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復権するアナログレコード

デジタル化で失った魅力が再評価されている

角田郁雄(録音家、音楽・オーディオ評論家)

 CDアルバムの売り上げが伸び悩み、アップルを代表とする配信サービスで音楽を楽しむ人が多くなった。さらにこの2~3年は、スタジオでしか聴けなかった、CDよりも情報量の多いハイレゾ音源がダウンロードできるようになり、パソコンとUSB DAC、あるいはネットワークプレーヤーといった装置で再生できる時代となった。こうした中で、徐々にではあるが、かつてのアナログレコード(レコード)が流行し始めている。

デジタルに比べて人の感性になじむ音

 この数年、新譜レコードの国内生産が増えているほか、アメリカでプレスされた輸入盤レコードも着実に増加している。なぜ今、レコードが注目されるのであろうか。その一番の理由は、CDなどのデジタル音源よりも、楽器や声の倍音が豊かで、情報のぎっしり詰まった音にある。例えば、ガットギターやベースでは、指がつま弾く様子や弦の豊かな響きに生々しさを感じさせられるし、ドラムのシンバルに耳を傾けると、金属が響くというイメージがよりリアルに把握できる。さらに、魅力的なヴォーカルを聴けば、発音や微妙な声使いに、肉声をも感じさせてくれる。この音質の良さゆえに、クラシック、ジャズ、ヴォーカルの名曲をレコードで聴くと、心に響き、安堵感までも感じられるのである。

再生の過程が楽しい

 現在、レコードを楽しむ人は、オーディオ愛好家だけではない。ごく普通に、昔、レコードを聴いていた人や団塊の世代も多い。レコードプレーヤー(プレーヤー)のトーンアームレコード針カートリッジ)を取り付け、レコードをターンテーブルにセットし、回転させる。そして、ゆっくりとレコードに針を落とす。この一連の動作がまた楽しみでもある。デジタルの機器になじんだ人にとっては難しそうに思えるだろうが、製品の取り扱い説明書を見れば、ほとんど理解できるだろうし、分かりにくければ、購入先からアドバイスも受けられる。レコードの取り扱いやプレーヤーの基本調整については、オーディオ雑誌などでも紹介されているので、購入以前にこうした本を読み、製品の情報も把握しておくと良いだろう。

お宝発掘やジャケットを楽しむ

 東京のお茶の水や新宿などをはじめ、全国各地に、中古のCDだけでなくレコードも扱う専門店がある。休日などに出かけ、レコードコーナーに立ち寄ると、お目当てのアルバムを探す多くの愛好家を目にする。初めて行かれる人は、愛好家が多いことに驚かれるかもしれない。CD化されていない過去の名盤もあるほか、特にジャズやクラシックは人気がある。新譜では、ダイアナ・クラールやノラ・ジョーンズなどの人気アーティストのレコードも発売されている。
 また、レコードの楽しさは、音や、少し手間にも思える再生までの過程だけではない。何といっても、ジャケットが大きく、写真やデザインが良いのだ。例えば、アメリカの有名なジャズレーベルのブルー・ノートや、コロンビアのジャズ・トランペット奏者のマイルス・デイビスのアルバムなどには、ちょっと壁にかけて飾っておきたくなるようなジャケットが多い。音楽配信ではジャケットはないし、CDのものでは小さい。レコードのジャケットは適度に大きく、味わい深いのである。

現在の音楽にも対応でき、高音質化も進む

 レコードというと、ノスタルジックなイメージで、音に古さを感じさせるので、古い音楽にこそ向いていると誤解されがちである。そのため、現在のシンセサイザーやエレクトリックギター、強烈なドラムなどの再生には合っていないのではないかと思われるかもしれない。しかし、レコードはどのジャンルの音楽でも、優れた音質で再生可能である。
 また、レコードそのものの高音質化も行われ、通常のレコード盤の約130グラムよりも重い、180グラムや200グラムもある重量盤レコードも発売されている。この重さによってターンテーブルとの圧着度が増し、レコード針の針先が擦る溝幅を広げることができるため、従来以上に弱音から強音まで幅があるダイナミックレンジの広い音と、再生できる周波数範囲の拡張が可能になった。先に紹介したダイアナ・クラールやノラ・ジョーンズのアルバムなどは、この重量盤レコードでも発売されている。また、通常の33回転/分よりも速い、より多くの情報を詰められる45回転/分仕様のレコードも、数は少ないが発売されており、さらなる高音質化が図られている。

再生のための機器は簡単に手に入る

 昨年、CD誕生の1982年から30年を迎えた。当時はCDの生産がうなぎ登りに上昇し、プレーヤーやレコード針の多くが消える事態となった。その後、90年代のDJブームでレコードの人気が高まったこともあり、徐々にプレーヤーやレコード針の生産が増加したものの、現在ではもう手に入らないと思われるかもしれない。しかし、オーディオ専門店はもちろんのこと、家電量販店でも、プレーヤーやレコード針の豊富な製品を目にすることができる。インターネットで検索すれば、きっとその数に驚かれるはずだ。プレーヤーやレコード針にも最新技術が使われ、レコードから音楽情報をあますことなく引き出すべく、歴史あるレコード再生の技術は着実に進化しているのである。

お手持ちのアンプで再生するには

 プレーヤーとレコード針を手にしても、お手持ちのオーディオセットで再生できない場合が多い。レコード再生には、フォノイコライザーという装置が必要になるからだ。フォノイコライザーを内蔵しているアンプもあるが、内蔵していないアンプに接続すると、高音のきつい、小さな音しかでない。内蔵していない場合は別途で必要となるが、注意点として、レコード針にはMM型とMC型があり、このどちらに対応しているフォノイコライザーなのかを事前に調べておきたい。

積極的にレコード再生を楽しもう

 レコード再生に慣れたら、レコード針やフォノイコライザーの種類を増やすことで、また違った特徴の音色を楽しむことが可能だ。ちなみに、レコード再生は真空管アンプとも非常に相性が良い。真空管アンプもまた着実に進化をとげ、高音質化している。昔、真空管アンプを使っていた人や、まだその音を知らない人は、ぜひ最新の真空管アンプの音を聴いて欲しい。倍音が豊かで、躍動感ある音楽が聴けると思う。プレーヤーを手にしたら、積極的にレコード再生を楽しみたいものだ。仕事を終え、30分に満たないレコードの片面だけを上質の音で堪能する。そんな至福の時間を作ってみても良いのではないか。

著者情報

録音家、音楽・オーディオ評論家

角田郁雄

つのだいくお

1953年生まれ。アナログサウンドから最新のデジタルサウンドにいたるまで、幅広く高音質再生を追究する評論家として知られる。各オーディオ専門誌での執筆やイベントでの講演のほか、クラシックの録音にも携わる。著書に『カラー版 大人のためのアナログレコードの愉しみ方』(2011年 洋泉社COLOR新書)、『カラー版 パソコンで楽しむ極上のオーディオサウンド』(共著 2010年 洋泉社COLOR新書)などがある。

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