「学芸会」と「台湾有事」、翻弄される与那国島の住民はーー
斉加尚代(ドキュメンタリーディレクター)
「世界が平和になりますように」
創立124周年を迎えた小さな小学校の児童たちは、与那国島の未来をどう描いているでしょうか。5年生の女の子は、ポーランド生まれのショパンの伝記に夢中になり、ショパンの音楽と人生を調べあげました。恋人との出会いや20歳でワルシャワを離れてパリへ赴いたショパンがそれ以来、二度と愛する故郷の地を踏むことができなかったことにも心を寄せ、その学習内容を発表しました。
「比小祭」では、先生も弾けまくりました。アイドルグループCUTIE STREETの「かわいいだけじゃだめですか?」の曲を流し、校長も教職員もフリフリのコスプレ衣装を着て、4人の子どもたちと一緒にキレキレのダンスを踊りました。公民館の人たちは島の狂言唄「ディラブディ」の歌詞に振りをつけ、漁師たちが海に潜り、魚を突いて、大漁で笑いがとまらなくなるという愉快なミュージカルに仕上げました。ここにも校長先生が出演、会場を沸かしたのです。大笑いする島民たち。一体どれほど練習したのでしょうか。そこには故郷の島への思いがいっぱい詰まっていたのです。

「ディラブディ」をもとにしたミュージカル(撮影:斉加尚代)
夜のキャンプファイヤーは点火式で4人の子どもたちがそれぞれの願いを述べていきました。「与那国島の方言が受け継がれてゆきますように」、そして最後は少し間をおいて「世界が平和になりますように……」、女の子の声が響くと拍手が起きて静まり返ったあと再び、ダンスが始まります。「荒波の世界、生きてゆくには、この子たちに託すしかない」、校長先生は口にします。そんな大人たちの切なる思いを一身に引き受けた子どもたちの目に、燃えあがる炎はどう映ったでしょうか。小さな島の子どもたちの人権こそ、今もっとも大切にされるべき大きなテーマです。それはこの島の人たちではなく、東京や大阪をはじめ、日米軍事演習を直視せずに暮らせている多数の国民意識にもかかっています。島の美しい夜空を照らしながら、願いが込められたその松明のパチパチという音と光に私は胸が苦しくなったのでした。
著者情報
ドキュメンタリーディレクター
斉加尚代
さいか ひさよ
1965年生まれ。早稲田大学卒業後、1987年毎日放送入社。報道記者などを経て2015年からドキュメンタリー担当ディレクターとなる。企画・担当した主な番組は『映像’17沖縄 さまよう木霊 基地反対運動の素顔』(2017年1月、平成29年民間放送連盟賞テレビ報道部門優秀賞ほか)など20本以上。『映像’17教育と愛国 教科書でいま何が起きているのか』(2017年7月)は第55回ギャラクシー賞テレビ部門大賞を受賞。2022年にはテレビ版に追加取材、再構成した映画『教育と愛国』の監督をつとめ、同年度JCJ(日本ジャーナリスト会議)大賞などを受賞した。著書に『教育と愛国』(岩波書店、2019年)、『何が記者を殺すのか』(集英社新書、2022年)など。2025年1月に毎日放送を退社後は、フリーで活動。