任天堂「Nintendo Switch(ニンテンドースイッチ)」の意図を読み解く
平林久和(ゲームアナリスト)
プレイヤーに触覚が伝わると、大きなメリットがあるのはVR(virtual reality)型のゲームである。 現在、ゲームビジネスの世界ではVRが注目されている。任天堂のライバルであるソニーの「プレイステーション」では2016年10月に「PlayStation VR」が発売されて、全世界で100万近い台数を出荷した。日本市場では品切れを起こして、なかなか手に入らない状況が続いている。
見た目だけではない。脳全体が錯覚におちいる仮想現実ゲームの用意がないことは、ニンテンドースイッチの弱点と思われてきた。しかし、任天堂は昨年ニンテンドースイッチをVRゲームに応用するための特許を出願している。周知のとおり、ニンテンドースイッチの中央部にあるモニターは、取り外すことができるが、そのモニターをゴーグルの形状をした周辺機器に差し込む。そのゴーグル状のものを頭からかぶると、簡易的なヘッド・マウント・ディスプレイとなる。現在一部のスマートフォンはゴーグルに組み込むことができるが、それとほぼ同じ仕組みと言っていい。
このゴーグルを装着した状態で、両手に持ったジョイコンを通じて触感を伝えるとなれば、それはきっとまさに仮想現実に近い感覚をもたらすだろう。目の前にいるゾンビとスライムでは触感が異なるのだ。すなわちHD振動は、今までのゲームの演出に使うのではなく、ヘッド・マウント・ディスプレイを装着し、VRゲームに応用すると、その真価を発揮するに違いない。
ちなみにニンテンドースイッチはその存在が発表されてから、仕様詳細が明らかになるまで多くの時間がかかった。つまり、秘密のベールをかぶった期間が長かったのである。そのため世界中のウォッチャーたちは、任天堂が新たに出願した国際特許から、そのスペックを類推するしかなかった。こうして予測され、かつ実際に搭載されたことの一つが「モーションIRカメラ」である。
したがって、ニンテンドースイッチのVR機器への変身計画もただの妄想とは思えない。任天堂がVRを視野に入れて、準備をしているのは確かなことなのだ。しかるべきときに、ニンテンドースイッチVRキットが発表されてもおかしくない。
参考までに、最近任天堂が取得した特許のうちの一つにプロジェクターに関するものがある。これはスクリーンのような平らな面でなくてもいい。「歪んだ面に投射しても映像が歪まない」技術を任天堂はメガチップス社と共同開発している。これはテレビモニター、ポータブル、ヘッド・マウント・ディスプレイに続く第4のスクリーンとして家庭内の壁を使う意図があるとも解釈できる。
以上がニンテンドースイッチのあまり語られることがなかった意図の数々である。これらの特徴を生かした新製品が生まれれば、ニンテンドースイッチは画期的なマシンになる。しかし逆に、生かさなければ、単なる後発組のゲーム機として埋もれてしまうだろう。
ニンテンドースイッチの将来は、薔薇色なのか、暗雲が立ち込めているのか。それは込められた意図が伝わるかどうか。それ次第である。
著者情報
ゲームアナリスト
平林久和
ひらばやし ひさかず
1962年生まれ。青山学院大学卒業。ゲーム専門誌編集者を経て91年独立、アナリストとして活躍。(株)インターラクト代表取締役。著書に『ゲームの大學』(共著、1996年、メディアファクトリー)、『ゲーム業界就職読本』(1998年、アスキー)、『ゲームの時事問題』(1999年、アスキー)などがある。