同性パートナーシップ証明書取得から1年、変わったこと、変えていきたいこと
(構成・文/石川敦子)
東京都渋谷区では、2015年4月1日より「渋谷区男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例」(通称「同性パートナーシップ条例」)を施行。同年11月5日より「パートナーシップ証明書」の発行を開始した。
この「パートナーシップ証明書」とは、結婚に相当する関係にある同性二人の社会生活関係を「パートナーシップ」と定義し、区長が一定の条件を満たした者に対し、パートナー関係を証明する書類を発行する、というもの。
LGBT支援活動を続ける東さんと増原さんはその第1号として「渋谷区パートナーシップ証明書」を取得した。現在、証明書の原本は額に入れて家に飾り、証明書のコピーは、それぞれが常に携帯しているそう。
取得からの1年間を振り返って、証明書の意義、社会の変化などについて伺った。
行政が動くことで企業の対応が変化
――証明書を取得されて、どんなことが変わりましたか?
東 この1年で社会の動きがすごく変わったな、と実感しています。LGBTという言葉も、4~5年前はほとんど誰も知らなかった。けれどもパートナーシップ条例や証明書のニュースが大きく取り上げられたことで広まりました。LGBTを理解していただく上での大きな一歩だったと思います。
企業の対応もかなりのスピードで変化しています。たとえば携帯電話。ソフトバンクは以前から同性カップルも家族割り引きが可能だったのですが、ソフトバンク以外の大手2社も家族割り引きが使えるようになりました。航空会社のANAとJALでは、マイレージも家族として合算できるようになった。外国人と日本人のカップルは、よく日本と海外を行ったり来たりするので喜んでいます。
増原 行政が動くことで企業ってこんなに動くんだ、と感じましたね。中でもインパクトが大きかったのは生命保険。私が以前入っていた生命保険では、死亡保険金の受取人は母親になっていました。14年 に受取人を小雪さんに変えようとしたのですが、家族、親族ではないからと断られたんです。
それが、渋谷区パートナーシップ証明書の発行が始まる直前の15年10月29日、まずライフネット生命が「同性パートナーを死亡保険金受取人に指定することを可能とする」と発表しました。それに続いて第一生命、日本生命など、条件の違いはあれ、同様の取り組みが増えています。
私たち自身は、生命保険についてはまだ検討中なんです。でも、現在、法的には同性婚ができない中で、同性カップルにとって財産の相続は大きな問題の一つです。生命保険の受取人になれることで、どちらか一方が亡くなった場合の金銭的な不安が一つ解消された意義は大きいですね。実際、同性カップルからの問い合わせや申し込み件数は増えているそうです。
私たちにとって何が一番変わったか、と考えると、何かあったとき――たとえば病気をしたときや、引っ越しをするときに、証明書を持っていれば家族扱いされるだろう、という期待、安心感かな。証明書はお守りのようなものですね。
東 渋谷区の場合、「パートナーシップ証明書」を取得していれば家族として区営住宅に申し込めるんです。区内の病院などでも効力を発するようになってほしいと期待しています。たとえばどちらかが意識がなくなってしまったときに、手術の同意書にサインできるとか、面会ができるとか。同性カップルで、家族、親族と認められず、死に目に立ち会えなかったという悲しい話も聞くので。
増原 そうですね。ただ、証明書があったとしても、法律上の家族や親族によって追い出されてしまうことも考えられる。法的な婚姻に比べたら、その効力はまだ限定的だと思います。
公的に認められたことで気持ちに変化が
東 でも、自治体に公に認められて、「私たち、家族なんです」と言える意味はとても大きい。13年に裕子さんと国立市に転入したときは、私たち、市役所でカミングアウトできなかったんですよね。
増原 小雪さんが先に転入届を出しに行って、その何日後かに私が出しに行ったら、窓口の職員さんから「同じ住所にこういう人がいるけど、誰ですか」と聞かれて。そのときはまだ言う勇気がなくて、「友達です」と。
東 あれ、嘘ついて傷ついちゃったよね。
増原 次、14年に渋谷区に引っ越すときは、もう嘘をつくのは嫌だから、全部カミングアウトして、部屋も「ふうふ」 として借りようと決めて臨んだけれど、申込書に小雪さんを「妻」と書いたら、不動産屋さんが、「大家さんに理解があるかわからないから、これを書くと決まりにくいかもしれない。“友人”にしておきましょう」と。とにかく部屋を借りたいからしょうがないか、と思ったけど、ちょっと嫌だったね。
東 結局、そこには決めなかったんですよね。
増原 今住んでいるところは、不動産屋さんがLGBTフレンドリーで、「大家さんにもちゃんと説明しておきましたよ」と言ってくれた。大家さんもおおらかに受け入れてくれました。でも、不動産に限らず、苦い経験が何度もあるので、自治体が発行する証明書を持っていることは一つの拠り所になる。仮に嫌なことがあったら、「いや、ちゃんと渋谷区から結婚に相当する関係と認められてるんで」と説明できる、という心強さはありますね。
東 LGBTへの認知が高まり、理解が広がっていかなければ、ただ紙があっても通じないことがあるかもしれないけど、認知を高めるために、渋谷区の証明書は大きな役割を果たしてくれたと思います。
私は、条例の成立や証明書の取得を仲間に祝ってもらえたのもすごくうれしかった。社会的にも広く認識されるようになって、自分の気持ちにも変化が生まれました。
「内なるホモフォビア」という言葉があります。同性愛が偏見や差別をもって語られる社会の中で、当事者が自分を肯定できず、同性愛嫌悪を抱えてしまうこと。私の中にもそれがあったと思うんです。でも、東京ディズニーリゾートでの結婚式(13年)や、証明書の取得、そういった経験を通して、私の「内なるホモフォビア」が消えていった。
増原 まだあったんだ。
東 あった。人に嫌われちゃうんじゃないかと怖くなってしまうのね。でも今は、たまたま食堂でお隣に座った人でも、話がはずめば「私たち結婚してるんです」とフランクに言える。昔はやっぱり言えない場合もあった。
パートナーシップ証明書のために、公証役場に公正証書を作りに行ったときも、最初はすごく緊張したんです。でも、終わったあと、役場の方が私たちの本 『レズビアン的結婚生活』を「昼間買ってきたんです。サインしてください」と持ってきてくださって。そうやって笑顔で迎え入れられたことが本当にうれしくて。緊張しては受け入れられて、という経験を繰り返して、自分も成長してどんどん楽になっていきました。証明書の取得は、私にとって、自己肯定感を高めることにもつながったと思います。
全国の自治体の取り組みは
――渋谷区のような取り組みをしている自治体は、まだまだ少ないですが確実に広がりつつありますね。
増原 LGBT支援事業に取り組んでいる自治体は他にもあります。渋谷区と同じ日に、世田谷区でも、パートナーシップ宣誓書の受付と受領証の交付がスタートしました。16年4月から三重県伊賀市で、6月から兵庫県宝塚市で、7月から沖縄県那覇市で、同様の取り組みが始まっています。渋谷区だけは条例に基づいていて、他の自治体は、市区長裁量でできる「要項」という形で行っています。
――お二人から見て、渋谷区の方式と、それ以外の自治体の方式に、どんな違いを感じますか?
増原 日常的な効果はそれほど変わらないのではないかと思います。一つ大きな違いとして、渋谷区はお金がかかるんです。条例で、申請する際に「お互いを後見人とする、任意後見契約に係る公正証書」と「共同生活の合意契約に係る公正証書」が必要とされていて、両方作るとだいたい8万円くらいかかってしまう。
東 最初に聞いたときは「高いなー!」と思いました。
増原 でも、その後いろいろ検討された結果、特例がついて、今は実質、合意契約の公正証書1種類でも申請できるようになっています。もちろん2種類作ってもいい。1種類なら1万5000円くらい。私たちは1種類ですけど、申請のための必須事項よりも少し多く盛り込んだので、1万8000円くらいかかりました。渋谷区以外のところは、お金はかかりません。本当はお金はかからないほうがいいと思います。
東 男女の婚姻届は無料なのに、同性はお金をかけて公正証書を作らなければならないのは、差別だからよくない、という考え方もあります。でも、私たちは公正証書を作ってみてよかったですよね。「共同生活」「貞操義務」「家事の分担」「財産関係」「子」「死後」など、こういうときはこうしましょうというルールを契約として紙に残すわけですけど、面白い経験でした。男女のカップルも作ってみたらいいのでは、と思いました。
増原 そうそう。一度ちゃんと話して、明確にしておくのはいいことですよね。私も面白かった。
東 同性婚ができない現状では、法的に認められる有効な書類は公正証書しかありませんから、今はそれを利用するのもいいことだと思っています。もちろんこれからは、異性婚との差がなくなっていくほうがいいですけどね。
――現在、どれくらいのカップルが、同性パートナーシップの制度を利用しているのでしょうか。
著者情報
株式会社トロワ・クルール代表取締役
増原裕子
ますはら ひろこ
1977年、神奈川県横浜市生まれ。株式会社トロワ・クルール代表取締役、LGBTコンサルタント、LGBT研修講師。慶應義塾大学文学部卒業、慶應義塾大学大学院フランス文学修士課程修了。在学中にパリ第3大学(新ソルボンヌ)へ留学。在外公館(ジュネーブ)、会計事務所、IT会社勤務を経て現職。雑誌『日経ビジネス』『日経ビジネスアソシエ』『日経ウーマン』(ともに日経BP社)などメディア掲載多数。LGBTとアライを対象にした日本初のオンラインサロン「こゆひろサロン」運営。著書に『ふたりのママから、きみたちへ』『レズビアン的結婚生活』(共著。ともに2014年、イーストプレス)、『同性婚のリアル』(共著。2016年、ポプラ社)『女どうしで子どもを産むことにしました』(共著。2016年、KADOKAWA)。
LGBTアクティビスト
東小雪
ひがし こゆき
1985年、石川県金沢市生まれ。元タカラジェンヌ。LGBT研修講師。企業研修、講演、テレビ・ラジオ出演、執筆など幅広く活躍中。テレビ「私の何がイケないの?」(TBS)、「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「ハートネットTV」(NHK Eテレ)、「みんなのニュース」(フジテレビ)、「モーニングCROSS」(TOKYO MX)などメディア出演多数。2013年、東京ディズニーシーで初の同性結婚式を挙げ国内外で話題に。2015年、渋谷区パートナーシップ証明書交付第1号。著書に『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』(2014年、講談社)、『ふたりのママから、きみたちへ』『レズビアン的結婚生活』(共著。ともに2014年、イーストプレス)、『同性婚のリアル』(共著。2016年、ポプラ社)『女どうしで子どもを産むことにしました』(共著、2016年、KADOKAWA)。ブログ「元タカラジェンヌ東小雪の『レズビアン的結婚生活』」を発信中。