「世界一厳しい」新規制基準で次の原発事故は防げるか?
原発再稼働に向けた原子力規制委員会の審査が着々と進んでいる。政府は、2013年6月に決定した「新規制基準(新基準)」に適合していると原子力規制委員会が判定した原発については再稼働を容認する方針で、すでに、泊(北海道)、大飯、高浜(福井)、伊方(愛媛)、玄海(佐賀)、川内(鹿児島)の各原発について審査が始まっている。原子力規制委員会の田中俊一委員長が「世界一厳しい基準をつくった」と豪語した新基準だが、はたして本当にこの基準を満たせば原発の安全は保証されるのだろうか。
ジャーナリスト・布施祐仁が、京都大学原子炉実験所・小出裕章助教の見解を聞く。
事故の検証もないままつくられた新基準
――そもそも、なぜ新基準がつくられることになったのでしょうか?
これまでも原発の設置許可をする際の基準はあり、原子力安全委員会が審査を行っていました。でも、それが東京電力福島第一原子力発電所の事故を防げなかった。だから、福島の事故の教訓を踏まえて、大規模な自然災害やシビアアクシデント(過酷事故)対策も盛り込んだ新しい基準をつくらなければいけないとなったのです。
しかし、まだ福島の事故の原因すらきちんと検証できていないのに、なぜ新基準などつくることができるのでしょうか。
国会事故調査委員会にしても政府事故調査委員会にしても、未解明な点がたくさんあるとはっきり書いています。地震と津波が多分関係していたというのは私もそう思いますが、どっちがどれだけ影響したかということすらまだ検証されていないのです。
私は、福島の事故の解明は、今後数十年間できないと思います。なぜなら、現場に行けないからです。事故を起こしたのが火力発電所であれば、簡単です。事故が起きた現場に行って、どこがどういうふうに壊れているか一つ一つ調査して、原因を究明していけばいい。でも、こと原子力となると、放射線量が高くて現場に行けないのです。
現場に行くこともできないのに、あたかも何が原因かわかったかのように言うのは、話にならないくらい愚かなことだと思います。


今さら感の防潮壁と防潮扉
――では、田中委員長が「世界一厳しい」と語った新基準の中身を、一つ一つ具体的に検証していきたいと思います。まず、今回の福島の事故の教訓を生かして「津波対策の大幅な強化」を盛り込んだとしています。具体的には、原発敷地内への浸水を防止する防潮壁の設置と建屋内への浸水を防止する防潮扉の設置を義務付けました。これについて、どう評価されますか?
日本は米国から原発の技術を輸入して原発をつくってきました。その米国では、原発の多くは日本のように海岸立地ではなく河川立地なので、そもそも津波の心配はしなくてもいいのです。事故を起こした福島第一原子力発電所は、海抜30mほどの高台だったところを、わざわざ削って標高を低くし建設されました。1号機はいわゆる「ターン・キー」契約で、すべて米国GE(ゼネラル・エレクトリック)社に作ってもらったのですが、GEは津波など全く考えてもいませんでした。
でも、日本の場合は地震国ですし、過去に何度も大きな津波の被害を経験しています。だから、元々津波対策をしなければいけなかったのに、お金がかかるからということでやってこなかったのです。私は、これは犯罪だと思っています。防潮壁にせよ防潮扉にせよ、やるのが当然だし、やるべきです。
すべての活断層は把握できない
――地震についても、活断層の定義は従来どおり12万~13万年前以降に動いたものとしていますが、その地層で判断できない場合は40万年前以降までさかのぼって検討するよう求めています。これには、電力会社から「厳しすぎる」との批判もあがっています。
もちろん、過去の地層を調べて判別がつくものについてはチェックしたほうがいいですし、古くさかのぼった方が、より確度の高い評価ができるでしょう。
しかし、それを調べたとしても、その他に活断層がないという証明にはなりません。活断層は、実際に動いてみて初めてわかることが多いのです。2007年の新潟県中越沖地震でも、それまではわかっていなかった活断層が動きました。
非常用の電源確保対策は不十分
――福島の事故では、地震で外部電源の鉄塔が倒れ、津波で非常用ディーゼル発電機が水没するなどして全交流電源喪失(ステーション・ブラックアウト)に陥りました。この教訓から、新基準では、外部電源を喪失しても原子炉や燃料プールの冷却を継続できるように、非常用ディーゼル発電機や可搬式の電源車を高台に設置するよう求めています。
今回の事故でも、電源喪失してこれは大変だぞと、電源車をたくさん集めてきたのです。しかし、配電盤が津波で水没してしまったために、つなげなかったのです。だから、今後は配電盤を水没しないようなところに設置すると言うけれど、それで安全が確保されるということではけっしてありません。電源車を高台に置いていても、それを配電盤につなぐために移動させる途中で、地震の地割れで移動できないかもしれないし、何が起こるかわかりません。予測できることについては対策ができるけど、わからないことは対策できないのです。そして、予測できないことが起こるから事故になるのです。
冷却のための水を炉心に届ける難しさ
――それでも万が一、全電源喪失した場合に備えて、メルトダウン(炉心溶融)を防ぐために、今回福島の事故でも活躍した消防ポンプ車を使って炉心に注水するとしています。
原子炉圧力容器の内部が高圧の場合には、消防車で注水できません。そのため、圧力容器の逃し弁を開放して、まず容器内の水蒸気を放出して減圧しなければなりません。しかし、減圧をすれば沸点が下がり、冷却水が沸騰して蒸気になってなくなってしまい、メルトダウンを促進してしまうことにもなりかねないので、事はそう単純ではありません。
しかし、とにかく冷却しなければメルトダウンしてしまうので、福島の事故のときは、消防車でも何でも注水できるものがあれば使うように、私も提案しました。ただ、あのときに消防車で注水した水が実際にどれだけ炉心に届いていたかは、まだはっきりしていないのです。水がほかのラインに抜けて、当初考えられていたよりも水は入っていなかったという指摘もあります。
そういった検証がまだなされていないのに、消防ポンプ車を用意すれば大丈夫というのは、あまりに楽観的過ぎます。
フィルター付きベントは機能しない
――新基準では、万が一消防車による注水もうまくいかずメルトダウンが起こってしまった場合にも、格納容器の破損を防ぐための対策として、フィルター付きベント施設の設置を義務付けました。
ベントというのは、原子炉の冷却機能が失われたときに、格納容器の内圧が高くなって破裂しないように、内部のガスを大気中に放出して減圧する設備です。放射性物質のガスを意図的に外に出すわけですから、本来はそんなことをしてはいけませんし、ベントをしなければいけないような事故を想定するなら、そもそも原子炉など作ってはいけません。それでも、どうしても原子炉を作り、ベントも取り付けるというのであれば、私はベント装置の先には当然フィルターが付いているものだと思っていました。
だから、1号機がベントした直後に爆発したとき、ベントしたことによってフィルターが目詰まりを起こし、その結果、格納容器内の水素が建屋にまわって爆発したと思ったのです。しかし、そもそもフィルターは付いていなかったと後で知り、仰天しました。そうか、東電も国も元々、こんな事故が起きるとは想定していなかったし、ベントをしなければいけない事故なんか起こりっこないと考えていたのでしょう。そのため、ベントにフィルターも付けていなかったのだなと気付いたのです。このフィルターのないベントでさえも、一応付けましたという体裁だけだったのです。
フィルターをつけて、それが完全に設計どおりに働けば、ヨウ素もセシウムも90%以上捕捉できると思います。でも、実際の事故においては、設計どおりにいくとは限りません。今回の福島の事故でも、格納容器下部の圧力抑制プールの水を通してからガスを外に放出するウェットベントをやろうとしましたが、期待どおりの機能を果たしませんでした。結果的に、2号機では圧力抑制プールが破損もしましたし、水素爆発も起こした可能性が高いです。
メルトダウンが起きれば、格納容器の中は猛烈な蒸気と水素が充満します。ベントして猛烈な蒸気を含んだガスが格納容器の中からいっきに噴き出してきたら、フィルターはおそらく目詰まりするでしょう。また、ベントフィルターの容器内部で水素が爆発するかもしれません。あるいは、フィルターが目詰まりすれば、上流のどこかで高濃度の水素を含んだガスが建屋内に漏れ出し、今回の事故と同じように水素爆発を起こすでしょう。
仮にフィルターが設計どおりに機能したとしても、放射能を含んだ希ガスは100%出てきます。
事故初期の被曝は希ガスによるものが大きいのです。
それに、加圧水型軽水炉(PWR)へのフィルター付きベントの設置は、5年間の猶予期間を与えるとしています。格納容器の破裂を防ぐために必要だと言いながら、猶予期間を与えるというのはどういうことでしょうか。もし、その5年のうちに事故が起こってしまったら、いったい誰が責任をとるのでしょうか。
プルームは放水では抑えられない
著者情報
ジャーナリスト
布施祐仁
ふせ ゆうじん
1976年、東京都生まれ。『ルポ イチエフ 福島第一原発レベル7の現場』で平和・協同ジャーナリスト基金賞、JCJ賞を受賞。三浦英之氏との共著『日報隠蔽 南スーダンで自衛隊は何を見たのか』で石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞を受賞。著書に『日米密約 裁かれない米兵犯罪』『経済的徴兵制』、共著に『主権なき平和国家 地位協定の国際比較からみる日本の姿』などがある。
イミダスの連載「伊勢崎賢治・布施祐仁に聞く『日米地位協定と主権なき日本』」はこちら!
元京都大学原子炉実験所助教
小出裕章
こいで ひろあき
1949年生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒、同大学院修了。74年から現職。伊方原発訴訟住民側証人。原子力研究の現場から原子力廃絶をうったえる異端の研究者とされてきたが、福島第一原発事故の際に発信し続けた的確な分析と警告が多くの人々の信頼を得て、一躍時の人となった。著書に『原発のウソ』(扶桑社新書、2011年)『隠される原子力 核の真実』(2011年、創史社)など。『imidas』では、1997年版から「原子力」分野の執筆を担当。