imidas - 情報・知識&オピニオン

探究

カルチャー

同性パートナーシップ証明書取得から1年、変わったこと、変えていきたいこと

レズビアンとして生きる

増原裕子(株式会社トロワ・クルール代表取締役)

東小雪(LGBTアクティビスト)

(構成・文/石川敦子)

増原 16年10月現在、全国で60組以上が、自治体の発行する証明書や、宣誓書受領証などを受け取っています。
 ただ、たとえば宝塚市は16年6月から始まっているのですが、10月の時点で宣誓書の受領証を受けたのはゼロ組でした。申請するということは、役所に対してカミングアウトすることなので、ハードルが高い。カミングアウトしてまでも取得するメリットを感じられないカップルも多いと思います。

――まず、受け入れる土壌ができないと、制度があっても利用しにくいということですね。

 そこは難しいですね。まず制度ができることによって状況が変わっていくこともあると思います。
 LGBT支援に消極的な行政や企業の方が、よく「そういう取り組みをしてほしいという声がないから」と言うんです。でも、LGBT当事者が気軽に希望を言えるなら問題ない。声をあげられない状況にこそ問題があるので、声がないからやらないというのはおかしい。けれども、声がないと動きにくいという側面もあるのは事実です。受け入れる環境と、社会的な制度と、同時に進んでいかないと。
 私たちは「こゆひろサロン」というLGBTのためのオンラインサロンを運営していて、たくさんの全国のLGBTの方たちの声を聞いています。そうすると、都市部は少しずつ変わってきているけど、地方ではまだまだ厳しい現状がある、と思うことがあります。都市、地方にかぎらず、周囲に理解者の多い環境にいる人と、そうではない人の差が広がっているようにも思えます。
 証明書の取得によって、私たち、私自身の状況はとてもよくなったけれど、それは一部のことだけなのかもしれない。だから、これはあくまで最初の一歩。次につなげていかなければ、と強く感じています。

LGBT支援、これからのステップ

――お二人が、LGBT支援の活動として今後取り組んでいきたいこと、社会に望むことは何でしょうか。

増原 16年5月27日に民進党などが「LGBT差別解消法案」を国会に提出しましたが、まだ審議されていません。自民党も、性的マイノリティーへの理解や支援に関する案をまとめていましたが、まだ提出に至っていません。
 今、LGBTの中には差別やいじめで苦しんでいる人が日本中にいる。命を落とす人さえいます。15年8月には、一橋大学法科大学院に通っていた男子学生が転落死するという事件がありました。ゲイであることをカミングアウトした同級生に、アウティング(当事者の同意を得ずに性的指向を暴露すること)されたことがきっかけだと報じられています。法律の専門家を育てる場でこういった事件が起こってしまったことに、本当にショックを受けました。
 こうした偏見、差別、いじめに対抗するには、法律の力が大きい。ですから、LGBTへの差別をしてはいけない、という趣旨の基本法を一日でも早く成立させたいし、そのためにできることをやっていきたいですね。私が代表取締役を務めているトロワ・クルールの仕事としては、企業におけるLGBT施策の一環として、LGBT研修をさらに増やしていきたいです。

 2020年には東京オリンピック・パラリンピックがありますが、オリンピック憲章の中にも、性的指向で差別をしてはいけないと明記されている。16年のリオデジャネイロ・オリンピックでは、LGBTであることをカミングアウトした選手が、これまでで一番多かったというニュースがありました。次の開催地として、外国からのお客様もたくさんいらっしゃる中で、東京や日本が本当の意味でのダイバーシティー(多様性)をどう示していけるか、試されると思います。
 できればそれまでに法律で同性婚ができるようになればいい。自治体や企業の動きが全国に広がっていくことはもちろんですけれども、国としても、一日も早く法律が変わってほしい。そうすれば今より確実に、苦しんでいる人が少し息をつけるようになると思うんです。

増原 今、人権救済申立という司法プロセスを使って、同性婚を法制化するための申し立てをしています。15年7月、同性婚人権救済弁護団(LGBT支援法律家ネットワーク有志)が、全国の申立人455名の代理人となり、日本弁護士連合会(日弁連)に対して人権救済を申し立てたんです。「同性婚の法制化を、内閣総理大臣・法務大臣・国会に勧告してください」と。今、日弁連からの回答を待っているところです。
 日弁連が勧告を行っても、すぐに同性婚ができるようになるわけではありませんが、同性婚の実現に向けた議論にはなっていくし、仮に同性婚に関する裁判が起きたときの拠り所にもなると思います。この申し立てを応援するオンライン署名も、「Change.org」という署名サイトで募っています。
 世界で初めて、同性同士の登録パートナーシップ法ができたのはデンマークで、1989年のことでした。その後、同性婚も法制化されています。登録パートナーシップ法の成立から数えれば、もう27年。つまり、デンマークで27歳以下の人は、生まれたときからそういう法律がある。それってやっぱり、全然違うと思う。

 生まれたときから、異性愛も同性愛も当たり前、ということだものね。

増原 だから、今起きている社会の動きは、もちろん私たちにもいろいろなメリットがあるけど、これから生まれてくる子どもたちの意識にすごく影響すると思います。

 今は小さな一歩でも、20年後にはすごく変わってくるはずですね。法律で認められないから自分はダメだということじゃないのはよくわかってるけど、やっぱり認められていくことって素晴らしい。それは私の価値観や人生観に大きく影響しています。「私、同性と結婚してるんです」と当たり前に自己紹介できる社会にしていかなければね。
 私は20代から30代の、ちょうど結婚や家族について考える時期に、結婚式やパートナーシップ証明書取得などの出来事が経験できて、本当によかったと思っています。そういう経験をする中で、何年もかかって「私は変じゃない」と思えるようになったけど、残念ながらみんなにそういう機会があるわけじゃない。
 だから伝え続けたいのは、あなたは本当に変じゃないんだ、たまたま数が少ないだけなんだ、ということ。もう生きていけないと思うときもあるかもしれないけど、男の人が好きでも女の人が好きでも、自分が男の子だと思っても、女の子だと思っても、どっちでもないと思っても、恋愛や結婚をしてもしなくても、本当に変じゃない。今は苦しくても、いつか必ず居場所を探せるし、見つけられるから、あなたは一人じゃないんだって伝え続けていきたい。
 LGBTへの差別を禁止し理解を促進する法律 や同性婚の法律ができても、それがゴールではありません。本当の意味で違いを受け入れ合える社会になるまで時間はかかると思うけど、それが実現するまで、一生懸命、私が伝えていきたいことです。

著者情報

株式会社トロワ・クルール代表取締役

増原裕子

ますはら ひろこ

1977年、神奈川県横浜市生まれ。株式会社トロワ・クルール代表取締役、LGBTコンサルタント、LGBT研修講師。慶應義塾大学文学部卒業、慶應義塾大学大学院フランス文学修士課程修了。在学中にパリ第3大学(新ソルボンヌ)へ留学。在外公館(ジュネーブ)、会計事務所、IT会社勤務を経て現職。雑誌『日経ビジネス』『日経ビジネスアソシエ』『日経ウーマン』(ともに日経BP社)などメディア掲載多数。LGBTとアライを対象にした日本初のオンラインサロン「こゆひろサロン」運営。著書に『ふたりのママから、きみたちへ』『レズビアン的結婚生活』(共著。ともに2014年、イーストプレス)、『同性婚のリアル』(共著。2016年、ポプラ社)『女どうしで子どもを産むことにしました』(共著。2016年、KADOKAWA)。

LGBTアクティビスト

東小雪

ひがし こゆき

1985年、石川県金沢市生まれ。元タカラジェンヌ。LGBT研修講師。企業研修、講演、テレビ・ラジオ出演、執筆など幅広く活躍中。テレビ「私の何がイケないの?」(TBS)、「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日)、「ハートネットTV」(NHK Eテレ)、「みんなのニュース」(フジテレビ)、「モーニングCROSS」(TOKYO MX)などメディア出演多数。2013年、東京ディズニーシーで初の同性結婚式を挙げ国内外で話題に。2015年、渋谷区パートナーシップ証明書交付第1号。著書に『なかったことにしたくない 実父から性虐待を受けた私の告白』(2014年、講談社)、『ふたりのママから、きみたちへ』『レズビアン的結婚生活』(共著。ともに2014年、イーストプレス)、『同性婚のリアル』(共著。2016年、ポプラ社)『女どうしで子どもを産むことにしました』(共著、2016年、KADOKAWA)。ブログ「元タカラジェンヌ東小雪の『レズビアン的結婚生活』」を発信中。

関連記事