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AI時代における知性とは?【対談】上田岳弘×與那覇潤

上田岳弘(小説家)

與那覇潤(評論家)

知性が必要とされない時代に

上田 著作の全般を拝読して気になったのが、與那覇さんは知性を積み上げることの絶望感みたいなものを感じているのかなと思いました。

與那覇 それはありますね。

上田 知性の駆動力をもって世の中をよくしようという世界観がなくなってしまったところから思考を積み上げている印象を持ちました。

與那覇 見抜かれてお恥ずかしい。それこそ90年代は、知性が世界を動かすに「決まってるじゃないか」な空気があり、みんなで議論して不合理なタブーはどんどん取り払おうという感じでした。

上田 そうですね。そういう本筋があって、反知性的なものを安心してぶつけられるからこそ明るい雰囲気があったのかもしれませんね。

與那覇 学者が政治家のブレーンになり助言すれば「画期的な変化を起こせる」と、2000年代の頭までは信じられていた。小泉純一郎首相が竹中平蔵氏と組んで「構造改革」を始めたのは01年ですが、最初は圧倒的に国民から支持されたわけです。
 ところがゼロ年代も後半になると、実際に起きたのは「悪い変化」だったのでは? と疑う世論のほうが強くなる。10年代を通じてそれが強まり、いまはむしろ、どうせみんなバカだから「知性なんていらねぇんだよ」と見下す人ほどウケる風潮さえあります。

上田 個人が知を積み重ねて素晴らしい答えを導き出していく方法と、インターネットのような集合知がより新しい答えを導き出す方法がいまはぶつかり合っているような気もするんです。本当はどちらも大事な方法ですよね。そもそも、集合知というのはあるバイアスがかかるとダメなんですよね。「偉い人がこう言っているから俺は逆張りで反対の答えにする」みたいなバイアスがかかると、集合知が発動しなくなるらしいんです。

與那覇 僕が前に『中国化する日本』(文春文庫)で書いた「ブロン効果」(註:星新一の掌編に基づく比喩。メロン並みに大きな果実がブドウのように大量に実るよう品種改良した「ブロン」が、ブドウ並みの小さい粒がメロンのように少ししかできない結果に終わる)に近いですね。よいとこどりを狙ったはずのネット環境の出力が、悪いとこどりになっていると。「有名な識者が言うから」と「みんなも言ってるから」の2つの正しさを掛け合わせたはずが、最悪なポピュリズムばかり爆誕している(笑)。

上田 僕は「惑星」という作品でそのあたりを抽象化して書いたんです。人類が最大多数の最大幸福を追求した結果、最終的に人類がひとつにつながる未来になると。

與那覇 天才学者と凄腕起業家がタッグを組んだ結果、あらゆる人の個が溶けて「肉の海」でドロドロの一体になってしまう。スティーブ・ジョブズらのビッグテック創業者が持てはやされる時代の暗黒面を描いて、とても印象的な作品でした。

上田 僕が懸念しているのは、いまは集合知の可能性を考える手前で、なし崩しになっているのではないかということです。すごく卑近な例で言えばSNS。たとえば、YouTubeの番組でバズるのは喧嘩することなんですよね。

與那覇 格闘技動画の「ブレイキングダウン」みたいな?

上田 それは最たるものですし、格闘家だけでなく、芸人やアイドル、政治家どうしが喧嘩するものがバズるわけですよ。

與那覇 いまや学者でも口汚さを誇示して、「応援するなら課金でファイトマネーを」のように寄付を募る人までいると聞きます。そこまで来てしまった。

上田 SNSは集合知を発動するプラットフォームになり得たはずなのに、そうはならなかった。

與那覇 むしろ人間の素質のうち知性よりも、「動物的本能」を刺激した方がカネになる状況が生まれている。たとえばここ何年か教養ブームで、バズるYouTuberが「ビジネスにも教養が大事」とよく言いますけど、問題はその教養の中身ですよね。
 知性に働きかける教養は、哲学書でも文学書でも、人類が長く読み継ぎ論じあってきた「過去の叡知」を参照する。いわゆる古典です。でも平成の末期から、ウケる〝教養〟の中身が「動物としてのヒトには、こんな本能やバイアスがあり、それは変えられません」という方向に変わってきました。

上田 工学的な解説とエビデンスのようなものが〝教養〟とされているんでしょうね。

與那覇 知性なんてスキップしたほうが、ヒトの本性がわかるという発想になっています。

著者情報

小説家

上田岳弘

うえだたかひろ

1979年兵庫県生まれ。2013年「太陽」で第45回新潮新人賞を受賞しデビュー。15年「私の恋人」で第28回三島由紀夫賞、18年『塔と重力』で第68回芸術選奨文部科学大臣新人賞、19年「ニムロッド」で第160回芥川龍之介賞、22年「旅のない」で第46回川端康成文学賞を受賞。他の著作に『異郷の友人』『キュー』『引力の欠落』『最愛の』『K+ICO』などがある。

評論家

與那覇潤

よなは じゅん

1979年生まれ。東京大学教養学部卒業。同大学院総合文化研究科博士課程修了、博士(学術)。当時の専門は日本近現代史。2007年から15年にかけて地方公立大学准教授として教鞭をとり、病気休職を経て17年離職。 以降は在野で活動している。2020年、斎藤環氏との共著『心を病んだらいけないの?』で小林秀雄賞受賞。著書に『中国化する日本』、『知性は死なない』、『日本人はなぜ存在するか』、『平成史 昨日の世界のすべて』、『江藤淳と加藤典洋 戦後史を歩きなおす』などがある。

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