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常識を疑え!

日本の先生はなぜ働きすぎなのか?

香山リカ(医師)

 先ごろのOECDの発表(図表でみる教育2011)によると、日本の小学校の先生は世界の中でも、トップクラスの“働き者”であることがわかった。調査した21カ国の中で、勤務時間がアメリカに次いで世界第2位の年間1899時間であったのだ。

 とはいえ、長いのは授業時間や部活の時間ではない。授業にかかわる時間は、むしろ平均を下回っているのだという。

 では、先生たちの勤務時間は何に費やされているのか。想像にかたくないと思うが、それは「事務作業」だ。他国に比べて膨大に多い書類作成などの事務作業が、日本の先生たちを「働きすぎ」に追い込んでいるのだ。さらにつけ加えれば、勤務時間は増えているのに先生たちの報酬は下がる傾向にあるのだという。

 事務作業による労働時間の増加。これは、二重の意味で先生たちにとってはストレスとなる。

 まず、単純に長時間労働による疲労、負担という問題がある。最近の産業保健の研究では、長時間労働が循環器系などの身体疾患、そしてうつ病などのメンタル疾患と強い関係を持つことが常識となりつつある。だから、厚生労働省でも月100時間を超える長時間残業をした場合、労働者を産業医と面談させるよう、事業所長に指示しているのである。

 ただ、おそらく学校という職場の場合、生徒に対する校医はいても、先生や職員をケアする産業医が配属されているところはほとんどないはずだ。それどころか、残業をカウントする習慣もない、という学校が多いのではないだろうか。

 長時間労働そのものがストレスになっているのに加え、さらに先生たちを苦しめているのが、その内容が「事務作業」ということだ。現場の先生たちは、いまの教育に危機意識を持っており、「少しでも生徒たちとふれ合いたい」と願っている。授業だけではなく、放課後などにいっしょに遊んだり歌ったりする時間、個別に相談に乗る時間なども必要だ。

 ところが、年々増える一方の事務作業が、先生たちの現場、つまり教室や運動場などにいられる時間をどんどん削減する。「子どもたちといっしょにいたいのに、いられない。それがいちばんのストレスです」と診察室で語ったうつ病の先生もいた。よく知られているように先生のうつ病も激増しており、今や先生の退職の理由の半分は「メンタル疾患」が占めるまでになった。

 一般の職場なら、まず考えられるべき対策は「労働時間の短縮」だろう。しかし、先生たちの場合は、単純な短縮よりも先に講じるべきは、「授業などと事務作業との適正なバランスの回復」なのではないか。先生たちの中には、「多少、学校にいる時間が長くても、子どもとふれ合えるなら問題ない」と考えている人たちも少なくないのだ。

 その昔、「学校の先生は安定しているし、休みもたっぷりあるし、いい仕事だよね」などと言う人がいた。しかし、冒頭にあげた先生たちの平均労働時間は、今や日本の全労働者の平均労働時間、年間1754時間(厚生労働省調べ)を上回っている。さらに、保護者への対応も以前と比べてむずかしくなっていたり、人事評価制度が導入され“やりたい教育”がやりにくくなっていたり、食育、キャリア教育に英語など学校に求められることは増える一方だったり、と先生たちをめぐる状況は厳しくなるばかりだ。

 もちろん、不祥事を起こすなど問題のある先生もいることにはいるが、多くはまじめで情熱的な教育者。「子どものためにがんばるぞ!」という若い先生たちのモチベーションが激務で次第に失われていくのは、社会にとっても大きな損失だ。子どもたちのためにも、先生たちを理解し、サポートしていく体制が整えられることが望まれる。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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