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フランス大統領選挙が浮き彫りにした、大都市と地方の亀裂(2)

史上最年少の新大統領はフランスを統合できるのか?

熊谷徹(ジャーナリスト)

 マクロンが政府比率を減らし、企業の競争力を高めるには、隣国ドイツが行ったような痛みを伴う改革が不可欠である。ゲアハルト・シュレーダー前ドイツ首相は、03年に「アゲンダ2010」の名の下に、雇用市場と社会保障制度の大改革を断行した。長期失業者への給付金を生活保護の水準まで引き下げて、再就職への圧力を高めた。彼は、第2次世界大戦後のドイツで最も根本的なこの改革によって、労働コストの伸び率を抑えて、企業の競争力を高めることに成功した。2010年以降のドイツが好景気に沸いている理由の一つは、「アゲンダ2010」である。シュレーダーは低賃金部門を拡大することによって、一時は500万人に達していた失業者数を約300万人にまで減らした。この改革によって、ワーキング・プアの問題が生まれたという面もあるものの、少なくとも雇用統計の上では失業者数を減らすことに貢献した。ドイツの失業率が、フランスの半分以下に下がったのも、シュレーダーの功績である。
 フランスの政治家たちも、同国の経済を建て直すには、ドイツと似たような荒療治が必要であることを知っている。マクロンは、選挙運動の前半では、国の歳出を600億ユーロ(7兆2000億円)減らし、公務員や公共企業の社員数を12万人減らす方針を明らかにしていたが、後半戦ではこれらの公約を口にしなくなった。彼は経済大臣だったときの経験から、改革案が市民の猛反対に遭遇することを知っているのだ。
 シュレーダーの「アゲンダ2010」も、有権者から激しく批判され、彼が率いた社会民主党(SPD)は州議会選挙で連戦連敗。05年の連邦議会選挙でも一敗地にまみれて首相の座を追われた。シュレーダー改革が果実を生み始めたのは、彼が政界を去ってから5年後のことだった。
 マクロンは、国民に痛みを強いる改革を断行できるだろうか。フランスの労働組合は、ドイツよりもはるかに戦闘的であり、改革の歩みは難航するだろう。彼はまず6月11日と18日に行われる国民議会選挙で、政治的基盤を固めなくてはならない。
 万一マクロンが改革に失敗し、フランスの失業率を改善できない場合、有権者が不満を強め、2022年の大統領選挙でルペンの得票率をさらに押し上げる危険もある。フランスが大都市と地方、グローバル化の勝ち組と負け組との間で分断されている限り、右派ポピュリズムという「ダモクレスの剣」は、フランスの頭上から去らない。

著者情報

ジャーナリスト

熊谷徹

くまがい とおる

1959年東京生まれ。早稲田大学政経学部卒業後、NHKに入局。ワシントン支局在勤中に、ベルリンの壁崩壊、米ソ首脳会談などを取材。90年からはフリージャーナリストとしてドイツのミュンヘン市に在住。統一後のドイツの変化、ヨーロッパの政治・経済統合、安全保障問題、エネルギー・環境問題を中心に取材・執筆を続けている。著書に『新生ドイツの挑戦』(1993年、丸善)、『びっくり先進国ドイツ』(2004年、新潮社)、『顔のない男―東ドイツ最強スパイの栄光と挫折』(2007年、新潮社)、『なぜメルケルは「転向」したのか―ドイツ原子力四〇年戦争の真実』(2012年、日経BP社)、『日本とドイツ―ふたつの「戦後」』(2015年、集英社)、『偽りの帝国―緊急報告・フォルクスワーゲン排ガス不正の闇』(2016年、文藝春秋)、『イスラエルがすごい―マネーを呼ぶイノベーション大国』(2018年、新潮社)、『ドイツ人はなぜ、年290万円でも生活が「豊か」なのか』(2019年、青春出版社) など多数。『ドイツは過去とどう向き合ってきたか』(2007年、高文研)で第13回平和・協同ジャーナリスト奨励賞受賞。ホームページはhttp://www.tkumagai.de/

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