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“普通の日本人”のあいまいな不安 第6回 外国人叩きで「連帯」する人たち ~勝てないリベラル、ゆがむ自民党

――慶應義塾大学総合政策学部、小熊英二さんに聞く

雨宮処凛(作家、活動家)

小熊英二氏

「『明るい選挙推進協会』という団体が選挙のたびに世論調査をしているのですが、『保守的とか革新的とかいう言葉が使われますが、あなたご自身はこの中のどれにあたると思いますか』という調査をすると、だいたい『保守的、やや保守的』が35%くらい、『革新的、やや革新的』が20%くらい、『中間』と『わからない』で40~45%くらいだそうです。いつやってもこの割合はあまり変わらない。ひとつの問題についてはっきりした意見を持っている人というのは両翼にだいたい20%くらい、真ん中の60%くらいはあまり関心がない。ですからその人たちがどの党に入れるかということが選挙結果を決めるんだと思います」
 確かに「常連」以外が動き、投票率が上がれば選挙結果は予想もつかない方向に大きく振れる。
「2010年代の選挙では、自民党と公明党の総得票数は、小選挙区でも比例代表でも合計で2600万から2700万票くらい。それに対し、いわゆるリベラル系の政党の総得票数は全部足すと2000万票くらい。そのなかで『れいわ』が伸びたり、共産党が伸びたりはあったけれども、合計数はそれほど変わらない。それから、保守系無所属といわゆる『第三極』の政党、つまり『みんなの党』とか『日本維新の会』とかを足し合わせて1000万票くらい。三者ともそれほど変動はありません。20年代になって少し変動が出るようになりましたが、それでも数%です」
 自民と公明の連立は25年10月に解消され、2026年1月には公明党と立憲民主党によって「中道改革連合」が結成。2月の衆院選は自公連立解消後初めての国政選挙となったわけだが、自民党の比例代表での総得票数は2103万票。戦後日本で最大規模の単独過半数を得た。この得票数は05年の小泉郵政選挙の2589万票に次ぐものだという。
 ちなみに郵政選挙の4年後、09年の衆院選では投票率が7割近くまでアップ。この選挙では民主党が圧勝し、政権交代。
 そうして24年の衆院選では「手取りを増やす」を掲げた国民民主が21議席増の28議席を獲得。
 と、細かく見ていくと増減はあるものの、リベラル2000万、自民公明2600万というのが2010年台以降の票数だと小熊さんは指摘する。
「なのでリベラル政党が大きく伸びるのは、2009年の時のように自民党への票が減った時しかありえないと思っています。前提として、リベラル諸政党はもともとそんなに強いわけではありません」
 なぜリベラルは負け続けるのか。それがこの数年の大きな疑問だった。が、なんのことはない、ずっと負け続けていたのだ。

排外的思考と経済状況の関係は

 一方、世界に目を転じれば、少なくない国で極右政党が伸びている。ドイツやフランスやオーストリア、イギリスなど。共通するのは移民への厳しい姿勢だ。
 翻って日本では、23年からSNSでクルド人ヘイトが沸き起こり、昨年からは前述したように移民政策反対デモが起こるようになった。そんなものを見ていて気になるのは、多くの人が「外国人は優遇されている」と口にすること。生活の苦しさを率直に語る人もいる。確かにこの数年、日本は貧しくなったと突きつけられることは多い。
 ちなみに私がこの国の「貧しさ」に最初に気づいたのは、小熊さんが18年に朝日新聞に寄稿した「観光客と留学生 『安くておいしい国』の限界」(5月31日付)という原稿を読んだことだった。
 この中で小熊さんは、1990年代の日本は「観光客にとって物価の高い国」だったが、2018年時点で「安くておいしい国」となったことを書いている。よって増える観光客数。2000年から16年にかけて、フランスでは国際観光客が7%しか伸びていないのに日本は400%も伸びたこと、そして日本の一人当たりGDPが1995年の世界3位から2017年の25位まで落ちたことも指摘されている。
 では25年の一人当たりGDPはどうかと調べてみると、なんと38位にまで転落。ちなみに日本のGDPが最大だったのは1994年で、世界の18%を占めていたそうだが現在はわずか3%台。没落のスピードが速すぎるわけだが、没落や貧困は、外国人叩きと関係があるのだろうか?
「関連する諸研究を読んだ範囲では、自分が恵まれていないと思っている人が排外主義的な言動をとるのかというと、大枠としてはノーで、部分的にはイエスというのが妥当な答えになると思います。別にGDPが伸びている国で排外主義が起きていないわけではない。国が低成長で貧困が増えているから排外主義が起こるとか、逆に経済成長していれば排外主義が起きないという単純な話ではないと思います」
 そうして小熊さんは、スイスで最近実施された国民投票の話題に触れた。6月14日、スイスでは人口の上限を2050年までに1000万人に制限するかどうかを問う国民投票が行われたのだ。
 人口制限を提案したのは、反移民を掲げるスイス国民党。移民の流入によって人口が急増し、社会インフラに負担をかけているなどと主張して投票が実施されたのだが、結果は反対55%、賛成45%。棄却となったが、半数近くが賛成した事実には驚かされた。
「スイスは物価も高く、一人あたりGDPも高いです。もちろん外国人比率も日本よりずっと高いですが、一人当たりGDPが高ければうまくいってるかと言えばそんなことはない」
 ここで小熊さんはある本を紹介してくれた。それは松谷満氏の『「右派市民」と日本政治 愛国・排外・反リベラルの論理』(朝日新書)。
 本書では、2017年に1万人以上を対象として行われた調査結果と24年の追加調査をもとに「右派市民」が分析されている。私も読んだが、「右派市民」を「愛国」「伝統」「排外」「反左」と4タイプに分けて分析した結果浮かび上がるのは、日本人の2割ほどは右派市民であるものの、4つすべてをコンプリートした「ゴリゴリの右派」は0.2%しかいないこと。また、右派市民といっても中国・韓国に否定的な発言をしつつも同性愛には寛容だったり、野党やメディアの「慰安婦捏造記事」を批判しつつも選択的夫婦別姓に賛成だったりと、ある意味「ブレブレ」なことも浮き彫りとなった。
 一方、右派市民の職業階層に関しては「特徴らしい特徴」がないという結論にもうならされた。その中でも傾向として言えるのは、生活に不満を持っている人、悩みを相談しない人が比較的多いということくらい。
「ヨーロッパなどの調査を見ていても、昔は移民排斥の党に入れる人は失業者や学歴が低い人が多いと言われたものですが、調査が進んで明らかになってきたのは、移民排斥感情を持つ人は、薄く広く満遍なく存在しているということです」(小熊さん)

著者情報

作家、活動家

雨宮処凛

あまみや かりん

1975年、北海道生まれ。反貧困ネットワーク世話人。バンギャ、フリーター、右翼活動家などを経て2000年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』(太田出版/ちくま文庫)でデビュー。2006年からは貧困問題に取り組み、『生きさせろ! 難民化する若者たち』(2007年、太田出版/ちくま文庫)は日本ジャーナリスト会議のJCJ賞を受賞。著書に『学校では教えてくれない生活保護』(‎河出書房新社、2023年)、『死なないノウハウ 独り身の「金欠」から「散骨」まで』(光文社新書、2024年)など多数。

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