imidas - 情報・知識&オピニオン

探究

カルチャー

イメージの都市論=「マンションポエム」

我々は街に何を夢見るのか?

大山顕(写真家・フリーライター)

 多くの人にとって一等地の高級マンションは、高嶺の花。せめて雰囲気だけでも味わいたいと、折り込みチラシや中吊り広告を眺めると、そこには物件とは遊離した美辞麗句が溢れている。これはいったい何を意味しているのか。10年以上にわたり、これらの文言を収集・分析してきた著者が、その秘密を解き明かす。

マンションポエムとは

「ときめくために生まれた。ときめきをシェアする摩天楼」
「人生に、南麻布という贈り物」
「神戸が神戸であることを語るエレメントの数々を美しくアソートした、宝石箱のような輝き」

 エキセントリックなこれらの文章は、いずれもマンション広告のコピーである。最初のものは東京建物の「ブリリア 有明SKY TOWER」、二つめは三井不動産レジデンシャル「パークホームズ南麻布ザレジデンス」、最後は伊藤忠都市開発「クレヴィアタワー神戸ハーバーランド」のもの。
 スペックをわかりやすく伝えるのではなく、雰囲気を詩的に綴ることを優先したこの手の文言を、ぼくは「マンションポエム」と名付け、収集・分析をしている。主に4000万円以上クラスの分譲マンションによく見られ、デベロッパーを問わず各社、各都市において似たようなテンションでポエムを詠(うた)っている。折り込みチラシや中吊り広告で目にしたことがあるはずだ。
 ぼくがマンションポエムを観察し始めたのは2006年。当初は独特の語句選びと文体をおもしろがっていただけだったが、収集し始めてすぐに気がついた。マンションポエムは東京や大阪といった大都市の各街に対して漠然と我々が抱いているイメージを増幅させている。つまり、これは「イメージの都市論」なのだ、と。

誰も本気にしていないメッセージ

 とはいえ、ほとんどの人はマンションポエムをちゃんと読んでいない。読んだとしても、そこで詠われていることを真に受けたりしないだろう。この「誰も本気にしていない」という点もマンションポエムの興味深い特徴である。

「ここでの暮らしは、どこかニューヨークのそれに似ている」(三菱地所レジデンス「ミッドサザンレジデンス御殿山」)

 というコピーを見て「そうかニューヨークみたいなのか、じゃあ住もうか」と思う人はおそらくいない。

「ここに住むこと。それは、札幌都心のすべてを手中にすること」(新日鉄興和不動産 「リビオ中島公園アルファタワー」)
「天王寺・阿倍野エリアを手中に収める暮らし」(三井不動産レジデンシャル「パークタワーあべのグランエア」)

 これらを読んで、街の支配を本気で企む人はいない。
 マンションの購入はオンラインでポチッとするようなものではなく、モデルルームに行き、そこで担当の営業がつきっきりになり、勤め先から家族構成から電話番号から年収から、およそあらゆる個人情報を差し出し、建設予定地周辺を下見し、クチコミサイトを覗き、銀行との折衝を行い……という長期にわたるプロセスの末に買うものだ。広告はほんの入り口であり、だからポエムであることが許される。メディアや広告に対し何かと監視の目が厳しい昨今、他のプロダクト商品で同じことをやったら問題になりそうだ。

 建設以前の物件がまだ存在しない段階で広告を打たなければならないという、マンションならではの事情は、結果的にポエムを生む原因として大きいだろう。未確定な要素が多く、具体的なアピールができないからだ。いずれにせよ、誰も本気にしていないメッセージとは、なんと高度消費社会的だろうか。ここで伝わっているものは何か。それは「大手デベロッパーが気合いを入れて宣伝してるから信頼できそうだ」というメタ・メッセージなのではないか。

マンションポエムの保守化

 マンションポエムの言葉遣いには幾つか特徴がある。

「ここに住まう貴方こそが、煌めく東京で、世界の未来を語るTHE MEMBERSに、なる」(三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス 中野タワー」)
「時に磨かれた、悠久の邸宅地。誇らしく住まう」(東急不動産「ブランズ碑文谷三丁目」)

 などのように「住む」ではなく「住まう」。時には「棲まう」や「澄む」などと表記する。また、「家」という表記はほとんど使われず「邸」あるいは「レジデンス」と書かれる。同様に「森」ではなく「杜」、「時」ではなく「刻」を使うといった傾向がある。
 他にも「心地よい風が吹き」がちであったり、何かと「多くの文人に愛され」、いろいろなものが「響き合う」、といった特徴がある。最近は、冒頭のマンションポエムにもあったように「シェア」の語がしばしば登場するが、意外なのは一部の例外を除き、こういったカタカナやアルファベットはあまり使われない点だ。02年までさかのぼって入手できるマンション広告を調べたところ、08年あたりからひらがなや独特の当て字としての漢字が増えたように見える。同時に「変える」「変化」などの語も減り、「歴史」「伝統」といった語が増えている。

「由緒があるといわれる土地は多くある。しかし、歴史の息吹がいまも感じられる所というと、都心にはそうはない。ここ池田山は江戸時代、岡山藩池田家が下屋敷を構えた地」(伊藤忠都市開発「クレヴィアタワー池田山」)

 など、立地の由来を称揚するのは定番手法である。これをぼくは「マンションポエムの保守化」と呼んでいる。
 特にここ2、3年は「日本」を謳う物件が目立ち、別なニュアンスでの保守化も感じる。

「誇らしい日本の美を謳う」(三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス 宝塚」)

「奥ゆかしい日本の四季と麗しい緑」(株式会社ベルフラッツ「ベルジェンド 市が尾 アルチザン」)
「この国が好きだ」「世界へ誇る日本へ」(共に東京建物「Brillia Tower 上野池之端」)
「日本が世界に誇る、おもてなしの精神」(伊藤忠都市開発「クレヴィア京都 御所西」)
「世界の憧憬を集めてきた本物の日本が、此処にある」(三菱地所レジデンス「ザ・パークハウス 京都鴨川御所東」)

 など枚挙にいとまがない。まるでテレビの「日本礼賛番組」のようだ。
 なぜ08年を境に変化が起こったのかは、今のところ不明だ。リーマン・ショックの影響という仮説も立てたが、証明には至っていない。ちなみに11年の東日本大震災以降「耐震」を謳うものが増えるのではないかと予想したのだが、そのような変化は起こらなかった。いかにマンションポエムが建物のスペックを説明するものではないか、を表しているように思える。

ポエムは隠蔽する

 では、マンションポエムは何を表しているのか。

 ぼくの出した結論は、この問いは180度向きを変えるべき、というものだ。つまりマンションポエムは何を「表していない」のか、と。
 文章がポエムの体裁をとるとき、そこには何かが隠されている。ブラック企業のスローガンや政治家の言葉が、時にポエムめいたものになるのは、何かを隠蔽しようとしているからだ。前述の保守化傾向と合わせて観察すると、大臣や首相の発言を思わせるマンションポエムがちらほら見えてくる。

「東京の暮らしが取り戻すべき、日常」(三井不動産レジデンシャル「桜上水ガーデンズ」)
「日本を、結ぶ」(ダイワハウス「プレミスト京都 烏丸御池」)
「日本人の心。けっして失われてはならないもの」(京阪電鉄不動産「ザ・京都レジデンス 御所南」)

 などだ。では、あらためて問いを立てよう。マンションポエムは何を隠しているのか。これに対する答えは驚くべきことに、ほかならぬマンション自体を隠している、というものになる。次の表をご覧いただきたい。これは1148物件のマンションポエムをサンプルに、どのような語句が使われているかを分析した結果だ。 対象にしたもののうち、最も古い物件は02年のものだが、ほとんどは14年から17年のマンション。地域としては、札幌や沖縄のマンションも含まれているが、東京圏と大阪圏がほとんどである。分析にあたっては「KH Coder」というテキストマイニングソフトウェアを使っている。ちなみにテキストマイニングとは、大量のテキストデータを単語やフレーズに分解し、それらの出現頻度や相関関係を分析して有用な情報を抽出する統計学の手法である。全1148物件から抽出された語句数は19万語以上。ここから助詞などを除き、特徴的だと思われる語句をランキングにしたのが上の表である。

 ご覧いただいてわかるように、上位には建築に関係する語はほとんど出てこない。マンションポエムはマンションのポエムではなく、土地の詩なのである。マンションポエムが建築を隠すのは、前述のように広告を打つ時点で建物が存在しないからもあるだろう。同時に物件の価格差を説明する根拠が、立地にしかないことも理由として大きい。
 例えば同じ平米数で2LDKのマンションが、一つは津田沼で3000万円、もう一つは港区で1億円という場合だ。今日建築・内装は高度に工業部材化されており、グレードの差こそあれ、本質的にどの物件においてもそれほどの違いはない。だとすればこの7000万円の違いは何なのか。それは建っている場所の違いだ。つまりマンションを買うというのは、立地にお金を払っているのである。
 これはポエム(キャッチコピー)ではないが、

「土地の上にどんなにいいものを建てても、土地に魅力がなければ住む方に喜んではもらえない。立地自体の魅力がマンション事業における重要なポイントだと認識しています」(大成有楽不動産株式会社「オーベル鷺沼マスターレジデンス」)

 という文章もあった。完全な建築否定である。

理想の住まいの耐用年数

著者情報

写真家・フリーライター

大山顕

おおやま けん

1972年千葉県生まれ。98年千葉大学工学部卒、同修士課程修了。卒後松下電器(現・パナソニック)入社、10年勤務後退社、写真家として独立。また団地、工場萌え、ジャンクションなどを楽しむ写真集や著書多数。
主著に『工場萌え』(共著、東京書籍、2007年)、『ジャンクション』(メディアファクトリー、07年)、『団地の見究』(東京書籍、08年)、『工場萌えF』(共著、東京書籍、09年)、『高架下建築』(洋泉社、09年)、『共食いキャラの本』(洋泉社、09年)などがある。

関連記事