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もう一つの緊急事態!「誰も路頭に迷わせない」ソーシャルアクションの記録(1)~ コロナ禍の中で奮闘する生活困窮者支援の現場から

稲葉剛(一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事)

・大家さん側に釘を刺したので、今度は入居者側に自分の居住権と生存権を知ってもらうためのブログ記事(住宅維持編1生活再建編2)を書く。無理やり、追い出されなくても、家賃を滞納した時点であきらめてしまい、自分から部屋を出てしまう人が多いので、それを防ぐための情報発信である。幸い、これらの記事もSNSで広く拡散され、たくさんの人に読んでもらうことができた。
Twitterを見ると、ライブハウスの営業停止で苦境に陥っているミュージシャンの間でも、記事はまわっているようだ。ぜひ自分の権利を知って、行使してほしい。
・以前、都内の路上生活者の実数を把握する深夜の調査を行う「東京ストリートカウント」の活動を通して知り合った北畠拓也さんよりメール。
北畠さんは現在、まちづくりのための事務所を経営しているが、コロナ危機により住まいを失う人が急増することを懸念し、都内のホームレス支援団体と一緒に東京都に緊急要望書を提出したいという。
「つくろい」として賛同すること、他の支援団体にも声をかけることを約束し、都庁申し入れの日程を調整してもらうことにする。


3月30日(月)

・欧州から日本に旅行に来ていた若者からのSOS。帰りの航空機が飛ばなくなったため、帰国できず、滞在が長引いている間に所持金が尽きてしまった。このままでは路上生活になるというメールが入ったため、「つくろい」の事務所で面談する。日本のアニメが好きで、仕事でお金を貯め、憧れの東京にやって来たとのこと。母国からのチャーター便が来るまでの数日間、「東京アンブレラ基金」から緊急の宿泊費を渡す。
・「東京アンブレラ基金」は、「今夜、行き場のない人」に緊急宿泊のための資金を支援するため、都内のさまざまな団体と一緒につくった共同の基金で、「つくろい」が事務局を務めている。昨年のクラウドファンディングでは、約600万円の寄付金が集まり、スタートできた。
当初はもちろん、日本に来ている観光客に利用してもらうことになるとは想定していなかった。緊急時だから、誰が路上生活になってもおかしくない状況にあることを再確認する。
・家賃滞納に関する私のブログ記事を読んだ方から、相談のメールが届く。自営業の売り上げが減り、賃貸住宅の家賃を滞納。家賃保証会社から出ていけと言われているという。住宅問題に詳しい弁護士につなぎ、相談をしてもらうことに。
後日、分割払いで解決できたというメールが届く。


4月1日(水)

・つくろい東京ファンドの広報担当の佐々木大志郎と相談をして、個室シェルター増設の寄付キャンペーンを正式に始めることにする。キャンペーンを始めて、Twitterで拡散された途端、多くの個人からの寄付が届く。
・以前から私たちの活動を応援してくれている批評家の若松英輔さんもTwitterで呼びかけてくれている。若松さんのツイート効果は絶大で、ありがたい限り。


4月2日(木)

・若松さんが主宰をしている講座を受講しているという女性から、自分が所有している空き家の一軒家を提供したいという連絡があり、内見をさせてもらう。NHKの取材班が同行する。2階建ての大きな一軒家で、大家族でも暮らせる居住環境。なんと、無償で提供してくれると言ってくれている。来週から使用できることに。

無償で借りられることになった一軒家 写真提供/つくろい東京ファンド


4月3日(金)

・北畠さん呼びかけの都庁への申し入れは、「つくろい」やビッグイシュー基金を含め、都内の6つのホームレス支援団体が連署することになった。午前中、東京都福祉保健局の担当者に会いに行き、緊急要望書を提出。担当者からは、問題意識を共有しているという感触を得ることができた。

東京都に申し入れを行う 写真提供/つくろい東京ファンド

・その後、都庁記者クラブで記者会見。多数の記者が参加。記者会見における私の発言内容は以下のとおり。

「コロナ危機により今後、新たに住まいを失う人が急増するリスクがあることに加え、緊急事態宣言が発出されてネットカフェが休業になれば、そこで寝泊まりをしている約4000人が一斉に居場所を失う可能性がある。ネットカフェを出された人の多くは路上生活になったり、地方に移動したりする。そうなれば、感染の拡大を防ぐという観点からも問題が大きい」

「また、従来の行政によるホームレス支援では、生活保護を申請した人に対して、各区が多人数部屋の民間施設を紹介することが通例となっており、これも感染症リスクという点で問題がある」

「ロックダウンになったロンドンやパリなどの外国の大都市では、行政がホテルを借り上げてホームレス状態の人に提供するという緊急対策が実施されている。都も諸外国を見習い、ホテルや住宅などの個室提供を軸とした緊急支援を早急に始めるべきである」

・私は長年、行政がホームレス状態にある生活困窮者に対して適切な支援を行わないことを批判してきた。
近年になって、公的な支援策は拡充されたが、依然として行政の支援が「相部屋の施設」を前提としているのは、人権上も、支援策の有効性からも問題であると指摘してきた。感染症問題にかこつけるようなかたちで持論を主張するのは本意ではないが、今回は戦術として、個室を提供しないと公衆衛生上の問題が生じるという点に力点を置いて主張することにした。この日の申し入れ、記者会見の模様は各社が報道してくれた。
・午後、北畠さんととも都議会議事堂に行き、各会派の控室を訪問。与野党の都議会議員に緊急要望書を渡し、協力を要請。会派を問わず、問題意識は持ってくれ、都への働きかけを約束してくれる。


4月6日(月)

・小池都知事の夜の記者会見。緊急事態宣言が発令された場合の東京都の緊急対策の一つに、失業などに伴い住む場所を失った方々に一時的に住宅などを提供する事業を実施すると表明。都の補正予算から12億円を計上したとのこと。
ネットカフェへの休業要請により居場所を失う人も緊急支援の対象になるのか、という質問が記者から出る。私たちの記者会見の際、熱心に質問をしてくれた新聞記者だ。

小池都知事の回答。
「では私から。先ほどの、明日の、専決を行います予算232億円の中に、12億円盛り込ませて頂いております。これは、まさしくご質問にありましたようなところで、実は寝泊りもされておられるという方々、こういった方々が、仮の住まいと言いましょうか、滞在できる場所を確保するということを念頭に置いたものでございます。また、失業という、今、そのような現状がある中において、失業が増えているという、これらのことで、一時的な滞在場所を確保するという対応策でございます。おっしゃるご質問のとおりだと思っております」

やった! これで何とか混乱は回避できる。そう思ったのは、甘かったと後で知ることになる。

もう一つの緊急事態!「誰も路頭に迷わせない」ソーシャルアクションの記録(2) ~コロナ禍の中で緊急性を増す生活困窮者支援の現場・その後 はこちら〉

 

◆上記記事中のリンクまとめ(外部サイト、ブログへ接続します)
一般社団法人つくろい東京ファンド
住まいの貧困に取り組むネットワーク
認定NPO法人ビッグイシュー基金
緊急アピール「すべての家主、不動産業者、家賃保証会社への緊急アピール ~家賃滞納者への立ち退き要求を止め、共に公的支援を求めましょう~ 」
著者ブログ:家賃が払えない!生活費が尽きた!そんなあなたにできることは?(1)住宅維持編
著者ブログ:家賃が払えない!生活費が尽きた!そんなあなたにできることは?(2)生活再建編
新型コロナの影響で住まいを失った方を支えるため、個室シェルターを増設します! 
新型コロナウイルス感染拡大に伴う路上ホームレス化の可能性が高い生活困窮者への支援強化についての緊急要望書

 

著者情報

一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事

稲葉剛

いなば つよし

 1969年、広島県生まれ。立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授、認定NPO法人ビッグイシュー基金共同代表、住まいの貧困に取り組むネットワーク世話人、生活保護問題対策全国会議幹事、いのちのとりで裁判全国アクション共同代表。東京大学教養学部卒業。94年から東京都の新宿を中心に野宿者の支援運動に参加。2001年、「自立生活サポートセンター・もやい」を設立。貧困問題の相談や支援に取り組む。14年、一般社団法人「つくろい東京ファンド」を設立し、空き家・空き室活用による低所得者支援を事業化。著書に『閉ざされた扉をこじ開ける』(朝日新書 2020年)、『貧困の現場から社会を変える』(堀之内出版 2016年)、『鵺の鳴く夜を正しく恐れるために―野宿の人びととともに歩んだ20年』(エディマン/新宿書房 2014年)、『生活保護から考える』(岩波新書  2013年)、 『ハウジングプア』(山吹書店  2009年)など。共著書も多数。

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