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社会問題

大阪市立小学校、「現場から市長に向けて声をあげた校長先生」の奮闘~公教育のあるべき姿を問い続ける

映画『教育と愛国』にも出演した久保敬校長へのインタビュー

木村元彦(ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト)

 現職の公立小学校校長が自ら名乗りを上げて市長を批判した。2021年5月、大阪市立木川南(きかわみなみ)小学校の久保敬(くぼ・たかし)校長(当時。肩書・役職は以下同。また、以下敬称略)が、大阪市長と同市教育長宛てに公教育に関する提言書を郵送したのである。

 事実を表した字面だけを見れば、前代未聞の過激な行動に映るかもしれない。しかし、これに至るまでには、大阪の教育行政を巡る長く深い背景があった。久保校長は、海外特派員協会『報道の自由』賞を受賞し、大ヒットしたドキュメンタリー映画『教育と愛国』(斉加尚代監督、2022年)にも出演していることで海外にも知られた存在である。その提言書を巡る闘いは現在もまだ続いている。

 日本がコロナ禍にあった2021年4月19日、松井一郎大阪市長が定例記者会見で、「緊急事態宣言が出されたら、大阪市の小中学校は原則オンライン授業にする」ことを突然、宣言した。
 それは教育委員会会議も通さず、議事録も残されない中での首長による授業カリキュラムに対するいきなりの介入であった。この方針をマスコミ報道を通じて知らされた現場の教師たちにとっては、まさに寝耳に水と言えた。各小中学校においてネットのインフラは整っておらず、大阪市の公立校で突然のオンライン宣言に何とか対応できる小学校は、10校にも満たないICT活用モデル校だけであった。ハード面の不備もさることながら、事前に何も聞かされていなかった学校側は、殺到する保護者からの問い合わせに答えることができず、教育現場は大混乱に陥った。

 市長の発言から遅れること3日、大阪市教委は、ようやく方針を通達してきた。小学校の場合、1~2時間目は自宅でプリントとオンライン授業、3時間目から登校して給食後に下校というスケジュールであった。児童全員でのオンライン授業は、到底不可能であることを市教委も分かっていたのでプリントとの併用を決めたのだが、問題は登校時間だった。子どもを学校に早く行かせたい家庭には1時間目からの登校も認めるとしたため、その結果、児童たちはバラバラの登校となり、交通や治安におけるリスクが危惧された。

 2021年度末で定年を迎えることになっていた木川南小の久保敬校長は、市教委からの通達を受けた上で、まず校区の保護者に、登校時間と授業についての希望アンケートを取った。突然の通達で家庭や子どもにストレスをかけたくないという一心だった。回答は1時間目からの集団登校と通常授業の継続を望む声が圧倒的に多く、9割を超えていた。校長判断により、木川南小はいつもどおりに集団で登校させ、4時間目まで授業して給食を食べさせて帰すというやり方を通した。それだけではなく、久保は大阪市HPの「市民の声」窓口に、コロナ対策も学びも中途半端になる一斉オンライン授業の弊害と、子どもの安全のためにも朝から集団登校をする方法がベストであると、3回にわたって現場の声を届けた。

久保敬(2024年1月15日撮影。オンライン取材協力:隆祥館書店)
1961年大阪府枚方市生まれ。85年、大阪市立小学校に新卒で赴任。以後、同市の公立小学校を転任しながら教師、教頭、校長を務める。2022年、校長を務めた大阪市立木川南小学校を定年退職し、同年4月から近畿大学非常勤講師。著書に『フツーの校長、市長に直訴! ガッツせんべいの人権教育論』(解放出版社、2022年)、久保を取材した書籍『僕の好きな先生』(宮崎亮著、朝日新聞出版、2023年)がある。

唐突な「オンライン授業宣言」が招いた混乱

久保「松井市長のオンライン宣言は4月19日の夕方のニュースでいきなり流れたんですけど、僕ら教師は勤務時間中なので観ていなかったんです。ところが、保護者の方から学校に電話がかかってきて『今、市長さんが“一斉オンライン授業にします”とテレビで話してはりますけど、そしたら子どもたちはまた学校へ行かなくなるんですか?』と言われたので分かったんです。保護者の方は1年前(2020年)も3カ月にわたる一斉臨時休校で大変だったのに、再び急に休みになったら、またその態勢をとらないといけないので不安で仕方がなかったのですね。とにかく何も聞いていなかったので、『教育委員会から詳しい知らせが来たらお知らせします』と対応しました。僕は市教委にすぐに問い合わせの電話をかけたんですが、『ちょっとまだどういうことなのか、こちらもよく分からない』との回答でした。その3日後にようやく、バラバラで登校させるような通知が来たんですが、まず保護者の意見を聞きました。うちは不審者情報も少なくない地域なので、やっぱり子どもの安全を考えると、いつもどおり朝に集団登校して給食を食べてから下校としました」

 整備されていないネット環境は木川南小にとっても深刻な問題であった。

著者情報

ノンフィクションライター、ビデオジャーナリスト

木村元彦

きむら ゆきひこ

1962年、愛知県生まれ。中央大学卒業。東欧やアジアを中心に、スポーツ文化や民族問題などの取材、執筆活動を続ける。著書に『誇り』(98年、東京新聞出版局)、『悪者見参』(2000年、集英社)、『終わらぬ「民族浄化」セルビア・モンテネグロ』(05年、集英社新書)、『蹴る群れ』(07年、講談社)、『社長・溝畑宏の天国と地獄』(10年、集英社)、『争うは本意ならねど』(11年、集英社インターナショナル)、『徳は孤ならず』(16年、集英社)、『橋を架ける者たち』(16年、集英社新書)、『無冠、されど至強』(17年、ころから)、『コソボ 苦闘する親米国家 ユーゴサッカー最後の代表チームと臓器密売の現場を追う』(23年、集英社インターナショナル)など多数。『オシムの言葉』(05年、集英社インターナショナル)で第16回ミズノ・スポーツライター賞を受賞。

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