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常識を疑え!

なでしこジャパンはなぜ強いのか?

香山リカ(医師)

 ワールドカップ優勝という快挙をなし遂げた「なでしこジャパン」。自分たちよりランキングの高い国のチームを次々、破っての優勝であった。しかも、アメリカ相手の決勝戦は先行を許し、同点に追いつき、さらに突き放されてまた追いつく…、というまさに手に汗握る展開の末のPK戦での勝利。キャプテン澤選手の「最後まであきらめない」という言葉がそのまま形になったかのような、感動的な試合であった。

 それにしても、なぜ彼女たちは、あれほどまでに強いのか。もちろん、「実力があるから強いのだ」ということなのかもしれないが、ここでは土壇場での精神力の強さについて考えてみたい。

 彼女たちのメンタル面での強さを理解するキーワード、それは「逆境」であろう。

 まず、第一の「逆境」は、「女であること」。男女共同参画社会となった現代だが、それでも選手たちの中には、子ども時代に「女なのにサッカーなんて」と言われた経験がある人もいるそうだ。女の子が、たとえばピアノやバレエが上手だと、両親は手放しで喜ぶ。スポーツであっても、バレーボールやテニスなら「おおいにやりなさい」ということになるだろう。ところが、サッカーや格闘技となると話は違ってくる。「運動能力があるならほかのスポーツにしたほうが」などと難色を示される人もいるのではないか。女子のサッカーにしても格闘技にしても、全体から見ると少数派だからだ。

 親にしてみれば、「もっとメジャーな道を選択したほうがいいんじゃない?」というのは、いわゆる“親ごころ”だ。これまた今は少なくなった意見かもしれないが、理系を選択しようとする女の子に「理系だと就職先もないし、お嫁にも行けなくなる」などと言って止めようとする“親ごころ”にも似ている。どちらも、親としては子どもを思うがゆえのアドバイスだが、結果としてそれは子どもの自主的な選択を阻んでいることになる。

「なでしこ」の選手たちは、そういった「女の子がサッカーなんて」といった声にもめげることなく、ひたすら自分のやりたいことを続けてきた。しかし、「逆境」はそれだけではない。社会的にも、女子サッカーは男子サッカーのJリーグのように注目されることは少なく、試合のテレビ中継などもほとんどなければ、経済的支援も十分とは言えない。選手の多くは、プロとはいえ非常に低い収入で生活していたり、職業を持っている人もいるという。

 せっかくやりたい道に進み、そこでがんばって世界で戦えるレベルになっても、なかなか恵まれた状況にはならない。努力不足、実力不足と言われればまだがんばれるが、努力も実力も十分で、環境がそれを認めてくれないだけなのだ。「じゃ、これ以上、何をやればいいの?」と自暴自棄になりそうなこともあったのではないか。

 それでも、なでしこジャパンの選手たちは、それぞれがいろいろな逆境と戦いながら、粘り強く競技を続けてきた。「やってください」と誰かに頼まれてではなく、「どうしても私がやりたい」という強い主体性があったからこそ、彼女たちはここまで努力を継続して来れたのだろう。その逆境の中でのがんばりこそが、「あきらめない」という強い気持ちと追い詰められてからの底力を育んだと思われる。

 こう言えば、「やはり子どもを育てるのに必要なのは、ハングリー精神か」と言われてしまいそうだ。たしかにそれは一理あるのだが、だからといって人工的に作り上げた逆境では、子どもは「それでもがんばる」と努力を継続できない。ではどうすれば、なでしこジャパンのように、「みんなに反対されてもやりたい」と努力し続ける“強い子ども”が育成できるのだろうか。今後、彼女たちのインタビューなどを通して、何かのヒントは得られるのか。なでしこたちの発言に注目したい。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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