imidas - 情報・知識&オピニオン

探究

社会問題

洪水、干ばつ……“異常”気象が常態化する日~気候危機はここまで来ている

橋本淳司(水ジャーナリスト、武蔵野大学客員教授)

 メディアは気候変動について説明し、どんな対策ができるのか実践的なことを広く伝え、リテラシー向上に努めるべきだ。気候変動には「緩和」「適応」の2つの対策がある。「緩和」は根本的な原因の解決につながること。再生可能エネルギーの導入や省エネルギー対策による温室効果ガスの排出削減、森林等の吸収源の増加などによって温室効果ガスの排出を抑制し、気候変動を食い止める。後者の「適応」は応急処置。自然や人間社会の在り方を調整し、被害を最小限に食い止める。メディアが伝えているのは多くの場合、後者の適応策に留まっている。

食料問題と気候変動のつながり

 メディアで水問題といえば、洪水や干ばつなどに留まり、水が食料やエネルギーとの関係で語られることは少ない。だが、気候危機による食料問題は今後、日本に大きな影響を与えるだろう。2020年6月、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は世界に向けて「何億人もの子どもと大人に長期的な影響を与える世界的な食料危機が差し迫っている」というメッセージを発信した。国連のレポート「世界の食料安全保障と栄養の現状」[*6]によると、2021年に飢餓に陥った人は世界で約8億2800万人で、アフリカでは5人に1人が該当する。飢餓には「突発的な飢饉」と「慢性的な飢餓」があり、「突発的な飢饉」は干ばつ、洪水といった自然災害、紛争などによって発生する。アフリカ東部では蝗害(こうがい)も重なった。2019年10月から12月までの降雨量が過去40年間で最多となり、高温と大雨によりサバクトビバッタが大量に発生して農作物や牧草を食い荒らした。インド洋西部の海水温度が上昇したことも原因だと考えられている。

 しかし、このように世界的な食料危機が迫るなかでも、日本は海外に食料を依存している。2021年度の食料自給率はカロリーベースで38%だった。農業生産の潜在力を示す食料自給力も下がり続けている。仕事として自営農業に従事している人(基幹的農業従事者)はこの20年間に約4割減り、耕地面積は1割近く減った。このままでは、いつか海外から食料を買えなくなることも起こりうるだろう。

気候危機への日本の取り組み①食品ロスや食料システムの見直しが急務

 日本は食料を世界中から買い集める一方で、食品ロスフードロス。食べられるのに捨てられてしまう食品)の多い国で、2019年度には年間約570万トンが廃棄されている[*7]。このうち家庭からの食品ロスは約261万トン。国民1人当たりの食品ロス量は1年で約45キロになる。世界的にも食品ロスは増えている。2021年に発表された、世界自然保護基金(WWF)と英国の大手小売「テスコ」の報告書[*8]では、全世界で年間25億トンの食品ロスが発生していることがわかった。これが気候変動に影響を与える。日本では、食品ロスは生ごみとして焼却処分される場合がほとんどだ。焼却すれば、二酸化炭素が発生する。生ごみを埋め立てる国もあるが、そうすると二酸化炭素の25倍以上の温室効果があるメタンが発生する。焼却にせよ埋め立てにせよ、食品ロスを出すことは気候変動に大きな影響を及ぼす。

 気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change:IPCC)による特別報告書「気候変動と土地」[*9]では、2010~2016年に排出された温室効果ガスのうち、8~10%は食品ロスからと推定されている。1位の自動車から排出される量(10%)とほぼ同じだ。

 さらに食品の生産・加工・包装・流通・保管・調理・消費・廃棄など、食に関わるすべての活動を指す「食料システム」にまで話を広げると、世界で排出される温室効果ガスのうち、21~37%は「食料システム」から排出されたものだと推定している。

 農林水産省は2021年5月に「みどりの食料システム戦略」を打ち出した。同省によると、農林水産業の温室効果ガス約4750万トンのうち、約34%が二酸化炭素によるもので、ハウス栽培、トラクター、漁船などで使う化石燃料が原因だ。省エネ化や電動化によって減らし、2050年までに二酸化炭素の排出量をゼロにする目標だ。また、メタンは全体の約46%を占める。これは牛のゲップや水田からも発生する。そのためゲップの出にくい飼料の開発、水田については、田んぼの水をいったん切って土壌を乾かす「中干し」などの水田管理技術に加えて、メタン発生量の少ないイネ品種の開発などに取り組んでいる。

気候危機への日本の取り組み②再エネへの転換と省エネを進められるか

 食料分野だけでなく、エネルギー分野における対策も不可欠だ。IPCCは、地球温暖化の原因は人間が排出した二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスであると断定し、それらの排出量を遅くとも2025年には減少に転じさせ、2030年には現在の半分に、そして2050年にはゼロにしなければならないと警告している。生活のあらゆる分野で変化が必要で、とりわけ石炭や石油などの化石燃料から太陽光や風力などの再生可能エネルギーへの転換を急ぐ必要がある。

 日本はエネルギー自給率も低い。年間エネルギー輸入額(化石燃料)は約18兆円(2018年)と主要7カ国(G7)の中で最大だ。一部には原発再稼働を求める声があるが、地震大国でありリスクは大きい。そのため再生可能エネルギーを中心とした社会へ転換していく必要がある。だが、いまのエネルギー消費量を再エネだけで賄うことはできないため、消費量を減らす必要がある。

 省エネを進めるべき分野は、交通、設備機器、建築。交通分野ではカーシェアリングの促進、公共交通や自転車の利用が必要だ。設備機器では工場やオフィスを省エネ型に切り替える。建築では建物の断熱が鍵を握る。エネルギー消費量の約3分の1は住宅・建築物部門で使われており、なかでも冷暖房のために使われている。これまで日本の建物には断熱等級1から4までの設定しかなく、最高位の等級4でさえ、国際的には極めて低い断熱レベルだった。2022年3月、国土交通省により等級5~7が新設され、4月から順次施行されることで、冷暖房の効率が大幅に上がることが期待されている。

ヨーロッパ広域を襲った大干ばつ。フランスではロワール川が干上がり、船舶が航行困難になった(2022年8月)

使い捨てをやめて、循環型の経済を目指そう

 気候危機の影響は、干ばつや豪雨などの「水の変化」として顕在化する。そこで、水と人の暮らしの関わりについて再考してみたい。遠い昔から、人の暮らしは流域の水の恩恵と脅威を受けてきた。恩恵とは、飲み水にはじまり、炊事、洗濯、風呂、トイレなどの生活の水、さらには農業、工業などの生産の水など。半面、水災害などの脅威があり、人は水から暮らしを守らねばならない。

 人間と他の生き物との違いは、道具によって水の動きを変えたことだ。農耕がさかんになると、それまでは水を得るために水辺まで移動していた人間が、自分たちの方へ水を引き寄せた。蒸気機関が発明されると、ポンプでの揚水や導水が可能になり、大量の水を低いところから高いところへ動かすことも可能になった。同時に浄水方法も進化し、エネルギー使用量は増えていった。安全な水の供給を受ける人の数が飛躍的に増え、都市の拡大につながった。水を使うにはエネルギーが必要で、エネルギーをつくるには水が必要という時代が始まった。

 やがて人間の生産活動は地球温暖化につながり、気温の上昇は水の動きを変えた。は人間は大量の資源と水を使って生産活動を行い、浪費と廃棄を繰り返し、水を汚し、このプロセスのなかで温室効果ガスを発生させ、地球の気温を上昇させた。

 成長が前提の資本主義経済において、欲望は経済活性化の原動力だった。しかし、尽きることのない欲望は地球環境を変え、気温の上昇、干ばつや洪水などにより人間の暮らしは困難になっている。気候変動によって水の動きが変われば、利水、治水、食料生産、エネルギー政策などに影響が出る。また、グローバルサプライチェーンの末端にある私たちの生活は、世界各地で作られた食料、製品を大量に消費・廃棄しており、それが水や海の汚染につながっている。流域における身近な水の流れを意識し、水や資源を循環させる社会をつくるべきだ。大量生産、大量廃棄のリニア(直線的)な経済から、足元の水をつかって生産活動を行い、それを大切に循環させる経済への移行が急務だ。

著者情報

水ジャーナリスト、武蔵野大学客員教授

橋本淳司

はしもと じゅんじ

1967年生まれ。学習院大学卒。出版社勤務を経て独立、現在に至る。「水と人間」をテーマに、国内外の取材を重ねる。雑誌への寄稿をはじめ、経済、ビジネス分野での執筆も。著書に『水がなくなる日』(産業編集センター、2018年)、『100年後の水を守る――水ジャーナリストの20年』(文研出版、2015年)、『67億人の水――「争奪」から「持続可能」へ』(日本経済新聞出版社、2010年)など。

関連記事