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EUは死んだのか?(2)

Brexitから考える欧州連合の過去・現在・未来

熊谷徹(ジャーナリスト)

 EUとドイツ政府にとって、エルドアン政権が法治主義を無視するかのような振る舞いを見せていることは、大きな頭痛の種だ。その理由は、難民危機の解決をめぐり、ドイツとEUはトルコに大きく依存しているからだ。
 2015年9月、メルケル政権はハンガリーで立ち往生していたシリア難民らを受け入れる決定を行い、約100万人の亡命申請者を受け入れた。シリア難民にとって、トルコから船でギリシャへ渡り、バルカン半島を縦断してドイツへ向かう「バルカン・ルート」は西欧に到着するための最短ルートだった。
 EUにとって、16年3月のトルコとの合意は、バルカン・ルートを遮断する上で、極めて重要な意味を持っていた。さらにいうと、現在はマケドニア、セルビア、クロアチア、スロベニアなどが国境を閉鎖したために、バルカン・ルートを通って西欧へ向かう難民の数は、大幅に少なくなっている。
 EUを悩ませているのが、エルドアンがクーデター未遂事件後、死刑制度の復活をほのめかしていることだ。死刑制度がある国はEUに入ることができないため、トルコは04年までに死刑を廃止した。EU加盟国の間からは、「トルコが死刑を復活させたら、EU加盟交渉を中止するべきだ」という意見が強まっている。
 トルコとEUの関係がさらに険悪化した場合、難民合意が破綻し、再びトルコ経由で西欧をめざす難民の数が急増するかもしれない。EUは、第二次世界大戦の経験に基づき、人権の尊重や表現の自由、法治主義の重視といった原則を絶対に侵すことはできないと考えている。クーデター未遂事件以降のトルコ政府の態度は、これらのEUの基本精神に反するものだ。その意味で、トルコのEU加盟の可能性は大きく遠のいたと言わざるを得ない。

著者情報

ジャーナリスト

熊谷徹

くまがい とおる

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局在勤中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツのミュンヘン市に在住。統一後のドイツの変化、ヨーロッパの政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材・執筆を続けている。著書に『新生ドイツの挑戦』(1993年、丸善)、『びっくり先進国ドイツ』(2004年、新潮社)、『顔のない男―東ドイツ最強スパイの栄光と挫折』(2007年、新潮社)、『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争の真実』(2012年、日経BP社)、『日本とドイツ―ふたつの「戦後」』(2015年、集英社)、『偽りの帝国―緊急報告・フォルクスワーゲン排ガス不正の闇』(2016年、文藝春秋)、『イスラエルがすごい―マネーを呼ぶイノベーション大国』(2018年、新潮社)、『ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が「豊か」なのか』(2019年、青春出版社) など多数。『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』(2007年、高文研)で第13回平和・協同ジャーナリスト奨励賞受賞。ホームページはhttp://www.tkumagai.de/

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