるというものである。これが達成できれば、国債残高の増加が生じないので、財政の持続可能性が確保されることになる。しかし、国債残高は依然として残ることを考えるならば、図るべきなのは、より根本的な「財政収支バランスの達成」である。

大借金国・日本の「収支バランス」

 日本の財政を根本的に立て直すには何が必要であろうか?解決策はとりあえず三つある。第1は支出の削減、第2は収入の増加、第3は両者の組み合わせである。
 2000年以降、公共事業費を中心に支出の見直しが進み、かなりの削減が進んでいる。しかし、社会保障のように自然増となる項目があるため、削減だけでは財政再建は困難である。もちろん、社会保障の個別項目の見直しは必要だが、賦課方式(高齢者への給付の財源を保険料として現役世代に求める方式)を維持するかぎり限界がある。場合によると、支出の中には増加する項目が生じることもあり得る。現役世代の減少で財源不足は明らかなので、財政再建には収入の増加、すなわち増税がどうしても必要になる。世界同時不況からの回復にめどが立った時点で、増税を図ることが必要であろう。すると、第3の支出の削減と増税の組み合わせは、増税にウエートを置くことになる。
 だが、日本の財政が直面している財政収支の問題の本質は別のところにある。財政赤字で苦しむ日本を国際的視点で眺めるならば、「奇妙な状況」と言わざるを得ない。なぜなら、日本の国民負担率(租税負担率+社会保障負担率)は、08年度時点で対GDP比40.1%、財政赤字分を国民負担率に上乗せした潜在的国民負担率で見ても43.5%である。赤字をなくすために増税をしても、国民負担率は43.5%にとどまる。これは、ヨーロッパの主要国の潜在的国民負担率が50%を上回っていることを踏まえると、高負担とは言えない水準である
 つまり、日本は必要な増税を行わず、単に問題を先送りしているだけとみなせる。言い換えれば、これまでの政府が増税という政治的決断を先送りしたことが、財政問題を深刻化させたのである。

税負担とサービスを選択する時代へ

 日本の財政は、本来必要な増税措置を長い間先送りにしてきた結果、多額の国債残高が積み上がってしまった。その間に、少子高齢化が進み、他方では地方分権の動きが本格化している。こうした状況の下では、消費税の税率を10%、あるいは15%に引き上げるといった消費税だけを狙い撃ちにした単純な増税案は、本質を無視したものと言える。
 そもそも増税の対象が消費税に限定される必然性はない。国税どころか地方税の増税もあり得る。分権化が行われた後であれば、地域ごとの地方消費税を導入しても良いであろう。ただし、増税する場合には、それに見合うサービス給付が国民の目に見える仕組みが必要である。
 高度成長の時代のように、地方においても人口や生産が増加する時代であれば、全国一律の公共サービスの給付も意味があった。しかし、少数の住民しか住まない限界集落、さらには住民がいなくなってしまった無住村、無住地区などが増加するこれからの日本において、全国一律の公共サービスは非効率であり、多大の無駄を生じさせる。
 したがって、分権化を実現し、財源を地方に移譲した上で、地域の状況に応じて、公共サービスを選択するような方式に転換することが望ましい。住民が少ない地区ではこれまでのような公共サービスの供給は廃止し、住民を地方の中心都市に集めて公共サービスの効率化を高めるなどの工夫が必要である。
 人間の生存に直接かかわる公共サービスですら、住民が少ない地域では供給されなくなる。現在住んでいる地域の公共サービスに満足できない場合は、税金は高くなるがより良い公共サービスを享受できる地域に移住しなければならない。逆に、税金が高すぎると感じれば、税金が安いがそれに応じた公共サービスしか受けられない地域を選ぶことになる。各地域で住民獲得のための競争がおこるであろう。まさに、新たな選択の時代である。

著者情報

立正大学経済学部教授

藤岡明房

ふじおか あきふさ

1948年生まれ。東京大学大学院経済学研究科修了。専門は財政学、公共経済学、環境経済学。敬愛大学教授などを経て2005年より現職。『ひと目でわかる 図説日本の経済』(1994年、祥伝社)、『図説 行政のしくみがわかる本』(監修、1997年、ダイヤモンド社)、『最新 官庁全系列地図』(1999年、産学社)、『生活者のための経済と社会の見方』(共著、2009年、昭和堂)など多数の著書がある。

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