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2020年代に現れた「ローンウルフ型」ヘイトの背景を探る――ヘイトの変遷と今後の対策

朴順梨(ライター)

 路上で差別を叫ぶデモ隊から政治家にヘイトスピーチのバトンが渡され、そのバトンの欠片を拾った誰かが、さらに悪意を増幅させてヘイトクライムを生み出す。2020年代以前だったらデモや政治家の言動に意識を向けなければ、ヘイトスピーチやマイクロアグレッションを避けることはできていた。しかしどこの誰が、いつ何時凶行に走るのかがまったく推測できない。これまで以上に防御が難しい状況になった気がしてならない。

 

2024年に、ヘイト規制への「黒船」が?

 ヘイトスピーチによって差別の種が蒔かれた大地を、権力は放置し、その発芽を促すような環境を作ってきた。その地からまだ数は少ないものの、ヘイトクライムが育ちつつある。それが2020年代の現在地なのだとしたら、絶望以外の何ものでもない。差別の芽をこれ以上生み出さないためには、何が必要なのだろうか。

「ローンウルフと関係が深いネット上のヘイトスピーチをなくすには、ヘイトスピーチ解消法に罰則を付ける、もしくは包括的な差別禁止法を制定する必要があると思います。ドイツで実施されているように、SNS事業者が被害窓口を作り、申告があれば24時間以内に対処するという制度を作ることです」

 金さんによると、ドイツでは2017年に「SNSにおける法執行を改善するための法律」が制定され、SNS事業者に対して差別扇動など、違法情報に関する苦情を受け付ける窓口と法定代理人を、国内に置くことが義務付けられたという。一方、日本ではSNS事業者の窓口が国内にないことも多く、発信者の情報開示請求のハードルが非常に高いのが現状だ。

「2022年4月に、総務省が『プラットフォームサービスに関する研究会』を開き、権利侵害対策などについて話し合っています。しかし大手プロバイダの代理人は研究会の場で、権利侵害やヘイトスピーチなどの情報開示を拒否しています。何の法的根拠もないというのが理由でした」

 あるプロバイダのニュース記事には、差別的なコメントへの対策がないことが、問題視されている。ウトロに放火した加害者は約1週間、このニュースコメントと「知恵袋」というQ&Aページを読み続け、犯意を育てていったことが公判の過程でわかっている。2022年11月から、コメント投稿の際に携帯電話の番号登録が必須になったものの、現在も差別的なコメントは書き込まれ続けている。

「日本でも2021年にプロバイダ責任制限法が改正され、それまで煩雑な手続きが必要だった発信者情報の開示請求が、簡略化されました。しかしネット上にひとたび書かれたものは、コピペとシェアによって再生産され続けます。書き込んだ犯人を捜している間にどんどん拡散され、増幅していくので、加害者に罰を与える前にまずは削除していく必要があると思います」

 日本は人種差別撤廃条約の締約国でありながら、包括的な差別を禁止する法律はない。ネット上のヘイトスピーチも、個人を名指ししたもの以外は削除のハードルが高いままだ。だが金さんは、EU圏内で2024年から施行されるデジタルサービス法(DSA法)によって、日本も変化していくのではないかと見ている。

「DSA法は利用者の保護や違法なコンテンツへの対応を義務化し、各国内に責任者や法定代理人を置くことを定める法律です。確かに表現の自由は大切ですから、ヘイトスピーチへの法規制は慎重であるべきだという点には同意します。しかしヘイトスピーチが規制されない現在の状況では、安心して暮らせない人たちがいます。誰もが安心して暮らせるためには、差別的な書き込みの削除を容易にするための法改正が欠かせません。DSA法はEU圏内のものですが、施行されたら日本も無視はできないと思います」

 2023年2月に入り、司法判断を待たずに迅速に削除ができるように総務省が「裁判外紛争解決手続き(ADR)」の導入検討を始めたという報道があった。DSA法の施行を待たずして、少しずつ日本でも変化が起きているようだ。

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 デマや流言によって多くの朝鮮人がジェノサイドの犠牲になった1923年から、今年で100年経った。コリア国際学園への加害者は、Twitterへの投稿の中でヘイトクライムどころか、ジェノサイドまで扇動していた。投稿された脅迫的な言葉は、今でも削除されずに残されたままだ。
 100年前、無惨に奪われた魂に「安心して暮らせる世界になりました」と言えるように、悪意の芽を摘み、再び育たないための土台を整備する。次の10年はそうして生きていけるよう、ネットのヘイト規制への動きを注視していきたい。

著者情報

ライター

朴順梨

ぱく すに

1972年、群馬県生まれ。早稲田大学卒業後、TV制作・情報誌編集を経てフリーライターとなり、「AERA」等に寄稿。元・在日韓国人三世。著書に『奥さまは愛国』(北原みのりとの共著、河出書房新社、2014年)『韓国のホンネ』(安田浩一氏との共著、竹書房、2013年)『離島の本屋』(ころから、2013年)などがある。

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