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社会問題

年金財源の「税方式議論」の真相

その根拠と必要性を検証する

駒村康平(慶應義塾大学経済学部教授、慶應義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センターセンター長)

 このように、税方式への移行は、家計に与える影響は大きい。税方式が本当に必要なのかをよく考える必要がある。
 税方式の根拠は、(1)国民年金の加入者の3割から4割が保険料を支払わず、(2)その結果、国民年金制度は崩壊する、(3)税方式にすれば、宙に浮いた年金などの問題はなくなり、年金記録を管理する必要がなくなる、といったことが指摘される。一見もっともらしい指摘であるが、きちんとデータを見る必要がある。
 まず、(1)のいわゆる国民年金空洞化の問題だが、確かに国民年金の1号被保険者(自営業、非正規労働者、厚生年金に適用されていない正社員・常用労働者)のうち、年金を納めていない人は3割以上になり、免除も加えると4割になる。ただし、忘れてはいけないのは、国民年金の加入者は、1号被保険者だけではなく、厚生年金加入者である2号被保険者とその配偶者である3号被保険者もおり、これらの人々は全員保険料分を支払っている。したがって、1号、2号、3号被保険者を合計した国民年金加入者全体に占める未納者は、せいぜい10%程度にすぎない。国民年金は、事実上破綻しているという見方自体が間違っていることになる。
 次に、(2)の国民年金制度は崩壊するという指摘であるが、10%の人が未納になっており、皆年金制度の看板は壊れてはいるが、未納者は将来年金を受給できないため、年金財政に与える影響は限定的である。10%の人が支払わないからといって、年金財政は破綻しないことは、社会保障国民会議の分析でも確認されている。
 (3)の社会保険庁の年金記録問題であるが、宙に浮いた年金の多くが厚生年金である。厚生年金の記録管理は引き続き必要であるし、厚生年金の財政の方が大きいので、国民年金・基礎年金を税方式にしても何の解決にもならない。
 このように、「年金空洞化だから、税方式にすべきである」という議論は根拠がない。では、なぜ経済界などは、税方式を主張するのであろうか。真の目的は次の2つである。(1)厳しい高齢化の中で、保険料のさらなる引き上げが不可避になっており、若い世代の負担も限界に近づいている。こうしたなか、現役時代に支払った保険料負担よりも多くの年金を受給している高齢者に、追加負担をしてもらおうという世代間の負担問題。(2)企業にとって、賃金や人件費に比例する社会保険料よりも、支出に比例する消費税の方が経済成長にプラスになるのではないかという点である。
 税方式の是非を議論するのであれば、根拠のあいまいな空洞化論ではなく、このような「真の目的」を根拠に大いに「抜本的」改革の議論をすべきである。ただし、先にみたように、税方式にすれば国民の間での負担の構成が大きく変わるため、社会的なコンセンサスを得るのは容易ではない。特に、有権者の構成が急速に高齢化しており、政治的な調整が次第に困難になっているなか、こうした大規模な財源構成の見直しをする時間的な余裕はない。そもそも年金の空洞化を拡大したのは、他ならぬ企業の責任が大きい。厚生年金加入の正社員の抑制、非正規労働者の増加が、年金空洞化の拡大の決定的な原因である。非正規労働者への厚生年金適用こそが経済界に求められる本当の責務である。
 ところで、世界的にみて基礎年金の税方式を採用している国はどのくらいあるのだろうか。かつてはスウェーデン、フィンランドは基礎年金に相当する部分を税財源で賄っていたが、1990年代に財政赤字と高齢化が進むなかで、基礎年金の税方式は廃止され、所得比例年金が不十分な高齢者にのみ補足的に給付される最低保障年金になっている。「基礎年金の税方式」にして、高齢者全員に税財源で年金を保障しながら、上乗せの報酬比例年金を加えるという、巨大な年金政策をやっている国はどこにもない。基礎年金の税方式を採用している国は、ニュージーランド、カナダ、オーストラリアであるが、このうち、ニュージーランドとオーストラリアには厚生年金というのは存在していない。カナダは非常に小さな報酬比例年金が存在するだけである。日本の基礎年金税方式は、世界の流れと逆方向なのである。
 では、どのような改革が望ましいのか。国庫負担2分の1を達成すればよいのか。そうではない。65歳以上全員に一律の年金を給付するという基礎年金の考え方自体を切り替えることである。国民全員を、負担能力に応じて保険料を支払う所得比例年金に一元化し、老後、所得比例年金が少ない高齢者にのみ、税を財源とした最低保障年金を給付すればよいのである。

著者情報

慶應義塾大学経済学部教授、慶應義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センターセンター長

駒村康平

こまむら こうへい

1964年生まれ。慶応義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。著書に『年金はどうなる』(2003年、岩波書店)、『年金と家計の経済分析』(共著、2000年、東洋経済新報社)など。

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