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常識を疑え!

なぜ「死への準備」は必要なのか?

香山リカ(医師)

 日本の人口減が、予想を上回るスピードで進んでいる。2011年の自然減は20万4000人。減少幅は過去最大となったという。ワイドショーは平和に「芸能界は妊娠、出産ラッシュです」などと取り上げているが、少子高齢化の勢いは止まりそうにない。

 それに伴って、高齢者の単身世帯、あるいは夫婦ふたり世帯も増えている。そういった人が亡くなると、すぐに問題になるのは遺品の処理。子どもや親戚がいたとしてもなかなか片づけに来られない、あるいは遺った人も高齢なので手をつけることさえできない、といった話を、診察室でもときどき耳にする。

 では、そんなときはどうすればよいのだろう。「すべて捨てて」というのであれば廃品回収を行う業者にまかせればよいが、形見分けもしたいし、布団などはただ処分するのではなく供養したい。リサイクルにまわせる品はそうしてもらいたい…。

 そんな願いを持つ人が増える中、注目を集めているのが「遺品整理業」と呼ばれる新しい分野のプロだ。その草分けとも言えるのが、02年に日本初の遺品整理専門会社として設立された「キーパーズ」。それ以来、全国各地で8000人を超える人たちの「遺品整理」を手がけてきたという。

 この「キーパーズ」の吉田太一社長は、著作も多く、故人や家族のためのみならず、高齢者たちに少しでも実り多い人生を楽しんでもらうためのさまざまな社会活動を行っている。そのひとつが、「おひとりさまでもだいじょうぶノート」と呼ばれるノートの制作だ。これを数万冊単位で無料配布する吉田社長の試みは、繰り返しメディアで取り上げられている。

 このノートには、主にひとり暮らしの高齢者のために、すぐに役立つ情報や暮らしのヒントが書かれているとともに、「いざ」というときの連絡先やどんな終末期医療、どんな葬儀や埋葬を望んでいるか、相続や形見分けに希望はあるかといったことを書き込めるスペースもたくさん用意されている。

「どう死ぬかとか死んだ後どうするか、なんて考えて書いているうちに、気が滅入ってくるんじゃないか」と思う人もいるかもしれない。しかし、このノートに限らず、同じようないわゆる「エンディングノート」は数多く出版され、いずれも高い一定の評価を得ている。しかも、遺された家族にとって役に立つだけではなく、本人自身も「じっくり自分の最期のあり方に向き合って気持ちの整理がついた」「やるべきことを終えた気がして、やけに前向きな気分になれた」などと述べるケースが多い。

 もちろん、いくらあれこれ“そのとき”を想像して書き込んだとしても、たとえば「どこで死を迎えたいか」などについては、必ずしも希望通りになるかどうかはわからない。「延命のための医療はやめて」と書き込んでも、倒れて搬送された先が救急病院なら、医療者はマニュアル通りの処置をしてしまう場合がほとんどだろう。

 では、いくらキーパーズのノートや市販のエンディングノートに書き込んでも無意味なのか、というとそれは違う。「私はどんな最期を迎えたいか」ということについて一度、じっくり向き合うことは、生きているいまの日々を心おだやかで充実したものにするためにも必要なのだ。中にはノートに書き込むだけでは足りず、「将来、遺品となる自分の家財道具を自分自身の目で確認し、整理する」という「事前整理」というサービスを利用し、「もしものときにはお願いね」と“予約”までして、ようやく「これで心配はなくなった」と胸をなで下ろす人もいるという。

 少子化をなんとか食い止めるための対策も重要だが、確実に到来する超高齢社会を不安なく迎えられるための新しい仕組みやサービスも早急に整えられなければならない。「おひとりさまでもだいじょうぶノート」はその大きな一歩であろう。

著者情報

医師

香山リカ

かやま りか

1960年北海道生まれ。東京医科大学卒業。学生時代より雑誌等に寄稿。その後、精神科医として臨床に携わりながら、一般読者向けの著作活動を行う。著書に『女は男のどこを見抜くべきか』(集英社)、『執着 生きづらさの正体』(集英社クリエイティブ)、『「いじめ」や「差別」をなくすためにできること』(ちくまプリマー新書)、『61歳で大学教授やめて、北海道で「へき地のお医者さん」はじめました』(集英社クリエイティブ)など多数。

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