路上で国会審議を可視化する「国会パブリックビューイング」の広がり
上西充子(法政大学キャリアデザイン学部教授)
(構成・文/井上佳世)
──「ご飯論法」がこんなに話題になるとは、驚きです。
SNSを中心に広めてくれた方々のおかげだと思います。ニュースで流れる国会審議の場面は、ごく一部の答弁が意図的に切り取られてしまうので、どういう議論が行われているのかがわかりません。ありのままのやり取りを見ることで異常さに気づいてほしいし、私たちは「ご飯論法」でだまされ続けていることを知ってほしいと思います。例えば、「セクハラ」という言葉が周知されることで、そうした行為が抑制されるのと同じように、「ご飯論法」という言葉によって、国会で横行している「論点ずらし」の抑制につながることに期待したいのです。「ご飯論法」は、答弁の不誠実さを理解するための補助線になるもの。国会のおかしな実態を言葉で可視化したのが「ご飯論法」、映像で可視化したのが「国会PV」です。本当は、こういった言葉や活動を必要としない社会が理想なんですけどね。
──上西さんにとって「国会PV」とは何ですか。
国会を「監視する」取り組みであり、表現行為です。初開催に向けてメンバーとSNS 上で怒涛のやり取りをしていたとき、私は「場所の使用許可は取らなくていいんだろうか?」と疑問を投げかけたんです。違法性を咎められたらどうしようって不安に思ったから。それで弁護士の方に立ち会ってもらうことにしたんですが、路上での言論の自由、表現の自由、集会の自由を、実際の行動を通じて守っていくこと、実現していくことが大事なんだと、その後、メンバーの一人である映像作家の横川圭希さんから教えられていくことになりました。
アルバイト先で不当な目に遭った経験について授業で学生に尋ねると、彼らはよく「でも不満を口にしたら人間関係が悪くなるから」と言います。「みんなまずそこを気にしちゃうんだよなぁ」とこれまで感じていたのですが、何かやろうとするとき、自分も公権力から睨まれることをまずは気にするんだなと、笑っちゃいました。
ネット上で記事を発信しても、問題意識が広く共有されなかった頃、大手メディアはなぜもっと報じてくれないのだろうと納得がいきませんでした。でも、既存の枠を自分から出てみたら、自分にできる新しい表現手段があることがわかりました。枠組みから一歩出ると、状況は変わるんですよね。

時にはその場で専門家のナマ解説が入ることも。有楽町街頭の上西さんと伊藤圭一さん
──京都、大阪、札幌など全国に「国会PV」の活動が広がっています。
ノートパソコンを街頭へ持ち出す方、カフェで開催する方、学習会を開く方。一緒に動く仲間を集めるためにまずは「おうちで」とか、街頭へ出向くのが難しい人のために「出前」するなどなど。各々のやり方で実践されているのがうれしいですね。1人でも2人でも真剣に見てくれる人と、「国会PV」という場を共有してもらえることが何よりです。
京都で実践している方が、「看板に電飾を施したらいい目印になった」と教えてくれたので、私たちも早速真似てみました。そうやって楽しみながらやるのがとても大事だと思っています。悲壮感がないからこそ、面白がってくれる人や、立ち止まって見てくれる人がいるのでしょう。
私たちは、政治家の街頭演説のようにトラメガを使って主張するのではなく、国会審議の映像をそのまま提供することで問題意識を広げたいと思ってきました。言葉がしっかり届くよう音質にもこだわり、ストリートミュージシャン愛用の高音質スピーカーを使っています。
最近、「国会PV」ってパフォーマンス集団なんじゃないかと感じています。東京で「興行」を繰り返し、上映交流会で地方へ「巡業」し、あちこちへ種をまいていく。あるいは、音楽にのってノリノリで、仲間とゴースト退治に臨むゴーストバスターズでしょうか(笑)。
「第1話」の活動の後、11月8日から18日までの間に「入管法」の法改正について緊急街頭上映を都内で5回開催しました。このときは、伊藤圭一さんや中村優介弁護士などにゲスト解説者として参加していただき、私がその場で解説と進行を行いました。
こだわりのスピーカーと、差し入れられた柿の種。この日の聴衆に配られた
「入管法」に限りませんが、国会で十分な議論がなされないまま強行採決されるのは、急がないとその背後にある闇が外に漏れ出て、国民に知られてしまうからです。国会での審議内容に「国会PV」がその都度対応していくというのは、難しいです。でも、私自身が質の保証ができる内容であれば、今後も「入管法」のように専門家を迎えて緊急上映し、街頭で問題提起をすることも考えていきたいです。
政府に任せておいて大丈夫、と思っている人も多いでしょう。その人たちが「大丈夫じゃないんだな」と気づくのは、何かのきっかけがあって、でしょう。「国会PV」を入口にして、もっと知りたい、自分も動きたいと変わってくれる人が増えることを望みます。

国会パブリックビューイング 第1話 働き方改革-高プロ危険編-【街頭上映用日本語字幕版】(収録映像一覧情報あり)
国会パブリックビューイング 第2話 働き方改革-ご飯論法編-【街頭上映用日本語字幕版】(音質改良版・収録映像一覧情報あり)
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著者情報
法政大学キャリアデザイン学部教授
上西充子
うえにしみつこ
1965年、奈良県生まれ。法政大学キャリアデザイン学部教授。専門は労働問題。東京大学大学院経済学研究科第二種博士課程満期退学後、特殊法人日本労働研究機構(現在は独立行政法人労働政策研究・研修機構)研究員を経て、現職。雑誌論文に「裁量労働制を問い直せ」(『世界』2018年5月号)、共著に『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(旬報社、2017年)などがある。