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なぜカビと細菌がおいしい食品を作るのか?

内田麻理香(サイエンスライター/サイエンスコミュニケーター)

 チーズ、納豆、みそ、酒、しょうゆ、ヨーグルト……これらはみな発酵食品です。世の中から発酵食品が消えてしまったら、私たちの食生活はずいぶん寂しいものになります。
 そもそも「発酵」とは、食品に微生物が繁殖している状態です。微生物が繁殖していても、人体には有害どころかむしろ有益です。微生物の種類によって異なりますが、繁殖することによりでんぷん、たんぱく質、ブドウ糖などが分解され、炭酸ガス(二酸化炭素)、アルコール、アミノ酸などが生成される化学反応なのです。

 その発酵にかかわる微生物は、(1)酵母、(2)カビ、(3)細菌があります。酵母はともかくとして、カビや細菌と聞くとぎょっとしますね。しかしどれも微生物の仲間で、おいしい発酵食品を作る立役者です。このように私たちに豊かな食文化をもたらしてくれる、発酵の奥深い世界をちょっとのぞいてみましょう。

 まずは酵母による発酵(アルコール発酵)について。酵母によってできる主な発酵食品にはワイン、ビール、パンなどがあります。酵母は、ブドウ糖を食べ物にして、アルコールと二酸化炭素にせっせと分解することで得たエネルギーで生きています。
 ワインは酵母がぶどう果汁を食べ、ビールは酵母が麦芽汁を食べて分解し、アルコールを生成している発酵食品です。酵母のせっせと生きる営みを利用して、おいしい思いをしているわれわれ人間は、なんか罪深い気がしますね……。

 ちなみにパンが膨らむのは、酵母が発する気体の二酸化炭素によるものです。パンは独特の良い香りがしますが、あれも酵母が発生するアルコールやエステルという物質のおかげ。単に、ベーキングパウダーで膨らませるだけでは、あのパンの香りを出すことができないのです。

 次はカビによる発酵ですが、カビを利用した発酵食品といえば、チーズがすぐ思い浮かぶでしょう。ブルーチーズとカマンベールチーズの製造には、青カビが使われています。
 また清酒や日本の食卓に欠かすことのできない、みそ、しょうゆ。なんと、かつお節も発酵食品で、麹黴(こうじカビ)が利用されています。こうじカビは、でんぶんを糖に分解したり、たんぱく質をアミノ酸に分解する働きを持っているのです。
 清酒はこの働きを利用して、米のでんぷんをこうじカビで糖に分解し、酵母で発酵させたアルコール飲料です。また、みそやしょうゆは、大豆のたんぱく質をこうじカビで分解した後に、酵母や乳酸菌で発酵させたものです。
 このようにカビや酵母など複数の微生物が協力し合って発酵し、日本独特の食文化を作りあげているのです。ですから、みそを自宅で作っていた昔の人は、台所でびっくりするほど複雑な科学実験をしていたわけです。

 最後に細菌による発酵について。細菌と聞くと思わず身構えてしまいますが、おなじみの納豆こそ、細菌でできた最も有名な発酵食品なのです。納豆は、納豆菌が働いて大豆をアミノ酸に分解し、その結果、大豆が軟らかくなり、消化しやすい食品になるのです。
 また、ヨーグルトなどで有名な「乳酸菌」も細菌ですが、実は漬け物は、植物由来の乳酸菌からできた発酵食品です。材料となる野菜に付着した乳酸菌と糖類が発酵して漬け物ができるのです。ヨーグルトと漬け物が同じ乳酸菌からできているとは見た目からは想像つきません。

 酵母、カビ、細菌……微生物はこのようなかたちで、私たちにバラエティー豊かな食卓を提供してくれているのです。発酵食品をいただく時は、見えない微生物である彼らを少しだけでも思い出して、感謝したいものです。

著者情報

サイエンスライター/サイエンスコミュニケーター

内田麻理香

うちだ まりか

1974年千葉県生まれ。東京大学工学部、同大学院修士課程修了。科学の視点で生活を分析するサイト「カソウケン(家庭科学総合研究 所)」主宰。東京大学工学部広報室特任研究員を経て、現在、テレビ、ラジオ、新聞を通して「生活の中の科学」を分かりやすく紹介するサイエンスコミュニケーションにたずさわっている。主な著書に『科学との正しい付き合い方』(2010年、ディスカヴァー・トゥエンティワン)など。

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