先進国で政治がラディカルになっている理由を考える
吉田徹(同志社大学教授)
しかしポスト冷戦期になって保革の間で生まれたこの「リベラル・コンセンサス」は、それまでの伝統的な保守と左派の支持者層を、既存の保革政党が見放すことを意味した。家父長主義的で同質的な社会が実現されるべきと考えていた、それまでの伝統的な保守支持者層は、既存の保守政党の文化的に穏健な態度を快く思わず、またリベラルな価値に反発して、より急進的な主張を掲げる極右勢力を支持するようになる。リーマン・ショックを契機に生まれ、オバマ大統領のようなリベラルを「社会主義者」と呼んだアメリカのティーパーティー運動はその好例だろう。グローバル化によって社会の流動性が高まり、エリート支配や移民の流入を好まない彼らは、「右の右」に位置する勢力を求めるのである。
他方で、産業構造の変化(具体的には製造業から金融サービス産業へのシフトや、労働力ではなく雇用機会・賃金水準を基盤とするいわゆる「ポスト・フォーディズム(post Fordism)」への移行)は、伝統的な労働者層を取り残すことになった。彼らを歴史的に代表していた社民政党は、選挙で勝ち抜くために中間層に支持基盤を求めるようになり、80年代までフランスやイタリアでは無視できない勢力だった共産党も、冷戦崩壊によって見放された。かつてのような熟練労働者ではなく、単純労働者やワーキングプアが労働者層を占めるようになり、彼らはやはり反グローバル化を唱え、弱者保護をうたう極右ポピュリスト政党を支持するようになっている。
例えば、フランスの労働者層が最も支持しているのは極右政党のFNである。FNは80年代までは政治的には戦前のファシズムや植民地主義を擁護して反共主義を掲げ、経済的には新自由主義を主張するマイナーな政治勢力だった。それが90年代になって冷戦構造が崩壊し、度重なる不況とこれに伴う産業構造の変化、さらには2000年代に入ってアメリカで同時多発テロとリーマン・ショックが起きると、反グローバル化と大きな政府、移民規制を唱えるようになっていった。言い換えれば、政治的にはかつての保守勢力、経済的にはかつての社民勢力の主張を自らのものとした。そして、これはグローバル化と個人主義化という、経済と政治にまたがる「リベラル・コンセンサス」の中で相対的な敗者となっている有権者たちの支持を集めているのである。FNの支持者は、やはり移民の流入など社会の変化を歓迎しない保守的な高齢層と、社会的な居場所を見つけられない若年層だ。彼らは、不可避的に進む政治社会での変化に抵抗感を覚えるゆえに、政治的ラディカリズムを支持することになる。
戦後の平等や豊かさを再定義する必要がある
要約すれば、経済的な豊かさが失われていることへの異議申し立てのみならず、戦後政治の中で形作られてきた政治的対立軸の揺らぎが政治的ラディカリズムを各国で巻き起こしていることの理由といえる。
これは、かつて1960年代から70年代にかけて先進国でみられた政治的ラディカリズムとは質を異にしていることにも留意しなければならない。すなわち、平和反戦運動やカウンター・カルチャー、新左翼など、戦後にみられた政治的ラディカリズムは、より良い世界の変革を目指す、未来志向のものだった。「革命」という言葉が同時代に叫ばれたのは偶然ではなく、社会の側が政治に革命を求め、その結果として、よりリベラルな価値観が重んじられる、アメリカの社会学者イングルハートのいう「静かな革命」が進んでいった。
しかし、現在の政治的ラディカリズムは、国民国家の枠で仕切られた同質的な民主政治とマイルドな資本主義を両輪とする、いわゆる「ケインズ主義的福祉国家」によって作り上げられてきた「分厚い中間層」の復活を求める、むしろ保守的で反革命的な性質を持っている。これは、政治の側が進めた革命が過剰になったことに対する社会の側の抵抗といってもよい。その表れこそが、トランプやサンダースや、欧州の極右・極左勢力なのであろう。
このことは、戦後に実現されてきた社会的な平等や経済的な豊かさが再定義されなければならないということも意味している。世界経済のグローバル化やこれに伴うヒト・モノ・カネ・サービスの移動はとどめようがないし、他方で社会での個人の解放や自己決定権の拡大も押しとどめようがない。しかし、これらの現象が政治的ラディカリズムを呼び込んでいるのだとしたら、私たちは戦後に実現し、獲得してきた社会的平等と経済的豊かさをどのような異なる手段で再び手にすることができるのかを、真剣に考えなければいけない時期にさしかかっているだろう。そうでなければ、これから私たちは第二、第三のトランプやサンダース、その他のラディカル政治を目撃することになる。
著者情報
同志社大学教授
吉田徹
よしだ とおる
1975年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。専門は比較政治学、ヨーロッパ政治。著書に『ミッテラン社会党の転換』(2008年、法政大学出版局)、『二大政党制批判論』(2009年、光文社新書)、『ポピュリズムを考える』(2011年、NHK出版)、『感情の政治学』(2014年、講談社)、『「野党」論』(2016年、ちくま新書)、『アフター・リベラル』(2020年、講談社現代新書)などがある。