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一語千金

年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)

[Government Pension Investment Fund]
超低速で走るフェラーリ

玉手義朗(エコノミスト)

「ついにフェラーリを買った!」と、車好きの友人がうれしそうに連絡してきた。最高速度は時速300キロ以上、世界最高水準の性能を誇る超高級車だが、高速道路でも制限速度は100キロ、アクセルを踏み込めないと不満も口にする。
 日本の金融界にもフェラーリが存在している。年金積立金管理運用独立行政法人、略称「GPIF」だ。GPIFは厚生年金や国民年金の積立金を株式や債券などに投資・運用する機関で、2013年度末の運用資産額は126兆5771億円と世界最大の年金基金。
 その規模から「金融界のフェラーリ」と考えられるGPIFは、年金受給者を乗せて走っているわけだが、運用方法には厳しい規制がある。投資は国内債券60%、国内株式12%、外国債券11%、外国株式12%、短期資産5%という「目標値」が決められているのだ。安全だが金利が低い国債を中心とした運用方針で、ハイリスク・ハイリターンの株式などへの投資比率は低く抑えられている。GPIFの資金力があれば株式市場で大きな利益を上げることも可能だが、失敗した場合は損失も巨額となってしまう。GPIFに乗っているのは膨大な数の年金受給者、危険にさらすべきではないという考えに基づいているのだ。
 高性能でありながらも、アクセル全開は許されず、安全第一の運転が行われているため、GPIFは低速走行を続けている。GPIFの前身である「年金資金運用基金」を含めた2001年度から13年度までの運用実績を見ると、収益率がマイナスになったのが5回もあり、結局2.52%しか増えていない。GPIFというフェラーリは、時にはバックするなどその動きは遅く、その能力を発揮できていないのだ。
 こうした状況を改善するため、政府はGPIFの改革を検討している。国内債券への投資比率を引き下げる一方、国内株式への投資比率を引き上げ、より大きな収益を上げようというのだ。GPIFのスピードを上げ、乗っている年金受給者を気持ちよくさせようというわけである。
「GPIFが株式投資を増やせば株価が上がる」と、期待する投資家がいる一方で、公共性が高い法人であることから、安定した運用を続けるべきだという声も根強い。また、GPIFが巨額の売買を始めた場合、株式市場が不安定化するという心配や、ドライバーであるGPIFのファンドマネジャーの能力が低く、巨額の資金をコントロールしきれないとの指摘もある。GPIFを猛スピードで走らせれば他車の走行を妨害、最悪の場合はハンドル操作を誤って大事故を起こし、市場を「通行止め」にしかねないというわけだ。
「ドイツのアウトバーン(高速道路)の半分は速度無制限、ドライバーは自らの能力にあった走行をしている。画一的な速度制限は渋滞を招くだけだ」と、フェラーリを買った友人は持論を展開する。GPIFが株式投資増で高速走行を始めれば、年金給付を安定させるだけでなく、これに追従する資金流入で市場が一気に活性化する可能性もあるが、年金受給者を事故に巻き込む恐れも高まる。性能に応じた走りを求めるべきか、安全運転に徹するべきか。GPIFの運転方法についての議論が熱を帯びている。

著者情報

エコノミスト

玉手義朗

たまて よしろう

1958年生まれ。筑波大学卒。東京銀行、マニュファクチュラース・ハノーバー銀行などで、外国為替取引に携わる。その後、テレビ局で経済部デスクなどを経て、現在はフリー。著書に『円相場の内幕』(1995年、集英社)、『経済入門』(共著、2004年、ダイヤモンド社)がある。

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