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経済万華鏡

「電子」対「物理」、現金はどっちがいいか

浜矩子(同志社大学大学院ビジネス研究科教授)

 皆さんは電子派ですか? 物理派ですか? 電子派をフルネームで言えば電子現金派、物理派は物理現金派の省略形です。いずれも筆者の勝手なネーミングで、電子現金は電子マネーやビットコインなどの仮想通貨(筆者的に言えばこれは仮装通貨と書くべきだと思いますが)、クレジットカードなどを指します。物理現金は、実は物理的現金と言った方がいいでしょう。要は紙幣や硬貨のことです。

 一般的には、物理現金をキャッシュと呼び、電子現金が普及することを「キャッシュレス化が進む」と言いますよね。ですが、筆者は、これはちょっと違うと思っています。電子マネーやビットコインでお買い物をしたり、電車に乗ったりするのも、現金決済です。電子マネーやQRコードでコーヒーを買う時、我々は別にツケでコーヒーを飲ませてもらうわけではありません。交通系ICカードで電車に乗る時も、ツケで乗せてもらうわけではありませんよね。
 取引形態が電子的であっても、やっていることは、やっぱり現金決済です。ですから、電子決済化が進むことをキャッシュレス化と表現するのは不正確です。何が変わっているのかといえば、それは、物理的な紙幣や硬貨をやり取りしなくなっていることだけです。つまり、今、進行中の変化は物理現金から電子現金への切り替えなのであって、現金決済が減少しているとは言えません。

 この点をしっかり整理した上で、話を次のステップに進めたいと思います。日本は、電子現金化がとても遅れていると言われます。実際に、韓国や中国では日常のお買い物がほとんどすべて電子現金で行われていると言っても過言ではないようです。物理現金お断りのお店が少なくないようです。スウェーデンでは、中央銀行が通貨の完全電子化を検討中です。デンマークでも、幅広く電子現金が使われていて、子供たちのお小遣いも、親から電子的に送信されるケースが多くなっています。
 このようなグローバル・トレンドに、日本が立ち遅れてしまっていいのか。もっともっとフィンテックを駆使して、電子現金の世界に早く仲間入りしなくていいのか。こうした声が盛んにメディアを賑わせていますよね。

 皆さんはどう思われますか? 筆者は力強く物理現金を支持したいと思います。理由が二つあります。第一に、現金が電子化すればするほど、我々は頭脳が退化し、創造性を失っていくでしょう。第二に、電子現金は監視の目から隠すことが困難です。
 紙幣や硬貨を使っていれば、小銭がジャラジャラ手元にたまらないように、我々はあれこれ工夫をしますよね。割り勘の計算もしなければなりません。すっかり電子現金頼みになってしまえば、我々の工夫力や計算力は確実に低下していくでしょう。しかも、物理現金がなくなれば、すてきなお財布を作ってくれるデザイナーさんがいなくなってしまいます。それだけ、芸術性が死んでいきます。
 さらに、電子現金は銀行から引き出して枕の下に隠し持ったりすることが出来ません。怪しげな権力の魔の手から逃げようとする時、懐に抱いて持ち出すことも出来ません。知らないうちに、自分の口座からどこかに吸い取られてしまうかもしれません。

 こうしてみれば、日本で電子現金化が進まないことは、大いに結構なことだと思えるのです。皆さんのお考えは?

著者情報

同志社大学大学院ビジネス研究科教授

浜矩子

はま のりこ

1952年生まれ。一橋大学経済学部卒。三菱総合研究所ロンドン駐在員事務所長等を経て、現在に至る。『グローバル恐慌』『スラム化する日本経済』『ユニクロ型デフレと国家破産』『浜矩子の「新しい経済学」~グローバル市民主義の薦め~』など多数の著書がある。

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