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政治・経済

リニア中央新幹線は要らない!

21世紀最大の負の遺産とならないか?

樫田秀樹(ジャーナリスト)

 こうした残土や水枯れに加え、リニア開通が遅れるもう一つの要因として「資金」がある。
 JR東海は2007年末、リニアを「自己資金で建設する」と表明し、経済界やリニア通過予定の都県を驚かせた。第一期工事となる品川―名古屋間だけで5兆5000億円だ。
 国交省鉄道局は、東海道新幹線の収益をリニア建設に充当すれば、足りないのは3兆円と説明していたが、その3兆円をどう工面するのかに私は注目していた。というのは、たとえばJR東海の「平成28年3月期決算短信」を見ると、純資産額は2兆2199億円。つまり3兆円分の担保がない以上、銀行は貸し渋ると予測したからだ。
 ところが、リニア計画(品川―名古屋間)を14年10月に国土交通省が事業認可すると、16年6月1日、安倍晋三首相が「リニア建設に財政投融資(以下、財投)3兆円を投入する」と表明し、また関係者を驚かせた。JR東海も同日、それを「歓迎する」と表明。JR東海は、自己資金から公的資金へと舵を切ったのだ。
 財投とは、財務省が国債発行で得た資金を「財投機関」(政府系の特殊法人。35組織ある)に融資して大型事業などを実現する制度だ。
 だが、JR東海は財投機関ではない。そこで政府・与党は、財投機関の一つで、新幹線建設などを行う「鉄道建設・運輸施設整備支援機構」(以下、鉄道機構)に「JR東海への融資機能をも持たせる」という裏技というべき法改正を同年11月に断行した。その結果、鉄道機構は果たして3兆円をJR東海に融資した。しかも「無担保」かつ「30年据え置き」という異例の好条件だ。いったい誰がこの絵を描いたのか。
 私が出会った準ゼネコンの社員はこう推測している。
「リニアに関して、2015年でのJR東海とゼネコンとの工事契約数は3件だけ。ところが、2016年から急増して今22件です。安倍首相が表明するからには、その何カ月も前から財投投入は政府内部で話し合われていたはずで、その情報があったからこそ、安心して受注できると読んだゼネコンが2016年から工事契約を結んだのでしょう。おそらく財投投入の絵を描いたのもゼネコンだと私は見ています」

リニア工事契約の談合疑惑に東京地検特捜部が動く

 昨年(2017年)末、全マスコミは、リニア談合疑惑の報道を展開した。
 報道を整理すると、JR東海は22の工区で建設業者と工事契約を交わしているが、JR東海が事前に入札額を漏らし、スーパーゼネコン4社が示し合わせたかのように均等受注していることで、東京地検特捜部が「独占禁止法違反」(不当な取引制限)の疑いで家宅捜索を遂行した。その結果、大林組と清水建設は談合を認め、鹿島建設と大成建設は「話し合いをしただけ」と談合を否認しているということだ。
 この件は、東京地検が捜査中である以上、不必要なコメントは控えるが、私が関心を持つのは、果たして地検が、誰がこの不自然な3兆円もの財投投入に道筋をつけたかまでを捜査するかである。
 というのは、某ゼネコンで働くベテラン社員や、『必要か、リニア新幹線』(岩波書店、2011年)などの著書でリニア計画を検証している橋山禮治郎氏は「リニアの品川―名古屋の工事は5兆5000億円では足りない」と断言しているからだ。
 たとえば従来の新幹線でも、東北新幹線は当初予定の2倍の約3兆6000億円で、上越新幹線は3倍の1兆7000億円で竣工した。特にリニアでは最大の難所と言われる25kmの南アルプストンネルの掘削にどれだけの時間がかかるかで建設費は読めない。
 もし工事の途中で資金ショートするようなことがあれば、再び財投を投入するのだろうか。
 もちろん、財投は融資だからJR東海が返済すれば文句を言われる筋合いはない。だが3兆円の融資が5兆円、10兆円と膨らんだとき、その返済は難しくならないか。
 たとえば、例に出した東北新幹線と上越新幹線は財投で建設されている。これが旧国鉄の債務を最終的に28兆円に膨らませる一因ともなるのだが、注目すべきは28兆円のうちの約16兆円が財投による債務であることだ。28兆円のうち24兆円は今、国民の税金で償還されているのは周知の事実だ。
 その反省から、国は財投による新幹線建設をやめ、今の「整備新幹線」方式(国が建設費の3分の2、地方自治体が3分の1を負担し、鉄道機構が建設した後、JR各社が鉄道機構に毎年線路使用料を払う方式)に切り替えたのに、それをまた財投頼みに戻すのだろうか。リニア事業で赤字が生じたら、その尻拭いは税金になるのだろうか。その犠牲と釣り合うだけの計画なのか、マスコミはもっと検証する必要がある。

JR東海の住民軽視の姿勢に立ち上がる市民

 今、品川から名古屋までの1都6県(東京、神奈川、山梨、静岡、長野、岐阜、愛知)では、リニア計画に疑念を呈する市民団体はざっと30はある。
 これら市民団体が生まれたのは、環境問題への懸念もそうだが、最大理由の一つが、JR東海の住民軽視の姿勢への憤りだった。
 騒音、振動、景観、電磁波、生態系の劣化……。これら不安から、住民説明会で住民は真剣な質問を展開する。「水枯れは起こらないのですか?」「騒音はどれくらいになりますか?」「電磁波の影響はどれくらいですか?」。
 これら質問にJR東海は常に「影響は小さいと予測します」「環境基準値内なのでご安心ください」といった具体性のない回答に終始。しかも、一度質問した人に再質問は許されず、まだ手が挙がっていても時間になればピタリと閉会する。「ふざけるな!」との怒号を耳にしたのは数知れない。
 説明会以外でもJR東海の事務所では住民からの質問を受け付けてはいるが、訪問は3人までに限定され、どんな質問にも決して文書は渡してくれない。
市民から見ると情報隠しにも見えるこの姿勢に「このままではズルズル着工される」と各地で住民が立ち上がったのだ。
 2016年5月、市民団体のネットワークである「リニア新幹線沿線住民ネットワーク」が奔走して集めた738人が、事業認可取り消しを求めて国土交通省を相手取り行政訴訟を起こしたのは当然の流れだった。
 2016年9月から始まった裁判は現在、各地の原告による意見陳述の最中だが、早ければ今年、JR東海も「参考人」として出廷する可能性がある。なぜ「影響が小さい」と言えるのか、説明会では決して語られなかったその根拠を原告はJR東海に迫ることになる。この裁判は最後まで見届けたい。
 紙面の関係で割愛したが、リニア計画では約5000人の地権者に対して土地や家屋の明け渡しが求められる予定だ。昨年末も、JR東海は神奈川県相模原市のマンションの全44世帯に立ち退きを求めた。そんな事例はこれから続々と出てくるはずだ。だが一方で、立ち木トラストや土地トラストなどで土地の明け渡しを拒む住民も現れている。
 かつてない巨大工事に付随する甚大な環境問題と社会問題。抗う人々。マスコミが報道しなくても、私は最後までこの問題を追いかけたい。

著者情報

ジャーナリスト

樫田秀樹

かしだ ひでき

1959年、北海道生まれ。岩手大学卒業。コンピュータ関連企業勤務を経て、NGOスタッフとしてアフリカでの難民キャンプで活動後、フリーのジャーナリストに。取材で国内やアジア各地に赴く。各誌に環境問題、社会問題、市民運動、人物ルポなどを寄稿。
著書に『リニア新幹線が不可能な7つの理由』(岩波ブックレット、2017年)、『〈増補〉“悪夢の超特急”リニア中央新幹線――建設中止を求めて訴訟へ』(旬報社、2016年)、『自爆営業――その恐るべき実態と対策』(ポプラ新書、2014年)、『世界から貧しさをなくす30の方法』(共同編集、合同出版、2006年)など。

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