“普通の日本人”のあいまいな不安 第6回 外国人叩きで「連帯」する人たち ~勝てないリベラル、ゆがむ自民党
――慶應義塾大学総合政策学部、小熊英二さんに聞く
雨宮処凛(作家、活動家)
外国人を仮想敵にすれば「連帯」できる
日本でもそんな人たちが昨今、街頭に繰り出して、あるいはSNSで外国人叩きをしているわけだが、感じるのは、「外国人を敵視すること」によって連帯感を得ているように見えることだ。
それは最悪の連帯感だが、一方、この国で「労働者の連帯」などと言っても、政府が投資を勧め、全員が「自らの生き残り」にしか興味がないように見える今、その言葉は宇宙旅行よりもリアリティがないという現実がある。
「確かにヨーロッパの歴史や戦前の日本の歴史を調べても、労働者の連帯は難しいものだと思います。お互い相手を出し抜くことしか考えてないなんて話はいくらでも出てきます。ただ、同じ炭鉱であの管理職が気に食わないということではわりと連帯できるようです」
やはり「共通の敵」がいると連帯しやすいようである。
それは最悪の連帯感だが、一方、この国で「労働者の連帯」などと言っても、政府が投資を勧め、全員が「自らの生き残り」にしか興味がないように見える今、その言葉は宇宙旅行よりもリアリティがないという現実がある。
「確かにヨーロッパの歴史や戦前の日本の歴史を調べても、労働者の連帯は難しいものだと思います。お互い相手を出し抜くことしか考えてないなんて話はいくらでも出てきます。ただ、同じ炭鉱であの管理職が気に食わないということではわりと連帯できるようです」
やはり「共通の敵」がいると連帯しやすいようである。

雨宮処凛氏
「それでも20世紀の中盤にはある種の労働者文化や組合の下に結束できたことはありました。ですが、労働者階級と言われてもそんな自覚も共通性もないし置かれてる状況もそれぞれ違う。だんだん共通の労働者文化みたいなものもなくなっていきました」
連帯の厳しさは、貧困の現場に20年いる中で最近しみじみ感じることだ。
例えば私は2008年から09年にかけての年越し派遣村の現場を知っているが、あそこには、うっすらとだが連帯の空気が確実にあった。喫煙所に行けば当事者同士が語らい、そんな場での話題は「小泉純一郎と竹中平蔵の悪口」だったりした。
あれから、20年近く。貧困はより深刻になっているというのに「敵」は当時よりわかりづらく、連帯の空気は現場を探してもどこにもない。
派遣村のような相談会をしても、当事者が口をきくのは支援者や相談員にだけ。そうして時に、「自分はたまたま運が悪くて住まいをなくしただけで、ここに来ているような怠け者とは違いますから」と口にする。自己責任論が極まる中、困窮した人間はすべて当人の努力不足という意識は派遣村の時よりずっと強まり、内面化されている。よって相談会に来る人は、あらかじめすべての他の人を軽蔑している。しかも、おそらく誰もが。人は、軽蔑している人間とは決して連帯などできない。
そんな状況が続いていた中、「外国人」を仮想敵にすることで実現したように見える日本人同士の連帯。外国人ヘイトで初めて「安心して他者と繋がった」という人もいるのではないか。小熊さんは「連帯感が心地いいというのが、排外主義のひとつの魅力だと思います」と指摘する。
連帯の厳しさは、貧困の現場に20年いる中で最近しみじみ感じることだ。
例えば私は2008年から09年にかけての年越し派遣村の現場を知っているが、あそこには、うっすらとだが連帯の空気が確実にあった。喫煙所に行けば当事者同士が語らい、そんな場での話題は「小泉純一郎と竹中平蔵の悪口」だったりした。
あれから、20年近く。貧困はより深刻になっているというのに「敵」は当時よりわかりづらく、連帯の空気は現場を探してもどこにもない。
派遣村のような相談会をしても、当事者が口をきくのは支援者や相談員にだけ。そうして時に、「自分はたまたま運が悪くて住まいをなくしただけで、ここに来ているような怠け者とは違いますから」と口にする。自己責任論が極まる中、困窮した人間はすべて当人の努力不足という意識は派遣村の時よりずっと強まり、内面化されている。よって相談会に来る人は、あらかじめすべての他の人を軽蔑している。しかも、おそらく誰もが。人は、軽蔑している人間とは決して連帯などできない。
そんな状況が続いていた中、「外国人」を仮想敵にすることで実現したように見える日本人同士の連帯。外国人ヘイトで初めて「安心して他者と繋がった」という人もいるのではないか。小熊さんは「連帯感が心地いいというのが、排外主義のひとつの魅力だと思います」と指摘する。
高市首相と安倍元首相、そして昔の自民党
なんだか絶望的な気分になるが、そんな排外主義を世界に振り撒いている代表的存在がトランプ大統領。その影響力は世界中に及び、今年6月にはコロンビアで親トランプ派の大統領が誕生し、昨年12月にはチリでやはり親トランプ派の大統領が誕生。参政党もトランプを意識していることは有名だ。
「トランプの影響力は大きいと思います。ただ、ああいう政権は第三世界では珍しくもなんともない。自分の親戚を要職につけたりとか、自分の発言によって株で儲けたりとか。とはいえ、そんな政権が南米やアフリカで起きてもそんなに注目されませんが、アメリカで起きると目立ちますし、『ああいうことをしてもいいんだ』という影響は世界に与えますよね」
高市首相はそんなトランプ大統領との「親しさ」をアピールするわけだが、小熊さんには高市首相はどう見えているだろう。
「高市さんは、強力な地盤を持つ年嵩の男性に嫌われないようにすることをやってきた人だなという印象を受けます。自民党の女性政治家の中には基盤が不安定で、中には非常に右翼的になってしまった人もいる。それは本人がというよりは、支持者がそうだからだと思います。高市さんに関しては、彼女自身が何をやりたいというのはあまりないんじゃないかと思います」
そうして小熊さんは高市首相が「政治の師」と仰ぐ安倍元首相について触れた。
「安倍さんが第一次政権で体調が悪くなって退陣せざるを得なくなったあと、2012年の自民党総裁選で返り咲くまで、支えてくれたのは『正論』などの右派雑誌に集まっているような人たちでした。彼としてはそこが一番裏切れない層だったと思います。2013年、安倍さんが靖国に参拝した時も、外交関係にも差し支えるしアメリカからもよく思われないとわかりきっていましたが、安倍さんは『私にもケア(気遣い、配慮)しないといけないところがあるから』と『強硬保守』を指して言ったと報じられています(田崎史郎『安倍官邸の正体』講談社新書、2014年)。そういう人たちは自民党の総得票数からみれば一部でも、数百万人くらいいて常に票を入れてくれるとなると頼りになります。高市さんは、それを引き継いでいる人という印象ですね」
そんな自民党支持層、昔と比べて随分と変わっているようだ。
「1970~80年代の自民党は、自治会や業界団体や農協で票を集める政党でした。地元の商店会の会長さんとか町内会の会長さんとか、保守的で、地域社会をよく知っている人が支持層の中心でした。自民党員が一番多かったのは90年代初頭ですが、当時で570万人。それ以降も200万~300万人はいたんですが、2012年、下野した時に70万台になりました。その後は増やす努力をしても100万人くらいですが、地域社会が衰退し、イデオロギー的な人が自民党員や支持層に増えているとしたら、それが党全体に影響を与えても不思議ではないですね」
そんなことが「違法外国人ゼロ」というスローガンや外国人政策の厳格化にも繋がっているのだろうか。が、そのような姿勢が「政権与党が外国人叩きにお墨付きを与えた」と認識されてもいる。ある意味「堂々」と移民政策反対デモがなされ、SNS上でも外国人ヘイトが「正義感」「使命感」とともに主張される背景に、それを強く感じる。
「トランプの影響力は大きいと思います。ただ、ああいう政権は第三世界では珍しくもなんともない。自分の親戚を要職につけたりとか、自分の発言によって株で儲けたりとか。とはいえ、そんな政権が南米やアフリカで起きてもそんなに注目されませんが、アメリカで起きると目立ちますし、『ああいうことをしてもいいんだ』という影響は世界に与えますよね」
高市首相はそんなトランプ大統領との「親しさ」をアピールするわけだが、小熊さんには高市首相はどう見えているだろう。
「高市さんは、強力な地盤を持つ年嵩の男性に嫌われないようにすることをやってきた人だなという印象を受けます。自民党の女性政治家の中には基盤が不安定で、中には非常に右翼的になってしまった人もいる。それは本人がというよりは、支持者がそうだからだと思います。高市さんに関しては、彼女自身が何をやりたいというのはあまりないんじゃないかと思います」
そうして小熊さんは高市首相が「政治の師」と仰ぐ安倍元首相について触れた。
「安倍さんが第一次政権で体調が悪くなって退陣せざるを得なくなったあと、2012年の自民党総裁選で返り咲くまで、支えてくれたのは『正論』などの右派雑誌に集まっているような人たちでした。彼としてはそこが一番裏切れない層だったと思います。2013年、安倍さんが靖国に参拝した時も、外交関係にも差し支えるしアメリカからもよく思われないとわかりきっていましたが、安倍さんは『私にもケア(気遣い、配慮)しないといけないところがあるから』と『強硬保守』を指して言ったと報じられています(田崎史郎『安倍官邸の正体』講談社新書、2014年)。そういう人たちは自民党の総得票数からみれば一部でも、数百万人くらいいて常に票を入れてくれるとなると頼りになります。高市さんは、それを引き継いでいる人という印象ですね」
そんな自民党支持層、昔と比べて随分と変わっているようだ。
「1970~80年代の自民党は、自治会や業界団体や農協で票を集める政党でした。地元の商店会の会長さんとか町内会の会長さんとか、保守的で、地域社会をよく知っている人が支持層の中心でした。自民党員が一番多かったのは90年代初頭ですが、当時で570万人。それ以降も200万~300万人はいたんですが、2012年、下野した時に70万台になりました。その後は増やす努力をしても100万人くらいですが、地域社会が衰退し、イデオロギー的な人が自民党員や支持層に増えているとしたら、それが党全体に影響を与えても不思議ではないですね」
そんなことが「違法外国人ゼロ」というスローガンや外国人政策の厳格化にも繋がっているのだろうか。が、そのような姿勢が「政権与党が外国人叩きにお墨付きを与えた」と認識されてもいる。ある意味「堂々」と移民政策反対デモがなされ、SNS上でも外国人ヘイトが「正義感」「使命感」とともに主張される背景に、それを強く感じる。