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常識を疑え!

新入社員はなぜ内向き志向なのか?

香山リカ(医師)

 日本生産性本部が発表した2009年度の「新入社員・半年間の意識変化調査」が話題になっている。

 まず注目されたのが、「人より多くの賃金を得なくとも食べていけるだけの収入があれば十分」とする回答が過去最高の47.1%だったこと。ただし、「そう思わない」とする回答は、それより多い52.9%。

 さらに「年齢・経験を重視して給与が上がるシステム」や「年齢や経験によって、平均的に昇格していく職場」を希望する回答が、それぞれ48.1%、39.7%と過去最高であった。また「仕事をする上で上司・同僚が1番目に大切だ」とする回答が4年連続して増加し、過去最高の30.2%に上った。

 つまり最近の新入社員は、会社に「終身雇用、年功序列」の従来の方式を望み、人間関係を重視し、“そこそこの生活”ができればそれでよし、とする。そんな仕事観、会社観が見えてくるというわけだ。

 多くの識者たちは、その背後に「金融危機や不況の影響」を見る。こんな時期に野心を抱き、「我こそは」と起業などで大きな成功を目指しても、うまくいかないどころか取り返しのつかない失敗をすることにもなりかねない。それよりは、たとえ小さくまとまることになったとしても、しっかりした会社で手堅く働き、そこそこの収入を得て生活していくほうがずっとよい。そう考える若者が増えるのも、ある意味で当然なのかもしれない。

 しかし一方で、そんな“夢のない若者”が増えると、次第に社会の勢いがなくなり、国としての成長も見込めなくなる、と心配する声も聞こえてくる。たしかに最近は、学生たちも留学どころか海外旅行にさえ出かけなくなり、“鎖国化”が進む一方、と指摘する人もいる。

 ここで問題なのは、内向き志向に伴う心の状態だ。本当は野心を持ってがんばりたいのだけれど、そんなことをしてもどうせうまくいかないから、とネガティブな気持ちで内にこもれば、次第に自己肯定感も低下し、あたりまえの意欲さえなくなってくる。もちろん、周囲の人のことを気づかう余裕も目減りし、自分を守るので精一杯、とむしろ他人を排除するようになっていく。

 ただ、同じ内向き志向でも、「今はまわりにいる人たちと協力してやっていく時期だから」と積極的に選択されたものであれば、また話は違う。同僚、友人、家族といった身の回りの人たちに対しても思いやりを持ちながら、お互いの力を持ち寄って仕事や生活に臨み、ピンチを切り抜けていく。そんな“ぬくもりのある内向き志向”であれば、決してそこから社会全体が萎縮していくことにはならないはずだ。

 最近は、運動会や社員旅行といった社内行事を復活させる企業が増えている、とよく聞く。それなどもこの内向き志向の表れであるが、そこで社員どうしにゆるやかな連帯感が芽生え、「ここにいる人たちはお互い助け合っていこう」という相互扶助の意識が育まれるならば、それは決して悪いことではない。

 自分だけ抜きん出て、まわりの人のことなどどうでもよい、という“勝ち抜け社会”から、少なくとも顔見知りの間がらでは助け合いつつやっていこう、という“町内会型社会”へ。これは必ずしも悪いことだとは思わないのだが、どうだろう。今年の4月の入社式で、企業の経営者たちはどういうあいさつをするのか。「ひとりひとりが大きな夢を持ってがんばれ」なのか、「みんなで力を合わせて乗り切ろう」なのか。注目したいところだ。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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