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常識を疑え!

ファーストレディーはなぜ注目されるのか?

香山リカ(医師)

 鳩山新政権が何かと注目されるのは当然だが、首相夫人の幸(みゆき)さんもかなりの注目を集めている。60代とは思えぬスタイルやファッションと社交性や華麗な経歴。そしてスピリチュアルな世界や超常現象にも興味があり、かなりの大胆発言をしたこともあったようだ。

 一方、アメリカのオバマ大統領夫人、ミシェルさんも庶民的なファッションや気さくな振る舞いで人気が高いが、一部では「ショートパンツ姿で人前に出るなど、あまりにカジュアルすぎるのでは」と批判する人もいるらしい。本人は、「たまたま夫が大統領になったら、ちょっとした服装ひとつであれこれ言われるなんて」とうんざりしているかもしれない。

 このように、ファーストレディーはどこの国でも何かと注目され、マスコミでの格好の話題となる。ところが日本では、安倍首相時代、夫人が「アッキー」という愛称で呼ばれたり、夫と手をつないで飛行機のタラップを降りたりして一時、注目を集めたが、それ以外では麻生夫人も福田夫人もあまり目立たず、小泉総理に至ってはファーストレディーが不在。そういう意味では、注目しようにも話題性のある首相夫人があまりいない、というのが実情であった。

 肝心なのは何といっても首相本人が何をやるかなのだから、その夫人のことなど大して重要な話題でもない、と言う人もいるだろう。しかし、首相の政治手腕そのものを直接、ほめたりけなしたりするのは、時としてその場の空気を緊張させたり、場合によっては意見の対立を招いたりするかもしれない。ビジネスの場などでは、双方の政治的見解が異なることがはっきりするのは、必ずしもプラスに働かないこともある。

 では、それほど深いつき合いでない相手との雑談で何を話せばよいのだろう。かつてのように「プロ野球や大相撲」「美空ひばりや裕次郎」など誰もが共有できる話題があった時代はそれですんだが、今やそういった“無難な国民的関心事”はほとんどない。趣味もどんどん多様化し、「ゴルフなさいますか?」ときいて「いや、ゴルフは全然。急流をボートで下るラフティングが好きなんですよ」などと言われても、会話はなかなか続かない。

 そうなると、時の政府や首相の話をしないわけにはいかない。たとえば今なら長時間、いっしょにいて、相手と一言も新政権の話題を話さない、というのはかえって不自然だろう。とはいえ、いきなり「鳩山さん、二酸化炭素の削減で思いきった提案しましたよね」などと話題を出して、次に自分が「すばらしい」、相手が「けしからん」と同時に言う、などという事態になるのも問題だ。

 そんなときに使えるのが、このファーストレディーをめぐる話題だ。「鳩山夫人、ちょっとハデすぎませんか?」と言って、たとえ相手が「いや、華やかでいいんじゃないですか」と反論してきても、それほど険悪なムードにはなるまい。逆に「実は私は清楚(せいそ)な女性が好きなもので」「なるほどね」などと盛り上がるかもしれない。

 このように、政治や政府にまつわる話はしたいが、いきなり本質的な話は危険、というとき、ファーストレディーの話題はよい入り口、よいクッションになってくれるのだ。ひととおり、夫人の論評で場の雰囲気ができ上がったところで、おもむろに「ところであの政策ですが」と持ち出してみるのもよいかもしれない。

 首相自身にとって自分の妻はいちばんの理解者であり、一般の人たちと自分との緩衝地帯であるのは言うまでもないが、実は私たちにとっても同じ。ファーストレディーの服装や発言といったあたりさわりのない話題をクッションにしつつ、初対面の人たちもお互いの距離を測ったり関係性を作り上げたり。本人が望むと望まないとにかかわらず、ファーストレディーには政治の舞台でも私たちの生活の場面でも、おおいに活躍してもらわなければならないことになっているのだ。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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