2020年も油断できない! 超大型台風被害から考える、これからの防災対策
饒村曜(気象予報士)
(構成・文/山田久美)
ただし、ビルの上階への避難については、日常的な防犯の観点からも、不審者と避難者が分けられるように、予めルールを決めておくことが不可欠です。例えば、和歌山県などでは、津波が発生した際、誰でもが近くのビルの屋上に避難できるように、外階段を設置した場合、それに対して、補助金を出しています。外階段を設置することで、ビル内に知らない人が侵入するのを防ぐことができます。外階段がなくとも、学校などが近隣のビルと協定を結び、万が一の際には、生徒をビルの屋上に避難させるようにしてもよいでしょう。
また、東京、大阪、名古屋などの大都市は、すべて沿岸部の低い土地にあります。その方が交通の便が良いため、物流も発達しやすく、生活しやすいからという理由で歴史的に発展してきたのです。反面、これらの土地は水害のリスクが高いという短所も持っています。とはいえ、日常生活における利便性は捨てがたいものがありますから、いつかは水害が起こるとわきまえ、常日頃から避難場所などを知り、備えておくことが大切です。
防災スキル②自分自身の「防災袋」を用意しよう
さて、避難には、「一次避難」「二次避難」があります。命を守るため、まずは、緊急避難所やビルの屋上などに避難することを一次避難といい、被災後、復旧までの間の避難を二次避難といいます。台風ならば数日で済む一次避難とは異なり、二次避難は長期間に及ぶことが多くなるでしょう。そのため、災害時に備えて、実家や親戚の家など二次避難の場所を予め決めておくことをお勧めします。
また、一次避難の際、すぐに持ち出すことができる「防災袋」の用意も怠ってはいけません。緊急時、大荷物を持って避難することはできません。防災袋の中に入れられるものは限られます。そこで、私は、「これがないと一日たりとも我慢できない」という感覚を判断基準にすることを勧めています。例えば、乳幼児の場合は粉ミルクや液体ミルクがなければ生きていられません。持病のある方であれば、薬が不可欠です。視力の弱い方は、メガネがないと生活できません。また、甘党で「甘いものがないとイライラしてしまう」という人であれば、甘いお菓子は必須となるでしょう。要するに、市販の防災袋をそのまま使うのではなく、自分の基準で自分だけの防災袋を作っておくのです。
ある幼稚園では、子どもたち自身に防災袋を作らせていました。大好きなおもちゃや、これが傍にないと眠れないといったぬいぐるみなど、いざというときにどうしても持って逃げたいものを自分たちに選ばせるのです。
逆に、市販の防災袋の中に入っているものは、食料、水、簡易トイレなど、災害時、真っ先に救援物資として運ばれるものが多いため、当座必要な量さえ持てば、大量に防災袋に入れておく必要はありません。
私の場合、いざというときのために、90代の両親に携帯電話を渡しています。普段、両親は、携帯電話を持ち歩くことはなく、使い方も知りません。しかし、災害時には、私の携帯電話の番号を書いたメモと一緒に防災袋の中に入れて持ち出してもらうようにしています。それにより、避難先などで、周囲の人に両親に代わって連絡をお願いすることができるというわけです。
「いつ自分が被災するかわからない」ということを肝に銘じ、万が一の場合には、すぐに防災袋を持って避難できるように用意しておくことが重要です。
防災スキル③自分が住んでいる地域を知ろう
また、防災対策の第一歩として、まずは、自分が現在、住んでいる土地の歴史を自分で調べるということも大切です。国土地理院では、明治時代の地図なども公開しています。明治政府は、「国家の基本は地図である」と考え、国家を作る際、地図の整備から始めました。そのため、約100年前の古地図などが結構残っているのです。それを見れば、現在、自分が住んでいる土地が、以前はどのような場所だったのかがわかり、水害の潜在リスクなどを知る大きな手がかりになります。
ちなみに、私がよく感じることは、家の購入は人生における最大のイベントの一つであるにもかかわらず、その土地に関する情報を、自分で調べる人が少ないということです。物件が「割安」「お得」だと感じたら、何か事情があるかもしれないということを、よく覚えておきましょう。
例えば台風19号で甚大な被害を出した神奈川県の武蔵小杉駅とその周辺は、平地であり、数多くの路線を利用することもできる、平常時であれば非常に便利な住宅街です。しかし古地図を見ればすぐわかるのですが、ここはかつて多摩川の流路で、開発前は沼地だったのです。家を売りたいデベロッパーを信じすぎず、自分たちで確かめることを忘れてはいけません。
自分が住む地域について知るためには、学校での防災教育も非常に重要です。ここで、私自身がお勧めする防災教育を紹介しましょう。それは、子どもたちに、通学路を中心に、周辺地域に危険な場所がないかどうかを調べさせ、その結果を基に、防災マップを作らせるというものです。それにより、いざというときに、迅速かつ適切な行動を取ることができます。また、和歌山県のある小学校では、「海抜〇〇メートル」というプレートの設置を手伝う取り組みを行っていると聞きました。それだけで、子どもたちの防災に対する意識が高まります。社会科や地理の授業でも、防災の話題をどんどん取り入れ、家庭にフィードバックしていけるようになっていってほしいと思います。
防災スキル④ハイテクとローテクの組み合わせで災害を乗り越えよう
これら事前の備えのほか、災害時には、情報リテラシーがとても重要になります。インターネット上には、気象庁や国土交通省などによる最新情報や詳細情報が、随時アップされます。携帯電話やスマートフォンを使ってインターネットにアクセスできる人にとっては利便性が高いサービスですが、インターネットを使うことができない高齢者などには、その情報は届きません。そのための対応策として、私は、家族やコミュニティの中で、得意な人が苦手な人をサポートすることを推奨しています。例えば、お孫さんが祖父母に安否確認をかねて、電話して情報を伝えてあげることなどです。これには別の効果もあります。億劫がって避難しようか迷っている場合でも、孫に「危ないから」と背中を押されれば、避難してくれるかもしれません。
また、ハイテクを駆使してインターネット上から最新情報を収集してくることも重要ですが、ローテクも重要です。例えば、電源設備が乏しい避難所などでは、壁新聞が最も有効な情報伝達手段となります。自分が知っている情報を壁新聞に書き込んでいき、周囲の方々と情報を共有するのです。
また、オール電化の家庭では、停電に備えて、ロウソクやガスコンロ、ガスボンベを用意しておくことも重要です。断水の際にも、雨水などを煮沸すれば、飲料水として使えます。このように、テクノロジーのみに頼るのは危険であり、ハイテクとローテクの両方を補完的に組み合わせることがポイントです。
「ついで防災」も重要なスキルです。これは、何かのついでに防災に備えるということです。例えば、キャンプ用のアウトドア用品はほとんどが防災に使えます。テントは避難所で、炭やガスは炊き出しに、といった具合です。ただし、持っているだけで、いざというとき使い方がわからないのでは意味がありませんし、炭やガスが足りない!ということになってもいけません。家族や友人とキャンプに行って、テントの組み立て方、炭のおこし方を何度も確認して身に付け、さらに、バーベキューセットなどは使い終わったらきれいに整備しておくこと、そして、消耗品は必ず新品を補充しておくことが大切です。
「ついで防災」のよいところは、使い慣れているので、緊急時にも慌てずに済むという点です。また、いかにも防災グッズといったものでなく、おしゃれなデザインのものを選ぶことで、普段使いを楽しんでもよいでしょう。生活の中で、遊びの中で、防災のスキルを磨けるのです。
最後に、「知恵の備蓄」についてもお話ししましょう。私は、被災によるさまざまな経験に基づき得た知恵をためておくことを、「知恵の備蓄」と呼んでいます。ここまで述べてきたような「知恵」は、すべて体験や経験を通して得たものであるため、いざというとき、必ず役立ちます。さらに、これをより多くの人々と共有することで、災害に備えるのです。
自然災害はいつどこにやってくるかわかりません。自分だけは大丈夫などと決して思うことなく、常日頃から防災対策を怠らないように心がけましょう。
著者情報
気象予報士
饒村曜
にょうむら よう
1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後、気象庁に入り、予報官などを経て、1995年の阪神・淡路大震災のときは神戸海洋気象台予報課長を務める。その後、福井・和歌山・静岡地方気象台長、東京航空地方気象台長として勤務。気象庁を退任後は青山学院大学非常勤講師などを務めた。著書に『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社、2015年)など。