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常識を疑え!

韓流はなぜここまで根強いのか?

香山リカ(医師)

 とどまるところを知らない、韓流ブーム。

 この夏は一部で、日本のマスコミは韓流をゴリ押ししているのではないか、と不審に思う若い人たちがデモを繰り広げるなど、“反韓流”の動きも見られた。しかし、ドラマが好きな女性やアイドル好きの若者などの韓流ブームは根強い。

 ドラマ、映画、音楽といったいわゆる文化コンテンツの世界での韓流ブームは、韓国による国策だという声もある。たとえば、日本はこれまでコンテンツの著作権を重視、海外に出回る海賊版や動画サイト、違法ダウンロードなどにも目を光らせてきた。ところが、韓国のポピュラー音楽、いわゆるK-POPの場合は、たとえ海賊版や無料ダウンロードが横行しようとも、その名前や楽曲が広く知られたほうがよい、という姿勢を見せる。そして、いよいよ本格的に海外デビューというときには、もうそのミュージシャンの顔や音楽はおなじみになっており、最初から“大物扱い”。CMに出演したり情報番組にゲスト出演したりできる、というわけだ。

 また、そうやって国をあげて送り込まれる俳優やアイドルたちは、いずれも非常にレベルが高い。子どものころから英才教育を受けて、完璧な演技やダンスを身につけている。それと同時に、プロ意識も徹底しており、明るさ、礼儀正しさ、ファンへのサービス精神なども抜群だ。

 私も、コメンテーターをしている朝の情報番組で、ゲスト出演の韓流アイドルを間近で見る機会がある。一度、あるグループのダンスが少しかみ合わなかったことがあった。そのコーナー中は、踊りに遅れた子も「失敗しちゃった、エヘヘ」と笑顔を見せていたのだが、カメラが別のほうに切り替わった瞬間、表情が一変し、悔しそうな顔になってくちびるをかんだ。彼女たちにとってダンスや演技は、「遊び」でも「自分さがし」でもなく、「お仕事」であり「国家的なプロジェクトの重要な使命」なのかもしれない。

 そういう仕掛けを施されたら、「昨日まで“ふつうの高校生”をやってました」「芸能人になってもプライベートは大切にしたい」といった日本のタレントがかなうわけはない。

 ここで、「日本も国家戦略として音楽やドラマを外国に売り込め」という声もある。たしかに、日本の連続ドラマやAKB48などのアイドルは、台湾を中心にとくに東南アジアで人気があり、対日感情が悪いと伝えられている中国にも、そのファンが大勢いるといわれる。

 とはいえ、日本も“国をあげて”という姿勢になりすぎるのは、どうなのだろう。タレントやミュージシャンが全員、あまりに高いプロ意識を持ちすぎ、完璧を期して演技や演奏に臨む。遊び感覚の人はいなくなり、「次は誰が海外で成功するか」といった緊張感が芸能界にみなぎるかもしれない。

 それはたしかに質の向上にもつながるだろうが、見ている私たちはちょっとしんどくなるのではないだろうか。私たちは、何も上質の芸術を見たくてテレビをつけているのではなく、ときに“ゆるキャラ”に接する感覚で、どこにでもいる若者や女性が、たまにドジも踏みながら歌ったり話したりするのを見て、肩の力を抜くこともある。「なーんだ、あんな人でも芸人として通用しているのだから、私だってこれでいいんだ」と彼らの“おバカぶり”に自信を取り戻すこともあるはずだ。

 プロ意識に感動したいときには、韓流で。でも、リラックスしたいときは自国のタレントたちで。視聴者はうまく使い分けをしながら、楽しんでいると思う。「いや、やっぱり日本の俳優やミュージシャンも世界に売り込まなくては」といった戦略を選択するかどうかは、また別の話なのではないだろうか。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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