内政に火種を抱え、外交で孤立化する習近平政権
安田峰俊(紀実作家)
こうした表舞台の事件と並行して、2018年から深刻化を続けている米中対立の不協和音がBGMのように流れ続けている。当初は主に貿易戦争の形が取られることが多かった米中両国の対立は、2020年に入ると新型コロナウイルスの武漢市内の研究所からの漏洩疑惑が新たな焦点となり、さらにアメリカにおいてファーウェイなど中国製品の締め出し、果てはTikTokやWeChatなどの中国製アプリの使用禁止が伝えられるまでになっている。8月にはトランプ政権が香港国安法への制裁として、林鄭月娥香港行政長官をはじめ香港政府及び中国側の香港行政関係者11人の在米資産凍結も打ち出した。
2020年に入り、中国は国際的な圧迫をより強く受けるようになっている。だが、特にコロナ禍以来、中国の外交官や国内メディアは欧米諸国に対してことさら挑発的な主張(中国国内の人気アクション映画のタイトルから「戦狼外交」と呼ばれる)を繰り返し、国内向けには中国が他国と比較してコロナ流行を抑制できている理由を「体制の優位」に求めるようなプロパガンダも増えた。また、WHOのテドロス事務局長がコロナ禍に際して中国寄りの言動を繰り返したケースのように、国際機関や友好国に対する政治的コントロールも活発だ。
もともと1980年代以来、日本を含めた西側諸国の対中政策は、中国を政治的に強く刺激することなく(つまり中国国内問題への介入をある程度は抑制して)中国の経済発展を支援し、来るべき民主化に向けての体制改革を根気強く待っていくという友好的な路線が選択されてきた。だが、習近平政権下での中国の台頭や強権体制の強化、さらには中国が自国の体制モデルの輸出すら図っているかに見える行動をとっていることで、近年は友好的な対中姿勢の見直しが進むようになっている。2019~2020年にかけて、コロナと香港・ウイグルといった、国際的非難を招きやすい諸問題が表面化したことで、もはや中国への強い警戒が西側諸国の新たなスタンダードに変化した感すらある。
中国はひとまずコロナを抑え込んだが、外交的な摩擦と、世界的な反中国感情の高まりは深刻だ。3期目を迎えることがほぼ間違いないと思われる習政権だが、中国の孤立化が進む限り、その前途は決して安定したものとは言い難いだろう。
著者情報
紀実作家
安田峰俊
やすだ みねとし
1982年、滋賀県生まれ。立命館大学人文科学研究所客員協力研究員。朝日新聞論壇委員。『八九六四』(KADOKAWA)で2018年に第5回城山三郎賞、2019年に第50回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。他に『和僑』『境界の民』(KADOKAWA)、『さいはての中国』(小学館)、『性と欲望の中国』(文春新書)、『「低度」外国人材』 (角川書店)、『北関東「移民」アンダーグラウンド』(文藝春秋)、『戦狼中国の対日工作』(文春新書)、『恐竜大陸 中国』(角川新書)など著書多数。