“普通の日本人”のあいまいな不安 第6回 外国人叩きで「連帯」する人たち ~勝てないリベラル、ゆがむ自民党
――慶應義塾大学総合政策学部、小熊英二さんに聞く
雨宮処凛(作家、活動家)
不安には理由がある
そんな排外的な空気に対抗するためには、どのようなことが効果的なのだろう。
「それについてはいろんな国で研究しています。経済的に格差をなくすことが効果があるんじゃないかとか、対話教育を増やせばよくなるんじゃないかとか。さまざまな意見がありますが、これをやったら即効性がありすぐ効く、ということはないと思います」
やはりいまだに、誰も答えを出していないのだ。そんな中、SNSには目を覆いたくなるようなヘイトが溢れている。が、小熊さんはSNSで言い争うことには懐疑的だという。そうしてマーシャル・マクルーハンが、視覚優位と活版印刷からナショナリズムが出てきたという説を唱えていると教えてくれた。
「『グーテンベルクの銀河系』というメディア論の古典で述べられたものですが、世界というものは複雑で、嗅覚や触覚や聴覚に満ち溢れているのに、アルファベット26文字に全部縮約することへの批判です。そこから世界や個々人を単純化・均質化して、集団として数量で語るようになるというのがマクルーハンの主張の骨子ですけど、それはある程度正しいと思います。ネット上でみんな活字を見ていて、視覚にしか頼っていない。人間は対話する時に聴覚や触覚や嗅覚が作用して複合的に情報が入るから変化するのであって、ネット上の活字のやりとりという視覚だけに頼った対話で変化するということはまずないと思います」
それでは、対面での対話はどうなのか。
「お前を説得しに来た、これが正しい考え方だからこれを身につけろと言う人に説得される人はたぶんいないと思います。あなたも変わるが自分も変わる、というかたちでお互いが次の段階に進むということはあるでしょう。対話(弁証法)というのはそういうものですから。ただそれも、言葉のやり取りだけではなくて人間との関係、人との結びつきで変わるということの方が多いと思います」
ここで小熊さんは、インドでヒンドゥー右派の人々と会った時のことを話してくれた。
彼らはスラムに学校を作り、子どもたちに読み書きやミシンの使い方を教えたりという「いいこと」をしていたという。それと同時に子どもたちに「イスラム教徒は犬だ」とも教えていたというからのけぞった。
が、「いい人」と「排外主義者」は同居することを、小熊さんは「全然不思議なことではないです」と言う。
何かこの辺りに、重要なことがありそうだ。例えば世界各国の極右政党だって、排外的な主張をしているだけでなく、そのことによって自国民を守ると主張している。不安を抱える人たちの中には、それを頼もしく思う人がいて当然だ。
ここで最近読んだ記事「オランダの選挙歴戦を制した政治戦略家が語る『ポピュリズムの物語に対抗する究極の処方箋とは何か?』」(Forbes Japan、2026年6月29日付記事)を思い出した。タイトル通り、オランダの与党・自由民主国民党(VVD)の選挙戦略家として極右政党と戦ってきたバス・アーリングス氏へのインタビュー。
その中で、バス氏は「日本でも低賃金の移民労働者が増える中で、排外的な反発が強まっている。デリケートな移民の問題で、非ポピュリストの側はどんな立場を取るべきか」と聞かれ、以下のように答えている。
「二つの失敗パターンがある。一つ目は、移民へのあらゆる懸念を不当なものとして扱うことだ。自分の住む地域が急速に変わり、公共サービスが逼迫し、統合がうまくいっていないと気づく人々は、その大半が人種差別主義者なのではない。自分が観察したことを、ありのままに報告しているだけだ。それを偏見だと切り捨てれば、本来こちらが届けるべき相手を、かえってポピュリストの腕の中へ押しやってしまう」
そんな光景をこの1年、少なくない数、目にしてきた。そして「素朴な不安」を入り口に排外的な言説に一気に振れる光景も。しかし、不安には当然、理由がある。
「外国人は日本ではそんなに人口比で多いわけではありません。ですが最近の増え方の比率が大きく、また政府の政策がまったく見えないので不安を煽っている面はあると思います。でも『不安です』と言うなら、外国人に言うよりも、政府に『いったい外国人政策をどういうふうにしようとしているのか、はっきりさせてください』と言ったほうがいいと思います」と小熊さんは言う。
まったく同感だ。政府からは、「移民政策はとらない」と言いながらも現実とは乖離してる実態へのアナウンスはおろか、これからのヴィジョンさえ一切示されていない。そのことが、確実に不安を増大させている。
「それについてはいろんな国で研究しています。経済的に格差をなくすことが効果があるんじゃないかとか、対話教育を増やせばよくなるんじゃないかとか。さまざまな意見がありますが、これをやったら即効性がありすぐ効く、ということはないと思います」
やはりいまだに、誰も答えを出していないのだ。そんな中、SNSには目を覆いたくなるようなヘイトが溢れている。が、小熊さんはSNSで言い争うことには懐疑的だという。そうしてマーシャル・マクルーハンが、視覚優位と活版印刷からナショナリズムが出てきたという説を唱えていると教えてくれた。
「『グーテンベルクの銀河系』というメディア論の古典で述べられたものですが、世界というものは複雑で、嗅覚や触覚や聴覚に満ち溢れているのに、アルファベット26文字に全部縮約することへの批判です。そこから世界や個々人を単純化・均質化して、集団として数量で語るようになるというのがマクルーハンの主張の骨子ですけど、それはある程度正しいと思います。ネット上でみんな活字を見ていて、視覚にしか頼っていない。人間は対話する時に聴覚や触覚や嗅覚が作用して複合的に情報が入るから変化するのであって、ネット上の活字のやりとりという視覚だけに頼った対話で変化するということはまずないと思います」
それでは、対面での対話はどうなのか。
「お前を説得しに来た、これが正しい考え方だからこれを身につけろと言う人に説得される人はたぶんいないと思います。あなたも変わるが自分も変わる、というかたちでお互いが次の段階に進むということはあるでしょう。対話(弁証法)というのはそういうものですから。ただそれも、言葉のやり取りだけではなくて人間との関係、人との結びつきで変わるということの方が多いと思います」
ここで小熊さんは、インドでヒンドゥー右派の人々と会った時のことを話してくれた。
彼らはスラムに学校を作り、子どもたちに読み書きやミシンの使い方を教えたりという「いいこと」をしていたという。それと同時に子どもたちに「イスラム教徒は犬だ」とも教えていたというからのけぞった。
が、「いい人」と「排外主義者」は同居することを、小熊さんは「全然不思議なことではないです」と言う。
何かこの辺りに、重要なことがありそうだ。例えば世界各国の極右政党だって、排外的な主張をしているだけでなく、そのことによって自国民を守ると主張している。不安を抱える人たちの中には、それを頼もしく思う人がいて当然だ。
ここで最近読んだ記事「オランダの選挙歴戦を制した政治戦略家が語る『ポピュリズムの物語に対抗する究極の処方箋とは何か?』」(Forbes Japan、2026年6月29日付記事)を思い出した。タイトル通り、オランダの与党・自由民主国民党(VVD)の選挙戦略家として極右政党と戦ってきたバス・アーリングス氏へのインタビュー。
その中で、バス氏は「日本でも低賃金の移民労働者が増える中で、排外的な反発が強まっている。デリケートな移民の問題で、非ポピュリストの側はどんな立場を取るべきか」と聞かれ、以下のように答えている。
「二つの失敗パターンがある。一つ目は、移民へのあらゆる懸念を不当なものとして扱うことだ。自分の住む地域が急速に変わり、公共サービスが逼迫し、統合がうまくいっていないと気づく人々は、その大半が人種差別主義者なのではない。自分が観察したことを、ありのままに報告しているだけだ。それを偏見だと切り捨てれば、本来こちらが届けるべき相手を、かえってポピュリストの腕の中へ押しやってしまう」
そんな光景をこの1年、少なくない数、目にしてきた。そして「素朴な不安」を入り口に排外的な言説に一気に振れる光景も。しかし、不安には当然、理由がある。
「外国人は日本ではそんなに人口比で多いわけではありません。ですが最近の増え方の比率が大きく、また政府の政策がまったく見えないので不安を煽っている面はあると思います。でも『不安です』と言うなら、外国人に言うよりも、政府に『いったい外国人政策をどういうふうにしようとしているのか、はっきりさせてください』と言ったほうがいいと思います」と小熊さんは言う。
まったく同感だ。政府からは、「移民政策はとらない」と言いながらも現実とは乖離してる実態へのアナウンスはおろか、これからのヴィジョンさえ一切示されていない。そのことが、確実に不安を増大させている。
政治による「弱いものいじめ」
そんな不安がこの国の空気を変えているわけだが、日本にいる外国人はそれをよく知っている。中でも敏感に察知し、怯えているのは子どもたちだ。
選挙になれば街頭で候補者が「外国人は出ていけ」とスピーチし、TikTokでは排外的なインフルエンサーが人気を集める。あるアフリカ系の高校生はこの1年、排外的な話題が学校で出てもすぐに対応できるよう、「常に話を変えるための話題をストックしている」と話してくれた。
一方、ウガンダ出身の20歳の女性の言葉も忘れられない。
その言葉を聞いたのは、日本生まれ・日本育ちの子どもたちの在留資格を求める集会でのこと。
「日本人ファースト」以前、そのような集会で子ども・若者からメッセージが発される場合、無邪気に「私たちにビザをください」というものが多かった。しかし、2025年11月の集会で代読されたのは、以下のようなものだった。
「日本は今、労働者を求めています。私たちは日本の生活の仕方を理解していますからご迷惑はかけません。日本も我々を必要とし、我々は日本を必要としています。一部の非正規滞在者は日本社会が必要とする高度な技能を持っています。日本生まれの子どもたちをどうかおゆるしください」
「どうかビザを発給してください。そして納税義務を私たちに果たさせてください。私たちに、日本社会に貢献させてください」
「日本人ファースト」以降、どんな罵声よりもショックを受けたのは、この丁寧な、あまりにもへりくだった懇願かもしれない。
選挙になれば街頭で候補者が「外国人は出ていけ」とスピーチし、TikTokでは排外的なインフルエンサーが人気を集める。あるアフリカ系の高校生はこの1年、排外的な話題が学校で出てもすぐに対応できるよう、「常に話を変えるための話題をストックしている」と話してくれた。
一方、ウガンダ出身の20歳の女性の言葉も忘れられない。
その言葉を聞いたのは、日本生まれ・日本育ちの子どもたちの在留資格を求める集会でのこと。
「日本人ファースト」以前、そのような集会で子ども・若者からメッセージが発される場合、無邪気に「私たちにビザをください」というものが多かった。しかし、2025年11月の集会で代読されたのは、以下のようなものだった。
「日本は今、労働者を求めています。私たちは日本の生活の仕方を理解していますからご迷惑はかけません。日本も我々を必要とし、我々は日本を必要としています。一部の非正規滞在者は日本社会が必要とする高度な技能を持っています。日本生まれの子どもたちをどうかおゆるしください」
「どうかビザを発給してください。そして納税義務を私たちに果たさせてください。私たちに、日本社会に貢献させてください」
「日本人ファースト」以降、どんな罵声よりもショックを受けたのは、この丁寧な、あまりにもへりくだった懇願かもしれない。
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