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一語千金

先発優位/後発優位

[pioneering advantage : latecomer advantage]
先に登るか、後から登るか

玉手義朗(エコノミスト)

 1953年、イギリス隊のエドモンド・ヒラリーとシェルパのテンジン・ノルゲイが、エベレスト初登頂に成功、世界中から大きな称賛が寄せられた。ヒラリーらが登山ルートを切り開いたことで、その後の登山隊はより確実に登頂が可能となったが、注目度も低下し話題になることもなくなっていく。こうした中、2013年5月の三浦雄一郎の登頂成功が大きな話題となったのは、80歳という最高齢記録を達成したためだ。一番に登って歴史に名を刻むのか、後から安全確実に登るのか……。ヒラリーと三浦雄一郎の登頂を企業戦略に当てはめると、「先発優位」と「後発優位」になる。
 独創的な商品を他社に先駆けて開発・投入することで得られるのが「先発優位」だ。ライバルがいないことから価格競争も発生せず、高い利益を得ることができる。また、自社製品の名前が、その分野の商品名となる場合もあり、強いブランド力を持つこともできる。
 先発優位が発揮された一例が「ウォークマン」だ。1979年にソニーが発売、場所を選ばずに音楽が楽しめることから世界的に大ヒット、ウォークマンは大きな利益を生むと同時に、携帯音楽プレーヤーの代名詞となった。ソニーは、エベレストの初登頂を果たしたヒラリーのような先発優位を獲得したのだ。
 しかし、先発優位にはリスクがつきもの。独創的な商品を生み出すための開発費は膨大であり、認知度を上げるための宣伝費も必要となる。また、市場に投入しても思惑通りに売れなかったり、そもそも開発が頓挫してしまったりすることも珍しくない。エベレスト初登頂に挑んで命を落とした登山家が少なくないように、先発優位を得るためのリスクは極めて大きくなる。
 こうしたことから、他の企業が成功したことを確認した上で、市場に参入する戦略もある。この場合に得られるのが後発優位だ。開発と販売におけるリスクを抑えることが可能な上に、先発企業の問題点を洗い出し、より進化した商品を投入すれば、逆転も不可能ではない。
 携帯音楽プレーヤーの分野でも、こうした状況が生まれている。先発優位を謳歌(おうか)していたソニーのウォークマンだったが、アップルが後発優位を生かした「iPod」を投入、その存在感は急速に薄れてしまう。ソニーは自らが切り開いた携帯音楽プレーヤーという山頂を、万全の準備を整えて後から登ってきたアップルに奪われてしまった。
 しかし、後発優位を得るのも容易ではない。すでにブランドが確立されている状況では、同じ性能の製品を投入しても売り上げを伸ばせずに撤退を余儀なくされたり、激しい価格競争で、薄利多売に陥ったりすることもある。三浦雄一郎が注目を集めたのは、「史上最高齢」という「付加価値」があってのこと。後発優位を得るためには、消費者を引きつける大きな「付加価値」が必要なのである。
 エベレストの初登頂と最高齢登頂、そのどちらも偉業だが、初登頂がより高く評価されるのは言うまでもない。後発優位を狙うのも企業戦略の一つだが、先発優位を求めるチャレンジ精神があってこそ、人類の発展が期待できるのである。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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