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「次世代の経済」を築くための欧州の挑戦 「欧州社会的経済会議」にみる最先端の課題

工藤律子(ジャーナリスト)

 OECDの社会的経済・イノベーションユニット代表のアントネッラ・ノヤによれば、欧州の若者の45%は、大学を出たら起業したいと考えているが、実行するのは5%だと言う。資金準備の困難さや法的手続きの複雑さのために、諦める者が多いからだ。そんな彼らがSSEの枠組みにおいて起業できるよう、EUと各国は、SSE事業組織のための融資や設立支援の組織を創り、若者がより自由に持続可能な未来のための起業に挑戦できる環境を整える必要があると考えている。
 それと同時に、SSEの魅力をもっと若者にアピールすべきだと、スペインの労働者協同組合「ユース・タセバエス(Youth TAZEBAEZ)」のアナ・アギーレは主張する。
「例えば協同組合は、社会問題を解決する、人間的で民主的かつ世代間交流の豊かな職場ですが、若い人たちは自分たちには向いていないという先入観を抱いています」
 それを変えるために、アギーレたちは「トラベリング・ユニバーシティ」というプロジェクトを通じて、世界各地の大学を巡り、若者に労働者協同組合による起業の魅力とノウハウを伝えている。
 従来は若者と縁遠いと考えられてきた農業関係の協同組合も、これからは若者の活躍の場になると話す事業者もいる。6年前、当時25歳でスペイン西部の農産物生産者協同組合「ヘルテ渓谷協同組合グループ(15の小さな協同組合の集まり)」の経営責任者となったモニカ・ティエルノは、若者こそ農業分野にやりがいのある仕事を見つけられると語る。
「例えば、私たちの協同組合のような小農家の集まりでは、技術革新やマーケティングに力を入れてこそ、皆の生活が安定します。それを可能にするのは(技術や経営などを学んだ)私たち若者です」
 アギーレとティエルノは共に、SSE関係の集まりには必ず若者の参加を促し、SSEの事業現場にも若者を招いてその魅力を直に感じてもらうことが、変革を起こすために欠かせないと訴えた。

「ヘルテ渓谷協同組合グループ」経営責任者モニカ・ティエルノは、「未来のためには、誰もが地元の生産者が作るものを食べて暮らせることが大事」と語る。撮影:篠田有史

 

未来への鍵2 女性

 スペインの「オルタナティブ連帯経済ネットワーク(REAS)」の調査によると、スペインのSSEで働く者の64%は、女性だ。一般企業では40%前後なので、その割合は高いと言える。ほかのEU主要国でも同じような傾向が見られるようだ。だが、リーダーを担う女性が少ないのが課題だと、今回の会議に参加したSSE関係の女性研究者や事業者らは口をそろえた。欧州社会にはまだ男性優位の価値観が根強いのが、原因だと言う。
 そんな現状を変えるべく、会議ではSSEの事業組織で女性を対象とする職業訓練や起業支援を行うことや、現場で活躍している女性たちがその魅力をアピールする機会を作ること、SSE関係の会議には必ず様々なジェンダーの参加者を集めることなどが提案された。
「大陸間SSE推進ネットワーク(RIPESS)」事務局長のサンドラ・モレーノは、SSEにおけるあらゆるジェンダー間の連帯を生むリーダーシップを、女性が率先して担おうと呼びかけた。
「家事労働を含む、資本主義経済の中で『インフォーマル経済』の一部と見なされている労働を『フォーマル経済』に引き入れるために、女性ができることは多々あります」
 すべての労働者の尊厳が守られる経済を築くために、女性たちの活躍の場が増えることが期待されている。

 

未来への鍵3 資金

 会議参加者の間では、SSEが安定した発展を遂げるには、柔軟な資金調達の仕組みが必要であることが確認された。SSEも「経済」である以上、十分な資金確保が不可欠ということだ。EUは、SSE推進のための独自資金を、将来EU加盟が期待される国々のためにも使っている。
 また、SSEが浸透している国から東欧諸国のようにまだこれからという国のSSE関連事業への資金提供や、SSE事業組織間での資金協力制度、SSE事業組織への国の補助金や優遇税制の適用なども、議論された。将来は、「必要な資金は自ら生み出す」SSE事業組織になることが、望まれている。
 SSEの事業組織として資金的に成功しているのが、先述のモンドラゴンだ。モンドラゴンは、連合体を構成する81の協同組合それぞれの組織内、協同組合間、そして地域社会との間での連帯を軸に、工業分野を中心に発展してきた。現在、約8万人が働き(内76%が組合員)、世界37カ国に104の工場を持ち150カ国以上で販売するという、世界的な競争力を誇る。その事業資金は、収益や組合員の出資金、協同組合間の資金融通など、90%が連合体内で賄われている。公的補助金・助成金などの外部からの資金は、10%以下だ。
「規模の大きい事業体にしたのは、社会を変えるインパクトを持つため」というモンドラゴンは、行政とも積極的に連携し、地域社会を支えてきた。それができるのは、財政的に自立しているからだろう。欧州のSSE全体も、財政的な自立と安定を得て、自らの理想に基づき社会を変えていく力を持つことを目指している。

 

最大の課題は「きちんと知ってもらうこと」

 サン・セバスティアンの会議閉会後には、第2回「欧州社会的経済賞」の授賞式が行われた。社会革新、人材スキルアップ、環境活動、デジタル化など、SSEとして力を入れている分野で欧州の先端をいく個人・事業組織に贈られる賞だ。「自治体と市民が出資する協同組合が風力発電所を運営し、貧困層に安い電気を届ける」「障がい者がデジタル技術を身につけて自ら仕事を生み出す」など、様々な事業の受賞者が並ぶ中、特に目を引いたのは、「AIを駆使して、遠隔操作で災害現場や紛争地での遺体身元確認を行う」労働者協同組合だ。若い先端技術者たちが「平等で社会的意義のある職場」として労働者協同組合を選択し働く姿は、まさに「次世代の経済」だと言える。

第2回「欧州社会的経済賞」の授賞式にビデオメッセージを送る、スペイン政府第二副首相兼労働・社会的経済相のヨランダ・ディアス。撮影:篠田有史

 ただ今回の会議では、SSE最大の課題として、「可視化」が挙げられた。その存在や中身を、もっと「きちんと知ってもらうこと」が必要だと言う。そのため、次の目標が掲げられた。

  • ・高等教育でSSEコースを増やし、義務教育においても、公立・私立を問わず、SSEに触れる機会を創る。
    ・自治体やSSE独自のメディア主導で、SSEの情報を社会に広める。 
    ・SSEが社会にもたらすメリットを研究し、具体的なデータで示すことで、EUや各国政府を動かす。

 例えばスペインでは、CEPESが、SSEが雇用と社会的包摂を生むと証明するデータを示したことで政府を動かし、現在欧州唯一の「社会的経済省」が創設された。CEPESのロサーノはこう強調する。
「SSEを広めるには、そこに関わる当事者が、自分たちの事業の内容とメリットを人々や行政に説明し、『支援があれば、もっとこんなことが実現できる』と具体的に伝えることが、最も大切です」
 SSEの先進地域だと言える欧州。だが、まだその認知度は低いと、当事者たちは感じている。だからこそ、国際機関も巻き込み、その推進に一致団結して取り組む。そこに欧州の、そして人と地球の未来がかかっているからだ。

著者情報

ジャーナリスト

工藤律子

くどう りつこ

1963年大阪府生まれ。東京外国語大学地域研究研究科修士課程在籍中より、メキシコの貧困層の生活改善運動を研究するかたわら、フリーのジャーナリストとして取材活動を始める。著書に『仲間と誇りと夢と』(JULA出版局)、『ストリートチルドレン』(岩波ジュニア新書)、『マラス 暴力に支配される少年たち』(集英社、開高健ノンフィクション賞受賞)、『マフィア国家 メキシコ麻薬戦争を生き抜く人々』(岩波書店)、『ルポ 雇用なしで生きる スペイン発「もうひとつの生き方」への挑戦』(岩波書店)、『働くことの小さな革命 ルポ 日本の「社会的連帯経済」』(集英社新書)などがある。NGO「ストリートチルドレンを考える会」共同代表。

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