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政治・経済

民主党予算は何を目指すのか

戦略なき膨張が生んだ過去最大の予算

藤岡明房(立正大学経済学部教授)

 政権交代により成立した民主党主導予算。自民党システムとは異なる立場で編成された予算からは、「財政の持続可能性」への一抹の危惧(きぐ)が浮かび上がる。

「大きな政府」は結果論

 国民からの圧倒的な支持を受けて、2009年9月16日鳩山由紀夫内閣が誕生した。政権運営は、民主党のマニフェストが基本となったが、肝心のマニフェスト自体がかなり矛盾を含んだものであったため、マニフェストに忠実な政策を実施しようとすればするほど、ひずみが大きくなるという問題があった。たとえば、子ども手当、農家に対する個別所得補償、高校の授業料無料化、高速道路無料化、といったマニフェストで取り上げられた代表的な政策は、いずれも多額の財政支出を必要とするものである。
 実際、鳩山政権が、10年度当初予算を編成するときに、マニフェストをどの程度反映させるかが議論になったが、結果として予算規模は自由民主党時代の09年度の当初予算88.5兆円から92.3兆円へと拡大してしまった。そのため、鳩山政権は「大きな政府」を目指した政権との見方が出された。確かに、予算規模から判断する限り大きな政府を目指したとみなしてもやむを得ないであろう。しかし、実態は政権の財政運営に関する力不足により、予算を切り詰められなかったため大きな政府になってしまったものである。

「事業仕分け」も予算抑制では失敗

 鳩山連立政権の仕事の中で国民の評判が良いのは、「事業仕分け」である。それまで密室の中で行われていた仕分け作業を国民の目の前で行ったことは、国民の知りたいという要望に対し、目に見える形で応えたものである。しかし、この事業仕分けも当初掲げていた予算の削減予定額3兆円に比べ、わずか7000億円にとどまったことに注目するならば、色あせたものになる。そもそも事業仕分けの対象となった各省庁の予算は、従来の概算要求基準シーリング)に基づく予算要求をいったん白紙に戻し、あらためて出し直させた予算要求であった。予算の上限を定めるシーリング方式の場合、予算内容の実質的決定は各省庁の官僚に任されている。それに対し、閣僚である大臣と副大臣、政務官の「政務三役」によって予算をゼロベースで見直したほうが、より予算規模がスリム化され、しかも内容の改善が期待できるという思惑が鳩山政権にはあった。
 しかし、実際に予算を編成させてみると、政務三役は官僚のいいなりになり、内容は改善されないばかりか、予算規模は95兆円に拡大してしまったのである。それから、事業仕分けを行うことになったが、予定額を大幅に下回る額しか削減できなかった。予算編成の段階でさらに削減が行われたが、それでも大規模予算になってしまった。こんなことであれば、最初から概算要求基準でシーリングを設けた方が予算規模の抑制ができたはずである。シーリング方式から事業仕分け方式の変更によって、日本の財政の持続可能性は大幅に低下してしまった。

財政拡大は世界の潮流だが……

 皮肉なことに、財政規模が拡大したことは、結果的に、世界同時不況の時代には好ましい予算であったという判断もありえる。09年から10年にかけて世界各国は、財政赤字を拡大させることによって、景気対策を実施した。代表的なのはアメリカとイギリスである。OECD(経済協力開発機構)が 発行している経済展望「ECONOMIC OUTLOOK No.86」によれば、この両国は、一般政府の財政赤字が10%を上回る高い水準の赤字を出している。しかも、国債を発行し、その国債を中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)やイングランド銀行に直接購入させて資金を調達し、銀行などの救済に充てるという非常手段まで採用している。
 他の先進国の多くも同様に財政赤字を拡大させていることから、日本も財政赤字を拡大させることによって、世界同時不況からの脱出のために協力したという側面がある。したがって、自民党時代の麻生太郎内閣による大型の景気対策は、選挙対策という見方もできるが、必要な政策であったとみなせる。

確固たる成長戦略を定めよ

 それに対し鳩山内閣の場合、マニフェストを優先したため、大型の10年度予算を編成したにもかかわらず、政策の効果が不透明である。しかも、予算編成の段階では成長戦略が示されていなかったため、何を目指した予算なのかが示されないまま予算案が決まってしまった。
 09年末になってようやく「輝きのある日本へ」という成長戦略が発表されたが、その中身は環境・健康・観光の3分野で100兆円の需要を創造し、雇用を生み出すというものであった。これは、アメリカのオバマ大統領によるグリーンニューディール政策を見本にした戦略である。しかし、グリーンニューディール政策は、すでに出てきた結果から見ると、当初期待されていた雇用の増加は実際には実現せず、巨額の財政支出だけが残ってしまうという形に終わりそうである。したがって、日本でグリーンニューディール政策に準じた成長戦略を実施しても、同様の結果になる可能性が高い。
 現在の日本に必要なものは借り物の成長戦略ではなく、アジアの成長に貢献する産業を優先するような選択的成長戦略であり、それに基づく明確な財政の方向性である。

著者情報

立正大学経済学部教授

藤岡明房

ふじおか あきふさ

1948年生まれ。東京大学大学院経済学研究科修了。専門は財政学、公共経済学、環境経済学。敬愛大学教授などを経て2005年より現職。『ひと目でわかる 図説日本の経済』(1994年、祥伝社)、『図説 行政のしくみがわかる本』(監修、1997年、ダイヤモンド社)、『最新 官庁全系列地図』(1999年、産学社)、『生活者のための経済と社会の見方』(共著、2009年、昭和堂)など多数の著書がある。

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